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「再会したら結婚して」と言って引っ越していった幼馴染が、翌日隣の家に引っ越してきた

作者: 胡桃瑠玖

 俺、相川(あいかわ) 優人(ゆうと)には可愛い幼馴染がいる。

 その幼馴染の名前は城ヶ崎(じょうがさき) 亜美(あみ)


 亜美は才色兼備だけど、少し幼さが残る美少女だ。


 身長は平均より少し小さく、顔は日本人特有の童顔で、丸顔気味であどけなさの残る顔立ちをしている。

 髪はツヤのあるセミロングだ。


 亜美とは幼稚園、小学校、中学校まではずっと一緒のところに通っていたのだが、高校は別の学校に通っている。

 まぁ、将来のためというやつだ。お互い同じ高校に通うのなんて、それはラブコメ世界の中だけの話だろう。おそらくだが。

 とは言え、それを言ってしまえば美少女な幼馴染がいるというのが、そもそもラブコメ世界な気はするけれど。


 とにかく、俺には可愛い幼馴染がいるというわけだ。


 そんな幼馴染に、俺は好意を抱いていた。

 だが、それも当たり前のことだろう。

 なんせ、亜美はやたらと距離が近いのだ。


 例えば、こんなことがあったりする。


『ねぇねぇ、ゆう君! これ見てよ! この子すっごく可愛いの!』


 そう言って身体をピタリとくっ付けてきて、動物の写真を見せてくることがあったり、はたまたこんなこともあったりする。


『ゆう君ゆう君! あっち行こうよ! 美味しそうなものがいっぱいあるよ!』


 亜美は笑顔を俺に向けて来て、手をギュッと握って屋台まで走って行ったり……。

 また、こんなこともあった。


『ゆう君の肩、丁度亜美の頭と同じ高さにあるから、乗せやすくてすっごく良いの!』


 そう言って、俺の肩に自分の頭を預けてきたり。


 こんなことをされて、好きになるなと言う方が難しいだろう。

 俺は日々、理性を試されているのだ。


 しかもタチが悪いのが、これらの行動全て、おそらく亜美が無自覚でやっているところだろう。


 何故そんなことが分かるのかと言えば、亜美がこういうことをする時、全く羞恥心もなくやってのけるからだ。


 もし自覚ありきでやっているのであれば、少しは羞恥心を表情に出す筈だ。

 もしくは、幼馴染である俺は亜美からしたら、もう家族としてしか見れないから、こんなことを平然とやってのけているのかもしれない。


 うん……。正直後者の方があり得る気がする。


 だって、他の男にこんなことをしている亜美は見たことがないのだから。いや、高校が別だから、高校に行ってる時の亜美がどんな感じなのか分からないけど。

 だが、もし高校で俺以外にも亜美がこんなことをしているのならば、かなり嫉妬してしまう。


 とにかく、亜美は無自覚でそういうことをやっていると思うのだ。


 そんな亜美から今日、俺からしたら18年人生最大の……いや、今世紀最大の悲しいお知らせを聞かされていた。


「実は亜美ね……、2日後に引っ越すことになってるの……」


 亜美は眉根を下げて、少し悲しそうな表情を浮かべる。


 亜美の言葉に頭の中が真っ白になり、ベットの上で固まる。


 ──あ、亜美、が、2日後に、引っ越す……?


「いきなりでごめんね? でも、切り出す勇気がなかなかなくて、それでこんな直前に話すことになったの……」


 亜美は少し申し訳なさそうにしながらそう言った。


 それを聞いても、未だに俺の頭の中は真っ白のままだった。


 さらに数秒後、ようやく俺の頭が正常に思考しだした。


「えっと……。それは、寂しくなるな……」

「うん……」


 ここで行かないでくれなど言えれば良いのだろが、そんなことを言ってしまえば、亜美に迷惑をさせてしまうのが目に見えている。


 だって、亜美は俺のことを異性として見ているのではなく、おそらく家族として見ているのだから。そんな奴に行かないでくれなんて言われれば、迷惑してしまうことだろう。

 いや、家族と思ってる人から行かないでくれって言われれば、嬉しくはあるとは思うが。

 これは自惚れではなく、事実としてそう思っている。


 仮に俺が一人暮らしすることを決め、引っ越しするとなった。その時に家族から行かないでくれなんて言われれば、そりゃあ自分のことを大切にしてくれているということは分かるが、同時に自分はもう一人暮らしすることを決めたのだ、と、少し迷惑に思ってしまうことだろう。


