琥珀からとんでもないものを復活させてしまう兄と、それを止めたい弟と、静かな父
宇宙の外の館で暮らす、クローン一家の読み切りコメディーです。
【主な登場人物】
ゼロ……クローン兄弟の長兄。夢とロマンのためなら小屋も吹き飛ばす。
ゼクス……ゼロが大好きな弟。とにかく兄に危ないことをしてほしくない。
オリジナル……クローン兄弟のコピー元で、一家の主。普段は静か。
ほかにも同じ顔の兄弟たちが登場しますが、名前を覚えなくても大丈夫です。
ゼロは、今日は庭園にある小屋で一人、好きなことをして過ごしていた。
小屋にあるテーブルには、大きさの揃わない琥珀がいくつも並べられていた。
そして並べられた琥珀の前には、魔法陣が書かれた高級そうな紙が置いてあった。
「これもオスか……」
ゼロは並べられた琥珀を手に取り、それをじっくり眺める。
彼は、自分の特殊能力である「物質を量子エネルギーや粒子レベルで観察する」という能力で、琥珀の中に封じ込められた虫らしきものを凝視していた。
そして、目的のものではないと分かると、その琥珀をテーブルの端に置いたケースに入れる。
「本当は捨てても良いのだが、アクセサリーの材料としても使えそうだからな」
彼には妻がいる。
その妻にアクセサリーを作りプレゼントするのだろうか。
しかしそれが目的の琥珀ではないもの、というのはいかがなものだろうと思われるが、ゼロからすればそれは合理的と言うだろう。
「まあ、今はそれよりも、メスの蚊、あるいは吸血系の虫を見つけるのが先だ」
そんなことをブツブツと言いながら、ゼロは一人、目的の琥珀を探していた。
◇
宇宙の外(外の場)と言われる場所に、ゼロとその家族が住む館はあった。
石造りの館と、それを囲む綺麗で広い庭園。
庭園内にはベンチやちょっとしたガゼボ(西洋風あずまや)、そして小屋がある。
住んでいるのは、十一人の家族だ。
内十人は、銀色の長髪に切れ長の目、筋の通った鼻にほんのり赤みを帯びた、少しだけ薄い唇と、皆同じ顔をしている。
目は皆赤いが、唯一長兄だけが黒銀である。
内九人は、クローンであり、そして一人は彼らのコピー元である。
残る一人は血縁も何もない他人であるが、このクローンたち一家の一員としてここで暮らしている。
それがゼロの妻である。
そんな一家の仕事は、外の場を見ていることだった。
ただ、常に仕事をしている訳ではなく、見回り役以外は各々好きなことをして過ごしている。
◇
庭園のベンチでは、ゼロの弟にあたるキャトルが本を読んでいた。
いつも彼はそこで本を読んでいるのだが、実は誰もその本の中身を知らない。
「なあ、キャトル、ゼロを見かけなかったか?」
そんな彼に、同じ顔をした兄弟が声をかける。
「ゼクスさぁ、量子走査を使えばわかるのに、なんでいつも聞いて来るんだ?」
キャトルは読んでいた本を閉じ、それを膝の上に置く。
そしてゼクスと呼んだ兄弟を見上げた。
ちなみに量子走査とは、自分のエネルギーを薄く広範囲に広げることで、辺りの様子を目視せずとも窺える能力、とでも言っておこう。
彼らは多種多様な能力を持ち合わせているのである。
「家族間のコミュニケーションに決まってるだろう?まあ、キャトルはその心配ないけど、他の家族は放っておけば一言もしゃべらないのもいるからな」
ゼクスはキャトルを見下ろし、軽くため息をつく。
肩を軽く上げ「だろう?」と言わんばかりの表情をしている。
「確かになぁ。オリジナルとかゼロとか……ってこの二人だけじゃないか」
「そうだな」
二人は顔を合わせて軽く笑う。
「館にいないなら、芝生の上で本を読んでるか、あるいは小屋で何かしてるかもな」
「そうか、じゃあ小屋にでも行ってみるかな」
「行ってらっしゃい」
キャトルに見送られ、ゼクスは庭園にある小屋へ駆け足で向かった。
キャトルはゼクスの後ろ姿を確認して、再び本を開き、読み始めたのだった。
