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3/3

木曾路は夢か

義仲率いる小勢も信濃から

上野にかけて転戦する道すがら、

諸国の源氏武者が、

我も我もと追い縋り、

北陸道を進む軍勢は更に膨れ上がった。

「やぁやぁ、遠からん者は近く見よ、

我こそは武蔵の国の住人某の…」

早々に倶利伽羅峠に

火蓋は切られた。

(火蓋を切ると云う表現は、

鉄砲が本邦の歴史に入ってからの事なので

干戈を交えるでしょうか。)

昼中は弓矢の射撃に終始し、

平家の猛者達も疲れ切る頃、

山も谷も深い闇夜に包

まれた。

「む〜、冷え込んで参った。」

「今日の戦は堪えた。」

「誠、弓矢が雨の様に降って参った。」

「おい、小僧。薪だ。」

その日の戦談議に花が咲いて居る内に皆、

泥の様に眠ってしまった。

「うぉ〜ぉ〜」

突然闇夜にほら貝が鳴り出し、

鐘が打ち鳴らされた。寝込みを襲われ、

流石の平家の猛者達も

総毛立った。

「何事じゃ。」

「義仲軍が押して来た。」

「夜討ちだ〜。」

逃げるは逃げるは

親子も無ければ

主従も無かった。

幾千の軍馬が

暗闇を駆け抜けた。

憐れ平家の、

つわもの達は倶利伽羅の谷底へ

雪崩を打って逆落としとなった。

暗い谷間は翌朝陽が昇る迄うめき声や

軍馬のいななきが聞こえたと云う。

「南無〜」

生臭き戦場の風に吹かれない

二人の旅の僧侶が経を手向けた。

「酷いものじゃ。」

「酷いものじゃ。」

「修羅の時代は僧侶も刃を手に徒党を組みよる。」

「地獄じゃ。」

「怖いものじゃ。」

寿永二年、

平家は一時の栄華から

衰運の時代を迎えました。

平家一族は

都に火を放つと

西国を目指して

落ちて行きました。

多くの人々が生きる場を

失ってしまいました。

何と酷い事では無いでしょうか。

平家の去った都には

木曾義仲が都の守護として

また伯父の行家が参上して参りました。

賢き辺り

取り残された公家衆は

大変喜ばれたそうな。

「木曾の御大将はんが平家をば征伐してくれはった。」

一般の都人もそれは喜んだそうな。

「何じゃあれは。」

京の都北方からやって来たのが義仲軍。

「流石、平家の猛者を薙ぎ倒した源氏のお侍さんじゃ。

ほんに、怖いお顔どすな。」

「ほっほっ。そんな言い様は可哀相じゃ。」

「でも、垢抜けしない田舎もんは仕様があらへん。」

京の外れから御所近く迄、

延々と続く源氏の隊列からは血生臭い臭いと

酢えた汗くさい異臭が紛々と漂い、

都の人々を辟易させた。

鎧姿にも香を焚き込めた平家の君達とは訳が違った。

良く晴れた朝、義仲は行家

と連れ立って御所を訪れた。

「源義仲殿、行家殿。」

御所の長い廊下を渡り、

ふくいくたる香の立ち込めた広間に通された。

「この度は帝都の治安の為、足労で有った。」

「平家追討の途上故、むさい出で立ちご容赦下されませ。」

「はっはっは。良う凌いでくれた。」

「はっ。有り難き幸せにござりまする。」

殿上人の義仲へのご期待に二人は打ち震える想いで有った。

帝の御徳にて治めす

古都に比し

東国の霊峰の麓

鎌倉には坂東の源氏武者、

つわもの達の都が

着々と広がり続けて居た。

頼朝の館には

逐一都の動静が

伝えられて居た。

「殿。」

「伊織か。」

「はっ。」「申して見よ。」

頼朝の居間の明かり取りから

強い陽射しが眩しかった。

「木曾が等々平家を打ち破り都入り致しました。」

「ふん。」

頼朝の醒めた眼差しは、

庭の橘に止まった百舌鳥を見つめて居た。

「これからが本当の勝負。」

「?」

「平家のうらなり共に比べれば、

敵は手強いぞ。」

「はて、敵とは…」

頼朝は、

それには応えなかった。

「平家のうらなり共に比べれば、

敵は手強いぞ。」

「はて、敵とは…」