「ねぇゆう君……。他に亜美になにか言いたいこととかないの……?」


 亜美は瞳を少し揺らす。


「言いたいこと……」


 それゃあ、あるさ。

 行かないでくれとか、亜美のことが好きなんだとか、俺の恋人になって欲しいとか。

 でも、それらの言葉を言える資格を、俺は持っていないのだから。

 だって、亜美からしたら俺なんて家族のように仲が良いだけの、ただの幼馴染なのだから。


「そうだな……。元気でな……ってことぐらいかな。でも、引っ越してはなばなれになっても、俺のことは忘れないで欲しいかな」


 だから家族として、そして幼馴染として、無難な返答をした。

 とは言え、さっき言った言葉は本当だ。

 好きな人から忘れられるなんて、そんな悲しいことはないだろう。


 俺の言葉に亜美は笑顔で頷く……そんなとこだろうと思っていたのだが、亜美は俺の予想とは違った反応を見せた。


 俺の言葉に亜美は瞳を見開き、少し驚いたあと、ぷくっと頬を膨らませて、ぷいっと明後日の方向へそっぽを向いた。


「ゆう君なんてもう知らない!」

「ええぇ!? なんでぇ!?」


 俺は亜美の予想外の反応に、少し驚いた表情を浮かべた。






◇◇◇



  ──それにしても……さっきの亜美あみの反応はなんだったんだ?


 俺は部屋から出て行った亜美の先程の反応について、頭を働かせながら考えていた。


 さっきの俺の答えの中に、亜美の機嫌を悪くするような言葉は言ったか?

 いや、絶対に言ってないと思うんだけどなぁ……。


 元気でな、と、引っ越してはなばなれになっても、俺のことは忘れないで欲しいとしか言ってないよな?

 この返答のどこに機嫌を悪くする要素が……?


 マジで分からん。女子の思考、マジで分からん。


 まあ、完璧に他人の思考が分かるとか、それこそ神とかじゃないと無理だと思うけど。


 そうだ。母さんに聞いてみよう。母さんならどういう意味なのか分かるかもしれない。


 思い立ったが吉日、俺は早速、自分の部屋を飛び出し、階段を降りてリビングへと向かった。そこには、ソファに腰掛けてテレビを見ている母さんの姿があった。


 亜美もまだいるかなと思っていたのだが、俺が部屋で考えているうちに、どうやらもう帰ってしまったようだ。

 既にそこには亜美の姿がなかった。


 とりあえず、先程の亜美の行動原理について、母さんに聞いてみようと思う。


「母さん。今ちょっといい?」

「あら優人、亜美ちゃんを泣かせ──っと、これは言ったらダメよね。それで、母さんに何か聞きたいことでもあるのかしら?」


 母さんがリモコンでテレビの電源を消して、俺の方へと振り返る。

 何か亜美がどうのこうのと良いそうになっていたが、まぁ、良いだろう。

 今は母さんに聞くことが先だ。


「さっき亜美から──」


 俺は亜美から引っ越しをすること、亜美から聞かれたこと、亜美にこういう返答をした、と、そして、その返答がどうやらお気に召さなかったこと、それら全てをかいつまんで母さんに説明した。

 