◇
「ふう、五十個くらい琥珀を集めて、血を吸ったメスの蚊が入ったのは三つだけだったか」
ゼロはようやく見つけたメスの蚊が入った琥珀を魔法陣の上に並べ、それを満足げに眺めていた。
実際に、メスの蚊が入った琥珀はいくつかあったが、その中でも血を吸っている、その血液が残っているものはこの三つしかなかった。
「さて、この血がどんな生き物のものなのかが楽しみだな」
その内の一つを手に取り、窓から入り込む光に通し、中身を見る。
綺麗な形を保った、それだけで価値がありそうな琥珀である。
「ゼロ!!!見つけたぞ!!!」
琥珀の光に心躍らせていたところに、背後から、足音もなくいきなり抱き着かれたゼロ。
危うく手に持った琥珀を落としそうになり、慌てて手のひらに握りなおす。
「おい!ゼクス!!!いきなり抱き着いて来るな!!!危ないだろう!」
「ハグは危なくない!」
後ろを向くまでもなく、ゼロはゼクスに文句を言う。
ゼクスは長兄であるゼロのことが誰よりも好きである、いや、大好きである。
世間では「ブラコン」とささやかれることもあるが、ゼクスはそんなことを気にしない。
だから暇さえあればゼロの近くにいようとする、その距離感は近すぎるが。
何故ゼクスはゼロのことがこんなに好きなのかは、また別の話になるだろう、ここで語るのは控えておこう。
「……何の用だ?いや、お前にこれを聞くこと自体野暮であることは承知だが、だが、何の用だ」
眉間に皺を寄せ、怪訝な表情でゼクスを見るゼロ。
それに対し、ゼクスは非常にご機嫌な表情である。
「庭の芝生で昼寝しよう!」
「……」
「なんだよ、顔で返事するなよ。いいじゃないか、こんな薄暗い小屋に籠っていたら健康に悪いぞ?」
「不老不死でいろんな現象や効果に耐性がある我々クローンに、健康も何もないと思うが」
「そんなことはない!ゼロはいつ見ても不健康そうだ。我らが親のオリジナルに並ぶ、あまりにも日焼けしていない青白い肌だ」
「私とオリジナルは理系解析組なんだよ」
「理系解析組と言えばオットとサートもだけど、オットは結構日焼けしてるぞ!」
「知るか、それよりも暑苦しいから離れろ」
そしてゼロはゼクスを無理矢理剥がす。
ゼクスは不満そうな顔をしながら、テーブルの上にある琥珀に目をやる。
「魔法陣の上に琥珀を置いて、また何かよからぬことでもするのか」
「よからぬとは何だ、こんな夢とロマンあふれることはないんだぞ」
「ゼロの言う夢とロマンが、まともだった試しがない」
「私の夢やロマンはなかなか理解されないからな」
「いや、オリジナルに説教されるだけだろう?」
「……む……それを言うな」
ゼクスは呆れながら腕を組み、そしてゼロを見ている。
ゼロは魔法陣の上に置いてある琥珀と、そしてすでに手中にあった琥珀を胸ポケットに入れた。
「この間はなんだ、魔法陣を試すとかで宇宙内の恒星をいくつ吹き飛ばしたんだ?それがロマンなのか?」
「ああ、恒星を吹き飛ばせる魔法陣など、ロマン以外の何物でもないだろう。というか、お前は私のことが好きでハグする割には説教してくるな」
「確かにゼロのことは大好きだが、それと同じぐらいに危険な思いをして欲しくないの!」
「弟に守られる謂れもないがね」
「恒星吹き飛ばした反動で、肉体が危なすぎてエネルギー体になってここに戻ってくるとか、そんなことをしないようになってから言え!とにかく危険なことは駄目だ!」
「……どうしてクローン一家は過保護なんだかな」
「ゼロが自由過ぎて危険なことをし過ぎるからだ」
「あーあー、聞こえない聞こえない」
ゼロは耳を塞ぎながら、再び椅子に座る。
魔法陣が書かれた紙を丁寧に丸め、そして近くに置いてあったケースにしまった。
「まあ安心しろ。この琥珀は中身が綺麗に残っていたから、妻への贈り物でアクセサリーにするだけだ」
「魔法陣は?」
