第9話 お互いの理由
私に似ていると感じたから、
だから、彼のことを知りたいと思ったのだ。
「そうか…。でも君には、僕自身を見て欲しい。」
「…なぜですか?」
彼がこんなことを言うのが理解できなかった。
「結婚相手に自分のことを知ってもらいたい、
見てもらいたいと思うのは当然だろう?」
それは、好き合う者同士なら当然だが、私たちは違う。
別に好き合っていない。
第一、私は結婚に反対している。
「昨日お話しましたが、私はこの結婚には反対しています。
だから、あなたと結婚することはできません。」
もう一度自分の意志をはっきりさせておこうと思った。
「僕も昨日言ったけど、君と僕が結婚することは決まったことだ。
君が嫌がっても結婚してもらうよ。」
確かに以前彼は同じことを言った。
…けど、やっぱり理由がわからない。
「なぜ私なんです?
父はあなたが私の写真を偶然見て、気に入ったからだと言っていましたが…。
あなたなら、私よりもふさわしい人がいるはずです。」
どうして私でなければいけないのだろう。
他に彼に見合う美しい女性はたくさんいるはずだ。
「相手は君でなければならない。それ以上の理由なんてないよ。」
「質問の答えになっていません。どうして…」
「じゃあ、どうして君はこの結婚にそんなに反対するの?」
私が彼に問いかけているのに、逆に質問された。
「それは…自分の意志とは関係ない結婚だから…。
それに、会ったばかりの、何も知らない人と結婚なんてできません…。」
結婚とは、互いを理解しあってからするものだと思っている。
もっとわかり合いたい、もっと一緒にいたいという感情がなければ、
結婚なんてできない。
理由もないのに、容易に結婚なんて出来るわけない。
出会って間もない彼に到底そんな感情など抱けるはずがないのだ。
「君が僕と結婚したいと思えばいいんじゃないの?」
「は…?」
何を言っているんだこの人は…。
今、「会ったばかりの見知らぬあなたとは結婚できない」
と言ったじゃないか…。
人の話を聞いているんだろうか??
「さっき君が言ったことは、この結婚を断る理由にはならない。」
「会ったばかりで、あなたのことなんて何も知らないのに、
結婚なんてできない。ちゃんとした理由です。
あなただって、偶然写真を見て私を決めたぐらいなのだから、
私のことなんて知らないでしょう?」
これ以上の理由なんてないはずだ。
「君のことは知っているよ。」
「え…どうして…?」
思いがけない返答をされた。
私のことを知っている…?
偶然写真で見ただけのこの私のことを……??
「…まあ、色々とね。理由はまだ言えない。」
言えない色々な理由って一体何なんだろうか。
ますます何を考えているのかわからない…。
「君は僕のことを知らないから結婚できないと言うけど、
それって、僕のことを知ればいいんじゃないの?」
「知る…??」
「そう。知らないのなら、知ればいいだけのことだ。
そうすれば、君が望まない結婚をしなくてもいいでしょ?」
当然だとばかりに、彼は言う。
“そうか、知らないなら知ればいいんだ!
なんだ、簡単なことじゃないか!!”
……って納得できるか。
この人言ってることがめちゃくちゃだ…。