 それを聞いた母さんは、少し呆れた表情を浮かべてボソリと呟く。


「(はぁ……。まさか私の息子がこんなに鈍感だったとは思わなかったわね……。そりゃ亜美ちゃんも苦労するわ……)」


 それを聞いた俺は、頭に疑問符を浮かべる。


「母さん、それどう言う意味?」


 俺は難聴系主人公ではないのだ。ちゃんと聞こえているぞ。


「なんでもないわよ」


 母さんは頭を左右に振って、先程の言葉を誤魔化した。


 ふむ……。さっきの母さんのセリフが、なんでもないなんてことは間違いなくあり得ないのだが、まぁ、良いか。


「それで、あんたが聞きたいのは、亜美ちゃんがどうしてあんたの言葉でそっぽを向いたか、よね?」

「うん、そう。幼馴染として最高の返答をしたと思うんだけど、何故か亜美の奴が拗ねたんだよね」

「(幼馴染としてだからよ……)」


 またもや母さんがボソッと呟く。

 俺は難聴系主人公ではないのだ。ちゃんと聞こえているぞ。


「どういう意味なのか、ますます分からんくなってきた……」


 母さんの呟きに頭を疑問符で埋め尽くして、ますます困惑する。


「あと、母さんからは何も言えないわ。亜美ちゃんに言わないでって言われてるから。だから、亜美ちゃんの意思を尊重して言えないの」

「……」


 なるほど。それなら仕方ないか。

 元々母さんなら分かるかもくらいで聞いたわけだし、そこに亜美の意思が関わっているって言うのなら、無理に聞き出そうなんて思わない。


 でも、母さんには話して俺には話さないって、もしかして嫌われてる……?

 泣いても良いか?


「って言うか、母さんは亜美が引っ越しすること知ってた?」

「ええ、知ってたわよ?」

「俺、亜美に引っ越しのこと聞かされてなかったんだけど。今日初めて聞かされたんだけど。もしかして俺、亜美に相当嫌われてる?」


 引っ越しのことすら母さんには話してて、俺には話さないって、それってもう、嫌われてるってことじゃん……。


 俺はそれに気づき、先程、亜美から聞かされた引っ越しの話と、その引っ越しの話を今日まで俺にはしてなかったと知り、気分が地の底までズドンと落ちる。


「ゆ、優人! 大丈夫よ! あんたは亜美ちゃんから嫌われてるわけじゃないわ!!」


 亜美に嫌われてるかもしれないと知り、気分がどん底に落ちているため、母さんのそのフォローは俺の耳には正しく入ってきていなかった。


「ゆ、優人!」


 俺は母さんの言葉を聞き流しながら、肩を落としてトボトボと歩き、リビングを後にして自分の部屋まで戻る。

 そして意気消沈しながらベッドにダイブした。


 はぁ……。亜美に嫌われてる……。絶対嫌われてる……。しかも明後日には引っ越し……。もう無理だ……。俺はこの先、生きていけない……。いや、死ぬ気はさらさらないけど。






◇◇◇



 あれは、私とゆう君が初めて出会った日のこと。

 まだ小学校に上がる前……いや、幼稚園に入園する前の話。この日の私は、近所の広い公園でお母さんとはぐれて泣いていた。

 そんな私に声をかけてくれたのが──ゆう君だった。

 そして、ゆう君とゆう君のお母さんは、一緒に私のお母さんを探してくれた。

 これが私とゆう君の初めての出会いだった。






◇◇◇



 私、城ヶ崎(じょうがさき) 亜美(あみ)には、小学生の時から大好きな幼馴染がいる。

 その幼馴染の名前は相川(あいかわ) 優人(ゆうと)