頼朝は、それには応えなかった。

「木曾は昇ったぞ。」

「殿は如何致した。」

「しっ。聞こえるぞ。」

「同じ源氏の侍じゃ無いか。

悔しくは無いのか。」

「おうっ、それよ。それなんだよ。」

「お前は知らないな。」

「お館様のお心を。」

「判って居るのかよ。」

「それは…。」

皆々腹中は気もそぞろ

忿懣やる方ない気持ちで有った事だろう。

「してやられた。」

「秋月さま。」

「何とした。」

「嫌でございます。」

「…。」

「まだまだ平家の乱暴者のほうが…。」

入洛した木曾源氏の人気は悪かった。

都会の街の物珍しいさま、

自分達が平家の専横を駆逐したとの自負心で

、都のあちこちで無作法や乱暴を

巻き起こしてしまった。

驕るもの久からず

春の夜の夢の如し

猛き者もついには滅びぬ

偏に風の前の塵に同じ

お馴染み平家物語の

例えは世の流れの

真実を語って居た。

「平家のうらなり共に比べれば、

敵は手強いぞ。」

「はて、敵とは…」

頼朝公は

この辺りの

人間の悪業の果てを畏れ

見抜いて居たので

有ろうか。

頼朝公は

この辺りの

人間の悪業の果てを畏れ

見抜いて居たので

有ろうか。

鎌倉の頼朝の屋敷は

都からの情報に逐一鳴動していた。

しかし当の頼朝は何が有ろうが何処吹く風。

その時、表の方から荒々しい足音が響いて来た。

「あっ渉殿。今、殿は…」

「館様。渉でござる。」

「何だ騒々しい。」

すると頼朝の腕利きらしい男が

真っ赤な顔をして怒った。

「坂東武者の名折れでござる。」

すると頼朝は

「はっはっは。」

普段人前では余り笑わない頼朝

それはとても可笑しげに笑った。

「焦るな。」

「こんなに辛抱して…」

「辛抱などせんで良い。」

「せ、せんで良い…。」

流石の豪傑も、頼朝の一言に

唖然としてしまった。

「待つんじや。」

「待つ?」

「焦るのは禁物じゃ。」

「…。」

「木曾の動きをじっくり見さして貰う。」

「む〜。」

「最後に勝ちを拾うのはわしじゃ。」

渉にとっては判るような、

判らんような…。

「詰まらん。」

渉の落ち込み様に

若い武将達が

どやどや集まって来た。

「詰まらん。」

渉の落ち込み様に

若い武将達が

どやどや集まって来た。

「どう成された。」

「詰まらん。」

すると、ひょうきん者が

「はっ。渉奴が涙ぐんで居るが。」

「何を。」

手柄を木曾くんだりの

同じ源氏の流れとは言え

義仲風情に横取りされたのが

相当心の痛手だったらしく

頼朝の配下は荒れた。

「待て。待たれっ。」

「館の中で狼藉は、わしが許さん。」

とうとう重鎮が乗り出して来た。

その時襖が開き、

「控えいっ。」

「御殿じゃ。」

「…。」

「わしの配下たる者みだりに動揺する勿れ。」

「…。」

「天下を征する者、

いつの日か天命下る日が来ようぞ」

渉は見た。

虚空を見つめる頼朝の

悲しそうな目に光るものを。

渉は見た。

虚空を見つめる頼朝の

悲しそうな目に光るものを。

その日の暮れ時

冨士の裾野に焚き火が

燃え盛り、

あちこちでほら貝が

唸った。

土地の百姓達には

布れが廻った。

「凄えもんじゃ。」

「何でも戦の稽古だっちゅう事さ。」

平時に乱を忘れず。

関東武士の心意気なそうじゃ。

その頃都では京の守護に当たる義仲と

大君側近の公家衆の間で様々な葛藤が渦巻

いて居た。

「田舎もんじゃ。」

「殿上人の都合を全く解しやらん。」

「平家の公達を見なされ、

香など焚き込め、ああは臭う無い。」

「そうじゃ。」

「お歌の一つ存じ無いのは人と言えるか。」

一方義仲の起居する館では

「殿上人か公達か知らんが男の癖に、

やたら顔を真っ白に塗りたくりよって、

暇が有れば賄賂をどうせしめるか考えよって居る。」

「殿も酔狂じゃ。」

「殿の事は云うな。」