「魔法陣?関係ないに決まっているだろう。ただテーブルの上に敷いてあっただけだよ」
「本当だな?」
「ああ」
再びゼロは立ち上がり、そしてゼクスをドアまで押す。
ゼクスは納得いかない表情のまま押される。
「とにかく今は忙しいんだ。だから昼寝は後で付き合ってやるから今は出て行け」
ゼロはそう言い、ゼクスを外に追い出した。
「後でっていつだ?どれくらいに呼びにくればいいんだ?」
ゼクスがそう言い終わる前に、小屋のドアは手早く閉められた。
仕方なく、ドアの前でそのまま待とうとしたが
「後でこちらから行くから、小屋から離れていてくれ」
そんな彼の行動をお見通しなのか、ゼロはドアの向こうからそう言い放った。
「……絶対に危ないことをしようとしている」
ゼクスは無視してドアの反対側で待機しようとしたが
「だから、小屋から離れろと言っただろう」
反対側には窓があり、そこからゼロが怪訝そうな表情でゼクスに言ってきた。
「窓のないところに居てもわかるからな。しっかり離れろよ」
そして窓もぴしゃりと閉めるゼロ。
ゼクスはため息を大きく吐き、そしてゼロの言う通り、小屋を目視できるくらいの範囲で離れ、見張るのであった。
◇
ゼロは量子走査でゼクスがある程度距離を保ったことを確認し、先ほどしまった魔法陣を再びテーブルの上に広げる。
そして胸ポケットから琥珀を一つ取り出し、魔法陣の上に乗せる。
「……部屋の中に収まるサイズで済むだろうか……」
ゼロは乗せられた琥珀を見て思う。
この琥珀を拾ってきた惑星にいた生き物のことを考えてみる。
歴史上の生き物のサイズも考えるに、蚊が血を吸える生き物にそれほど大きなものはいなかった。
多少天井が壊れるかもしれないが、大きくてもそれぐらいだ。
ならばこの場所でも行けるだろう。
そもそも天井が壊れるサイズを想定している時点で、ゼクスの懸念が正しいことが証明される訳であるが、ゼロにしてみればそれこそがロマンであり、そして危険なことでもないと思っている。
「まあ、そのサイズの生き物が出る可能性は低いだろうが、出たら出たで嬉しいな」
そんなことを呟きながら、一つ目の琥珀を乗せた魔法陣に向け、ゼロは呪文を唱えた。
「Expergiscere, creatura antiqua.」
ゼロの呪文に魔法陣が反応する。
魔法陣の光が琥珀を照らす。
透明な樹脂から光が抜ける中、内包物の蚊が黒く形を浮かび上がらせる。
やがて蚊の腹の部分が怪しく光り、そしてそこから光が放射状に放たれ、部屋一帯を一気に照らす。
暫くして光が収まり、そして魔法陣の上には一匹の哺乳類が静かに鎮座していた。
「……これは……ウサギか」
魔法陣の上で怯えたウサギが硬直している。
ゼロはウサギをそっと撫でる。
「まあ、こんなもんだろうな」
嬉しいような、困ったような、複雑な表情を浮かべたゼロは、軽く指を鳴らし、近くにウサギを入れるケージを用意した。
これも彼らクローン一家の能力である、物質を作り出す能力である。
「後で、元の惑星に連れて行かなければならないな」
そう言いながらウサギをそのケージに入れるゼロ。
ウサギは何が起こったか理解できずに、ただじっとしていた。
「さて、残るは二つ……どっちで行こうかね」
琥珀を見るその表情は、先ほどゼクスが来ていた時とは比べ物にならないほど楽しそうである。
大きく表情を出すタイプでもないゼロだが、口元が緩んでいる。
琥珀を真剣に見つめる黒銀の目は、光を受けて静かに銀色にきらめいている。
「じゃあ、次はこっちの琥珀で試してみるかな」
そして二つ目の琥珀を魔法陣の上に乗せ、ゼロは静かに呪文を唱えるのであった。
◇
館の二階にある書斎では、クローン一家の主であり、クローン兄弟のコピー元でもあるオリジナルが、机一杯に資料を広げ、宇宙の外の場の観測記録をまとめていた。
最近の外の場は比較的穏やかである。