 ゆう君は頭が良いわけでも、運動ができるわけでも、顔がイケメンなわけでもない。

 でも、ゆう君は優しさと親切心を兼ね備えていた。

 そんなゆう君は、まさに名は体を表している、そんな幼馴染なのだ。

 だから私は、ゆう君を好きになったのだ。


 そう、あれは私とゆう君がまだ小学5年生の頃の話。


 私は自分でも容姿が優れていると自負している。


 そんな私が小学5年生にもなると、恋に敏感なお年頃の男子達が皆んな……は言い過ぎかもしれないが、多くの男子達から揶揄われたり、意地悪をされたりするようになった。

 そう、好きな子の意識を向けたいがために発動する、小学生男子あるあるのやつだ。


 例えば男子に髪の毛を抜かれたり、隣の席の男子に消しカスを飛ばされたり、また、小学生っぽい暴言である、『ブス』やら『チビ』やらetc……。

 いや、私が『チビ』なのは事実だけど……。


 とにかく、そういったことをされたり言われたりした時、いつも私を庇ってくれたのがゆう君だ。


 そう言った小さな積み重ねにより、私はいつの間にかゆう君のことを、少しずつ異性として意識し出していた。


 そして、私がゆう君に恋に落ちる決め手となった事件があった。

 それは、女子からの結構ガチ目な嫌がらせをされていた私を、ゆう君が身を挺して守ってくれた時。


 別にモテたくてモテてるわけではないのに、私は容姿が良いので、いかんせん男子達からモテる。

 そんな私を気に入らなかった一部の女子達から、下駄箱の上靴を隠されたり、体操服を隠されたりなどの、一線を越えた嫌がらせをされ始めたのだ。


 それらの行為によって、まだ幼かった頃の私は本気で泣いた。それはもう、わんわんと泣いた。

 ゆう君はそんな私を、いつも慰めてくれた。そして、いつも一緒になって探してくれた。


 ゆう君は私のために、いつも全力で女子達から守ってくれた。

 時には、女子達と言い合いになった時もあった。時には、ゆう君が女子達の標的にされる時もあった。

 それでもゆう君は、いつも私を守ってくれた。庇ってくれた。いつも、私の味方でいてくれた。


 私はまた泣いた。

 だが、この涙は悲しみの涙ではない。

 この涙は、ゆう君の優しさに、親切心に、そして、私を本気で守ってくれる、その格好良さに。


 私はゆう君に──恋に落ちた。


 その後、女子達からの私への嫌がらせの件は先生に見つかり、綺麗さっぱり無くなった。

 まぁ、男子達からの地味な嫌がらせは、その後もちょくちょくあったけど。


 でも、そんなことが気にならないほど、私はゆう君のことが大好きになり、ゆう君にしか目が行かなくなった。


 でも、ゆう君は私のことが異性として好き……そんな感情やら行動やらが見られなかった。


 そこで私はゆう君を落とすべく、行動に移した。


 それは何か?

 無意識小悪魔ムーブだ。

 実際は無意識どころか、全然意識して小悪魔ムーブをしているわけだけど。


 無意識小悪魔ムーブ。

 例えば、ゆう君の身体にピタリと自分の身体をくっ付けて、スマホで動物の写真を見せたり。

 例えば、笑顔を向けてゆう君の手をサラッと繋いで、祭りの屋台に連行したり。

 例えば、ゆう君の肩に自分の頭を乗っけてみたり。


 でも、私がこんなに好意を見せているのにも関わらず、ゆう君は恥ずかしがることもなく、いつもケロッとしていた。


 多分、ゆう君からしたら私はただの幼馴染……それだけの存在なんだろう。もしくは、家族としてしか見れないとか。

 だから、私のことを意識してくれないのだと思う。


 何とも悲しい話だろうか……。






◇◇◇



 私は今、ゆう君のお部屋にお邪魔していた。


 そしてゆう君が私のことをどう思っているのか、それを調べるために、今日まで温めていた引っ越しの話を今からゆう君に話そうと思う。

 