この間を取り持とうと云う奇特な者は生憎、

居ない様で有った。

皆、全く感情的だったが

流石に義仲はこの事態を危惧するもので有った

「待て。暫し待て。」

「殿、配下の不満はこの爺が何とか致しましょう。」

「よし、任す。」

気の利いたる老武将の一人が皆を呼び集めた。

「皆の衆。お気持ちは察する。

しかし我等、源氏党の目指すもの。してお館様の

御心根を思えば、今こそ木曾源氏党が、

心を一つにして帝辺をお守りする時ぞ。

公達が何を云おうと殿上人が語ろうと、

我等は一つ。

木曾源氏は帝をお守り致そう。」

「うぉ〜ぉ〜。」

雄叫びが沸き起こった。

冬の京は寒さも

肌を刺す。

しんしんと

粉雪が降りしきる中

館の主は

物思いに耽って居た。

「父上。」

「おう。来たか。」

「父上。」

「…。」

「断っても良いぞ。」

「鎌倉殿の元へ参る事、

義高は喜んでお受け致します。」

「何、喜んで行くと申すか。」

「はいっ。鎌倉殿は同じ源氏。

家中なれば父上に代わって

義高は喜んで参ります。」

「…。あっぱれ。我が子なれど、

良く申した。わしを許してくれ。」

時に、源頼朝、源義仲は、

朝廷の命で平家征討のさ中で有った。

時に源頼朝、

源義仲は、

朝廷の命で平家征討のさ中で有った。

ところが義仲の叔父であり

盟友行家が頼朝との折り合いが悪く、

鎌倉へ引き渡すか、

愛息義高を人質に引き渡すか、

非情な選択を押し付けられたので有った。

武士とて人の子、

我が子が可愛く無い筈も無い。

まして武人ともなれば家督に寄せる期待は想像を

超えるものが有った。

しかし、

義仲は同じ源氏の血を引いた叔父を売る心は無かった。

止む無く巴を説き伏せ、

我が子を人質に出す決意を固めたが

最後は息子の思案に

委ねた様だ。

母恋しで参らぬも、

人として当然の事と考えていたようだ。

母が恋しくは無いか…

すると

「義高は父上の子です。」

すると義仲の両の眼からは

熱いものが流れ落ちた。

「あい判った。

義仲に義高と云う子が有った事、

終生忘れまいぞ。」

雪の季節が終わりを告げる頃、

義仲と巴は辛い季節となった。

時の法皇の信頼も有ったでしょうが、

側近との不和、そして、

叔父の行家との間に思わぬ事で溝が深まりました。

これも原因は恩賞に有ったとされています。

「時にお館様。」

「…。」

行家は忠臣面をした大村某が余り好きでは無かった。

「平家掃討に主ほど心血を

注がれたお方は無い。」

「…」

行家は苦虫を噛んだような顔を背けた。

「しかるに殿人に評判は…。」

「これっ云うな。」

流石の行家も聞くに堪え無かったらしく一喝で応えた。

「出かけるぞ。」

行家は侍者に一声掛けると、

馬に一鞭当てれば

家来達は

慌てて追い掛けた。

勝手知ったる洛内の小路を行けば

直に義仲の屋敷に着いた。

義仲の屋敷では

馴染みの近習が

慌てて迎えた。

「主は所用にて…」

行家はかっと顔を赤らめ、

「義仲殿はわしを避けておいでか…」

「滅相もございません。主は…」

するとそこへ窶れた様子で現れるた巴が

「行家様。お出ででございましたか。」

「おお、巴殿。いや、何でもござらん。」

「そうでございますか。」

「はっはっは。奥方には皆お見通し。敵わぬは。」

「行家様は義仲殿をお疑いか。」

「滅相も無い。甥子で有り盟友の義仲殿。

何で此のわしが疑いようか。」

と言いつつも行家の胸中に去来する

冷ややかなものは何だったので有ろうか。

巴は何かを感じたので有ろう。

「行家殿。後生でござる。殿を…。」

流石の行家も義仲の八方塞がりを

不憫に思わぬ訳でも無かった。

「判って居る。申す迄も無い。

同じ源氏党じゃ。」

お互い気が晴れたのか行家も辞去する事にした。

義仲の留守宅を去る行家の心の中に

虚無感が広がり行くのが見えた。