時々季節風のようなものが局所にそよぐが、宇宙自体に影響は全くない。
以前は、クローン一家を襲う恐ろしいウイルスを含んだ風が吹き込んだこともあった。
その原因はもちろん一家で調べているが、わからないことも多い。
対処法を考えるのも彼らの仕事であり、その記録もまた、この書斎に収められている。
窓から庭園を見てみる。
ベンチにはいつものようにキャトルが読書をしている。
芝生の上では兄弟の何人かが寝転がり、談話をしている。
小屋の近くにはゼクスが居る、きっと中にはゼロが居るのだろう。
非常に平和な光景に、オリジナルは思わず目を細める。
クローンとは言え、彼にしてみれば九人のクローン兄弟は息子同然である。
そんな息子たちの平和な姿に、オリジナルは幸せを感じていた。
しかし、そんな平和な光景も一瞬で終わった。
突然、ゼロがいる小屋のレンガ造りの天井が壊れた。
壊れたというか、中から何かが現れた。
「……何があった?!!」
オリジナルは席から立ち上がり、窓に向かう。
そして大きく身を乗り出し、ゼロのいると思われる小屋の中から出て来たものを見ようとする。
「ギャオオオオォォォォォ!!!」
それは、辺りを揺らすほどの大きな鳴き声を上げて、庭園の木々を踏みつぶしながらあちこち歩き回りだした。
「……ゼロの奴……また何をやらかしたんだ!」
オリジナルは慌てて部屋を出て行った。
◇
「いやまさか、蚊があんな爬虫類のような鳥類のような化け物の血を吸うことが出来るものなのか?!」
ゼロは天井をぶち破るどころか、建物全体を壊して佇むその生き物を、先ほどウサギを入れたケージを抱え、見上げていた。
魔法陣はもちろんその生き物の足の下だ。
「すごい……すごいぞ!!ドラゴンか、はたまた恐竜といわれるものか!」
先ほど選り分けた、ケースに入れた琥珀は辺りに散らばり、テーブルも魔法陣と共に生き物の足の下でつぶれている。
ウサギはケージの中でどこかに逃げようとして、前足で隅をカリカリと削っている。
ゼロだけが、非常に嬉しそうな表情で恐竜らしき生き物を見ていた。
「ギョォォォ!」
その生き物は大きく首を動かしながら、辺りを眺めていた。
足元にいるゼロのことなど気づかずに、どこかに歩み出そうとしている。
「火は吹かないからドラゴンではないのか……っと、危ない危ない、私はいいがウサギが耐えられんな」
ゼロは踏みつぶされないよう、恐竜の足元を逃げ回っていた。
「……しばらく歩かせてみたいが……」
そう思った途端
「ゼロ!!!!何をやらかした!!!何をした!!!無事かぁぁぁ!!!」
少し離れたところから叫ぶゼクスがゼロに駆け寄り、そしてその腕を取り、瞬間移動の能力で恐竜から離れた場所まで移動させていた。
ゼロはゼクスに瞬間移動させられたことに、ワンテンポ遅く気づく。
ゼクスの顔を見て、そして少し遠くから恐竜を見る。
「おお!やっぱりここから見ても大きいな!な?大きいよなゼクス!!」
「大きいじゃない!!!嬉しそうな顔をするな!!!何をしたんだ本当に!!!」
庭園の植木や噴水を踏みつぶしながら歩く恐竜を見ながら喜ぶゼロに、ゼクスは顔色を変えて彼の両肩を掴み、そして揺さぶる。
「そんなに揺らしたらこの小さい生き物が可哀そうじゃないか」
「そうじゃない!そうじゃないだろう!!!」
ゼクスは片手でウサギの入ったケージをゼロから取り上げ、そしてもう片方の手でゼロの肩をしっかり掴んでいる。
そうしていると、他の兄弟たちも恐竜を囲むように、少し距離を取りながらその様子を見ている。
「まあ、こんなことをするのはゼロしかいないよな」
本を持ったキャトルがゼロと恐竜を交互に見ながら言う。
そんなキャトルの横に、芝生で寝転がっていた他の兄弟たちも近寄って、そして恐竜を見上げる。
「一旦、私たちが他惑星から持ってきた薬草のプランターは確保した!」
「私たちの思い出のプランターまで潰されてはたまらん」