「実は亜美ね……、2日後に引っ越すことになってるの……」


 私は少し俯いたのちに顔を上げて、眉根を少し下げて、悲しそうな表情を浮かべる。


 ゆう君は今どんな表情をしているのかと思い、ゆう君の表情をチラリと盗み見る。

 ゆう君は私の告白に衝撃を受けたのか、驚いた表情をしながら固まっている。


「いきなりでごめんね? でも、切り出す勇気がなかなかなくて、それでこんな直前に話すことになったの……」


 私は少し申し訳なさそうにしながらそう言った。


 因みに、切り出す勇気がなかったから直前になっただなんて、私の真っ赤な嘘である。

 直前まで言わない方が、ゆう君の本音を聞けると思ったからだ。


 例えば、行かないでくれとか。お前のことが好きだとか。付き合ってくれだとか。

 そう言った言葉を聞ける可能性があったから、敢えて直前になるまで言わなかった。


 ゆう君は数秒固まったのち、ぎこちなく口を開いた。


「えっと……。それは、寂しくなるな……」

「うん……」


 ゆう君も少し眉根を下げて、言葉通り寂しそうにそう言った。


 対する私は、期待してたゆう君の反応と違いすぎて、内心かなり驚いていた。

 そしてそれと同時に、ゆう君のその言葉を聞いて、私は内心で本気で悲しくなった。


 これはもう、ほぼほぼ確定かもしれない。ゆう君は私のことが家族として好き、もしくは、幼馴染として好きだということに。


 私は一途の望みをかけて、ゆう君に問いかけた。


「ねぇゆう君……。他に亜美になにか言いたいこととかないの……?」


 ゆう君がここでどんな言葉をかけてくれるのかと少し不安になり、私の瞳が揺れる。


「言いたいこと……」


 ゆう君は数秒考えたのちに、私に言いたいことを話し出した。


「そうだな……。元気でな……ってことぐらいかな。でも、引っ越してはなばなれになっても、俺のことは忘れないで欲しいかな」


 ゆう君の言葉に私は瞳を見開き、少し驚いた表情を浮かべた後、ぷくっと頬を膨らませて、ぷいっと明後日の方向へそっぽを向いた。


「ゆう君なんてもう知らない!」

「ええぇ!? なんでぇ!?」


 ゆう君は驚いた表情を浮かべて、少し声を大きくした。


 私はゆう君の部屋の扉を開けて、廊下に飛び出る。そしてバンっと、力強く扉を閉めた。


 ──バカバカバカ!! ゆう君のバカ!! 行かないでって言ってよ!! 私のこと好きって言ってよ!! 付き合ってって言ってよ!! 


 私は少し涙目になりながら階段を駆け下りる。


 リビングでテレビを見ていたゆう君のお母さんが、私を見て少し心配そうにしながら声をかけた。


「亜美ちゃんどうしたの? なんかあった? もしかして私のバカ息子に泣かされた?」

「ふぇーん! 優子さーん! ゆう君が……! ゆう君が……!」


 私はこの時、瞳に涙を溜めて、失礼なことも厭わず、ゆう君のお母さん──相川あいかわ 優子ゆうこさんに抱きついた。


 優子さんはよしよしと私の頭を撫でてくれる。

 そして優しい声色で語りかけてくる。


「どうしたの? 何かあったのなら遠慮なく言ってちょうだいね?」


 私は一通り優子さんのお腹で泣いてから、涙目をしながらかいつまんで先程の話を話した。






◇◇◇



「なるほどねぇ……。優人の奴がそんなことを……。亜美ちゃんを泣かさるなんて許せないわね……ッ!」


 優子さんが2階のゆう君のお部屋に怒りの形相を向ける。


「そ、そんなに怒らないであげてください! 私に告白する勇気がないだけですから!」


 私は慌てて優子さんを止める。

 これでゆう君が怒られるなんて、流石に不憫だ。


「そう? 大丈夫ならいいのだけれど……」

「はい! 大丈夫です! あと優子さんの服、私の涙で濡れちゃいましたね……。すみません……」

「それくらい良いわよ。それどころか、もっと私のお腹で泣いてくれてもいいわよ?」


 優子さんは、私が涙で服を濡らしてしまったことに責任を感じさせないためか、少しニヤっとしながらおどけてみせた。


 流石ゆう君のお母さん。ゆう君が優しいのなら、そのお母さんである優子さんも優しいのだ。

 凄く血の繋がりを感じる。


「そう言ってくれて嬉しいです。ありがとうございます」

 

 私はその優しさに感謝を示して、礼を述べた。


「あと、ゆう君が私ことを聞いてきても、私がゆう君が好きなこととか、さっき泣いてたこととか言わないでくれると嬉しいです」

「もちろんよ。それにしても……こんなに礼儀正しい子を泣かせるなんて、やっぱり優人の奴は許せないわね……。これは重罪ね」

「も、もう良いですから!」


 優子さんが、また怒りの形相をし出したので、私はもう一度止める。


「それに私、実は1つ、いい考えがあるんです。絶対に成功するとは言えませんけど」


 そう、私には1つ、考えがある。

 私のことを幼馴染とか家族としてしか見れなかったとしても、この考えをゆう君に話したら、多分、ゆう君も御涙頂戴で頷いてくれるはず……。

 今の私、今までで1番、最高に小悪魔。


「そうなの? それはどんなことかしら?」


 優子さんが気になる様子で私を見る。


「実は私、明日ゆう君に──」


 私の考えを優子さんに話した。

 それを聞いた優子さんは、おかしそうに吹き出し、笑い出した。


「あはは!! 亜美ちゃん、それはなかなかの策士ね!! あはは!!」


 うん、私もこれ、なかなかの策士だと自分でも自負しています!


