第13話 一人の時間
疲れた…。
体力の消耗が激しい。
軽くグラウンド10周したぐらいだ…。
まだ、走ったほうが終わってからの爽快感もあるかもしれないが、
今は疲労感でいっぱいだった。
今日は午前中しか講義がなかったはずなのに…。
やだなぁ…絶対明日は裕子に質問責めにされる。
あの別れ際の顔…すごく楽しそうだった。
きっと、芸能リポーター並にあれこれ質問してくるだろう。
でも、聞かれたところで一体なんて答えたらいいのか…。
婚約者だけど私はまだ認めていないし、
でも、彼は絶対結婚するとか言っていたし…。
結局どういうことなんだと言われそうだが、私だってわからない。
今のこのよくわからない状況を誰か、教えてほしいものだ。
「私が望めば、政略結婚も幸せな結婚になる…か…。」
簡単に言ってくれるが、そんなこと普通は簡単にできない。
それは、私だって幸せな結婚ができるに越したことはないとは思う。
でも、やっぱり会ったばかりの人に対して、そこまで割り切れない。
“知らないなら知ればいい”とも言っていた。
確かに彼のことなんて何も知らない。
もし、彼のことを知ることができれば、
自分から結婚したいと思えるようになるのだろうか?
…見つめられて、名前を呼ばれるだけで赤面状態なのに?
この段階では、なかなか難しい。
それにしても、なぜか向こうは私のことを知っていると言っていた。
会ったこともないのに…。
私の身辺に聞き込みでもして、調査したのだろうか…?
別に私について調べたところで、とくに何がわかるわけでもない。
彼のことに関しては、まだまだ考えることが多そうだ。
彼には、友達と約束があるからと言ってカフェで別れたが、
そんな約束など誰ともしていない。
でも、このまま家に帰る気にはなれなかったので、
近くのショッピングモールに行って時間を潰した。
服や雑貨などを見たり、コーヒーショップでくつろいでいると、
時間はあっという間に経って、店を出る頃には明るかった空も、
すっかり日が落ちて暗くなっている。
ずいぶん長居したなと思いながら、数分ほど駅まで歩いて、電車に乗った。
父からは、「電車など使わずに車で行け」と言われていた。
しかし、それは自分で運転するのではなく、
運転手に乗せて行ってもらうということを意味している。
冗談ではない。そんな恥ずかしいマネなど出来ない。
私の家はまあまあ裕福であると思うが、それを他人には知られたくなかった…。
あくまでも、自分は普通の子と同じでいたい。
自分が社長令嬢だなどと友達にばれてしまったら、
きっと私に気を使うだろう…。
だから、通学もみんなと同じように電車を使っている。
父は今だに反対しているみたいだ…。
たぶん、金持ちは車での送迎をするものだとかいう、
くだらない概念を持っているのだと思う。