プランターを抱えているのはトリーで、その横ではドゥオがこめかみを押さえている。
「くそ!相変わらずゼロは面白い失敗するな!これどうするんだ?面白過ぎるだろう!!!」
そして他の兄弟たちと少し離れたところで、笑いをこらえきれないでいるオットが恐竜を見上げている。
「なあゼロ!これ、私が倒していいか?」
そしてオットの横から離れたところにいるゼロに向かい、戦おうとしているウノが叫んでいる。
「ウノ、これどうやって倒すんだよ、その発想も面白過ぎるだろう」
「どうやって倒すかね」
オットの隣でウノが片方の口角を上げながら、指をポキポキ鳴らしている。
「まさか素手で行くのか?」
「行けると思うか?」
その様子を少し遠くで見ていたゼロが
「せっかくの古代生物なんだ!倒さないでくれ!もう少し観察させてくれ!」
オットとウノに向かって叫んでいる。
ゼロの横では、ゼクスが呆れ顔で天を仰いでいる。
「これが恐竜という生き物だ!あんな小さな惑星にこんな大きな生き物が生息していたなんて、宇宙もすごいと思わないか?!」
ゼロが、特にオットに聞こえるように訴える。
「まあ、確かにすごいし面白いがね。ドラゴンとは違うんだな」
「オット、そこでゼロに共感するな、いや、お前しか共感しないのは分かるんだがな」
オットはゼロの言葉に恐竜をまじまじと見上げている。
しかし、そうしている間にも恐竜はその歩みを止めない。
やがて恐竜は館の方へ足を進める。
「ギャオォォォォ!!!」
恐竜は鳴きながら、あと一歩で館を踏みつぶそうというところまで来た。
「あ!館が潰される!!!」
キャトルがそう叫んだ瞬間
「あ」
キャトル以外のクローン兄弟が皆、そんな表情を恐竜に向けた。
いや、正確には恐竜がいた場所を見ていた。
館の勝手口にはオリジナルが手を上げた状態で静かに佇んでいた。
「せっかく綺麗に整えられてた庭をこんなに壊して……」
オリジナルは、目の前にいた恐竜を、彼自身の能力でその場から消し去っていた。
彼の視線の先には、踏みつぶされた木々や噴水、コンクリートの仕切りに、跡形もなく粉砕されている小屋が広がる。
そしてその小屋から少し離れたところの、オリジナルを見ているゼロと、そしてウサギのケージを抱えたゼクスに、その視線を向けていた。
「……ゼロ……」
オリジナルはゼロに視線を完全にロックオンして、そして呟いた。
ほんの一瞬、オリジナルとゼロは見つめ合うが、ゼロがそっと視線を逸らす。
「ほらゼクス、大好きな兄が大変なことに巻き込まれそうだ。守るなら今だぞ?」
ゼロはそっとゼクスに言うが
「……ゼロ。これは自業自得だ」
そう言いウサギのケージを抱えたまま、ゼロが逃げないように片手でしっかり肩を抱える。
「多分、瞬間移動でどこかに逃げようものなら、オリジナルに徹底的に探されて、何日もお説教が続くと思うぞ?」
ゼクスはゼロの耳元でそっと言う。
「今から大人しく説教を受けるか、長く逃げ回った分だけ説教の時間を延長するか、どちらを選ぶかだな」
ゼロとゼクスがそんな話をしている間に、いつの間にかオリジナルはゼロの目の前にいた。
「一旦、私の書斎まで来ようか?」
オリジナルはゼロの肩にそっと手を置き、そのままゆっくりと館の中に連れて行く。
「ゼクス、他の兄弟たちと一緒に庭園を元に戻しておいてくれ」
オリジナルはそう言い残し、ゼロと共に館の中に消えて行ったのであった。
~終わり~
お読みいただき、ありがとうございました。
作中で「また別の話」とした、ゼクスがゼロをあれほど慕う理由。
そして、オリジナルが窓の外の平和な光景に目を細めた理由。
どちらも、個人サイトで連載中の「ゴシック・ファミリー」で描いています。
小屋を吹き飛ばしてばかりのゼロにも、言葉にできなかった過去があります。
よろしければ、この一家の続きを見に来てください。