 でも、これを実行するには、まずは優子さんの許可が必要だ。


「それでですね、これ、ゆう君に明日言っても大丈夫ですか?」

「ええ! 私は良いわよ! 優人のお父さんにもこのこと伝えるけれど、おそらく大丈夫よ!」


 優子さんは目尻に溜まった涙を指で拭いながら、明日言ってもいいと許可を出してくれる。


「少しあの人に電話してみるわね?」


 そう言って、優子さんはスマホを取り出し、ゆう君のお父さんに電話をかけた。

 数十秒話したのちに優子さんは電話を切り、私にどうだったのか話す。


「良いって言ってるわ」

「っ! そ、そうですか! やったぁ!」


 私は許可が貰えたことに嬉しくなり、今の自分の感情を表すかのように、表情を緩めてその場でぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「亜美ちゃんの親御さんは? ちゃんと許可貰ってるの?」

「はい! バッチリ貰ってます!」


 私は飛び跳ねをやめて、満面笑みを浮かべて答えた。


「あはは! じゃあ何の問題もないわね」


 続けて優子さんが話す。


「明後日の優人の表情、凄く楽しみね……」

「はい! でも、明日話すにしても、断られたらどうしよう……」

「亜美ちゃん、それはおそらく大丈夫よ。だから安心して明日言いなさい!」


 優子さんは、明日ゆう君に話す私の策士は大丈夫だと、力強く頷いた。


 本当かな……? でも、ゆう君のお母さんの優子さんが大丈夫だと言ってるんだから、多分大丈夫だよね?


 少し不安は残るものの、早く明日にならないかなとワクワクとしていた。


「もしそうなったら、私達は支援するから安心して頂戴ね?」

「っ! ありがとうございます!」

「因みに亜美ちゃんの親御さんは?」

「私の両親も、もしそうなったら支援してくれるそうです!」

「そう。ならあとは優人に話すだけね。頑張りなさい」

「はい!」


 私は元気よく返事をした。


 私は、先程のゆう君の返答時の悲しい気持ちとはまるで違い、今の私の心はドキドキで一杯だった。


「このことを両親にも伝えてきます! なので、今日はこの辺りでお暇させてもらいます!」

「はい、気をつけて帰りなさいね」


 笑顔で手を振ってくれる優子さんに、私はペコリと頭を下げて、ルンルン気分で家へと戻った。


 待っててね、ゆう君。上手くいけば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだから!






◇◇◇



 今日はゆう君のお母さんに許可を貰った次の日、つまり、私が引っ越しする前日。

 私は昨夜、ゆう君に電話をかけて「明日は一緒に過ごそう」と約束を取り付けておいた。

 今日、私がやることは一つ──これまでゆう君と一緒に行った地元の思い出巡りだ。


 つまり、昨日の夜の電話の段階で、私は引っ越しする前にゆう君と思い出の場所を回りたいと言っているのだ。


 家族として、もしくはただの幼馴染としか見られていないくとも、流石に私にそんなことをお願いされたら、優しいゆう君は頷く他ないだろうと思ったのだ。


 結果はご想像通り、ゆう君は私のお願いを聞き入れてくれた。

 私はゆう君の優しさに付け入った形にはなったが、最高のタイミングで()()()()を言うには、これしかなかったのだ。


 そう、今日のこのゆう君との思い出巡りの最後に、私はゆう君にとあるお願い事をする。いや、お願い事というよりも、約束を取り付けると言った方が正しいかもしれない。


 その約束とはなんなのか。


『再会したら亜美と結婚して』


 これである。


 今日一日思い出巡りをして、ゆう君に明日からは私が居ないと寂しさを感じてもらう……寂しんでくれるよね?