寿永二年十月水島で山国育ちの木曾軍は、

船戦に長けた平家の軍勢に大敗を被りました。

殿上人の義仲嫌いの者達は、

大いに嘲り謗ったそうだ。

怒った義仲は御所内で刃傷沙汰を起こして、

多くの死傷者を出し、

政事にも横槍を入れ始めた。

「おのれ義仲。」

こうして憐れにも若さ故か、

老獪な者どもに勝てず

朝敵の名を負う運命となりま

した。

義仲の留守宅を去る行家の心の中に

虚無感が広がり行くのが見えた。

寿永二年十月水島で山国育ちの木曾軍は、

船戦に長けた平家の軍勢に大敗を被りました。

殿上人の義仲嫌いの者達は、

大いに嘲り謗ったそうだ。

怒った義仲は御所内で刃傷沙汰を起こして、

多くの死傷者を出し、

政事にも横槍を入れ始めた。

「おのれ義仲。」

こうして憐れにも若さ故か、

老獪な者どもに勝てず

朝敵の名を負う運命となりま

した。

もう、後戻りは出来ません。

相手に義仲を討つ口実を与えるてしまいました。、

騒然とした屋敷内の奥の間で

巴御前が一人暗然と俯いて居た。

いきなり襖が開きが

「巴。」

思わず振り向く

巴御前の目には一杯溢れるものが光って居た。

「済まぬ」

「…」

愛する息子を

毟り取られ

頼りとする夫すら

最早朝敵と成った今、

どうしてこれから生きて行けようか。

「巴。」

「何でございますか」

「他でも無い。わしにはみちのくに

義経と云う未だ見ぬ従兄弟が居る。」

「存じております。」

「愈、宿命の時は来たようじゃ。」

「宿命…。」

「巴。」

「はいっ。」

「里へ帰るのだ。」

巴は一瞬、顔をこおばらせ「殿は…」

「はっはっは」

義仲は力無く笑った。

「木曽は良い…」

「巴は…巴は…。」

「木曽迄は屈強な者を付ける。」

「嫌っ。」

「巴は何処迄もご一緒に居とうございます。」

「…」

突然巴は部屋の隅へ駆け寄ると、

懐刀で豊かな黒髪を剃り落としてしまった。

「むむっ」

余りにもの事に義仲もたじろいでしまった。

「そうか」

「愛しい我が子も居ない今一人殿を置いて、

おめおめ木曽迄帰れましょうや。」

妻の余りにも重たい覚悟に驚く義仲だった。

「判った。流石は巴。」

「巴は此部屋を一旦出れば

木曾の荒武者の一人にございます。」

義仲は巴の両肩を抱き寄せると、

憐れさ故に二の句が出なかった。

二人は暫く石のように抱き合った。

「行くぞ。」

「おうっ。」

「はっはっは。」

「ほっほっほ。」

「我等夫婦の行く道は…」

「勿論修羅道か。」

「さあっ。」

潔良さは街道一であった。さて、

迎え撃つ義経は何処。

義仲の眼差しの先には

宿命の男、

義経の姿が見えて居たのかも知れない。

「逢いたかった。」

「…」

「敵味方と雌雄を決する前に…」

「…。」

何となくこの辺りで、最終章になるんじゃないかと

思います。

お粗末でした。


ご覧の様に現在の日本は、

欧風文化で惨澹たる有様、

このような雑文でも、何かしら、

若い人々の心の癒しに成れば、

嬉しい事です。

私、歴史に暗く、殆どの作品が、

歴史的、考証の範疇外でして、

恥ずかしい事限り無いので有りますが、

自分の出来る事で、

何とか、日本の冠たる文化、

日本の心を

復活させたい。

そんな心持ちです。

また、文章のみ成らず、

祖国を守る、礎として、

蟷螂の斧と云えど、

為したい所存です。

出任せと云えど、

何処何処迄も、

有る事、無い事づくしで、

押し通しても、

心が伝わらなくなって、

単につじつま合わせの話しでは、

駄作に成り下がってしまいます。

潔さも必要かと思い、

剣道とおなじく、

引き際が大事ではないでしょうか。

また、何か書きたいと

思います。


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