 とにかく、ゆう君に寂しさを感じてもらい、そして最後に、『再会したら亜美と結婚して』と言って、これまたゆう君の優しさに漬け込んで頷いてもらう作戦。

 最高に小悪魔的作戦である。


 ゆう君は私のことを異性として意識していない可能性の方が高いのに、何故そんな大胆な告白が出来るのか。


 答えは簡単。勝算があるからだ。


 勝算確率が高い理由は、大きく分けて二つある。


 ひとつはゆう君が世界一優しいから。もうひとつは、ゆう君のお母さんが“絶対大丈夫”って太鼓判を押してくれたから。


 二つ目の理由に関しては、ゆう君のお母さんがそう言ったのだ。それならば、これ程までに頼もしい言葉はないだろう。

 とは言え、未だに少し不安が残るのは事実だけど。


 とにかく、この二つがゆう君が私の言葉に頷いてくれる可能性──つまり、勝算が高い理由である。






◇◇◇



「ゆう君、今日は亜美のために時間を割いてくれてありがとね?」


 私は今、ゆう君のお家へとやって来ていた。

 そしてお家のベルを鳴らして、丁度ゆう君が玄関から出て来たところだった。


「当たり前だろ? 今日で亜美とは離れ離れになってしまうんだしさ」


 ゆう君は「何を当たり前のことを」といったケロッとした表情をしながら答えた。


「そ、れに、す、少し、でも、亜美と────」


 ゆう君は顔を赤くさせて、何故か俯き、小さな声でモゴモゴと喋る。声が小さすぎて最後の方が聞こえなかった。


「最後の方の声が小さくて、よく聞こえなかったの。今、なんて言ったの?」

「い、いや、なんでもないよ」


 ゆう君は俯いていた頭を上げて、フルフルと頭を左右に振った。


「?」


 私は首を傾げて、疑問符を浮かべる。

 だが、すぐに意識を切り替えて笑顔を浮かべる。


「まぁ、良いや! 今日はよろしくね、ゆう君!」


 私はいつだかのようにゆう君の手を引っ張る。


「あ、ああ。今日はよろしくな」


 ゆう君はなおも顔を赤くさせて、歯切れ悪く返事をした。


 私とゆう君は2人の思い出の場所を色々と回った。


 私たちが通っていた小学校や中学校。昔はよく一緒に行った駄菓子屋や、一緒になってテスト勉強をしたファミレス、初めて2人で行った夏祭り会場の神社など……。その他にも、私とゆう君は色々な思い出の場所を巡った。


 そして思い出巡りも終盤、太陽は傾き夕日が眩しい時間帯。

 私はこの思い出巡りの最後に行こうと思っていた場所に、ゆう君と2人で来ていた。


 見渡す限りの広大な広場。中央には噴水があり、広場の中には湖も見受けられる。

 また、子供が遊ぶためのピラミッド型のクライミングネットやら、小さい子が遊ぶような遊具もある。

 そう、私とゆう君が訪れたのは大きな公園である。


「うわ〜。懐かしいな。小さい時によく一緒に遊んだよな」

「うん、そうだね」


 小さい頃にこの公園でゆう君と遊んだ記憶を思い返しながら、私はその公園のとある場所まで歩いていく。その後をゆう君も着いてくる。

 そして、私はある場所で止まった。


「ゆう君、ここ、覚えてるかな?」


 私は公園の中心である、噴水までやって来た。


「ああ、覚えてるぞ。亜美と初めて会ったところだな」


 私はゆう君を背後に、ふふっと小さく笑みをこぼす。


 私は幼稚園にも入る前、ゆう君と初めて出会った日のことを思い返す。

 

 本当に懐かしい……。ここでお母さんから迷子になって泣いていた私に、ゆう君は声をかけてくれて一緒になって探してくれたのだ。この時、ゆう君のお母さんである優子さんも一緒になって探してくれた。


 私のお母さんを探している間、ゆう君は私が寂しくないようにずっと手を握ってくれて、ずっと笑顔で話しかけてくれた。

 しかも、私と同じ年齢の小さな男の子が。

 本当にゆう君は、ずっと優しい男の子のままだ。


 私はゆう君と初めて出会った日のことから思考を戻す。


 ──よし! 頑張れ亜美! 気合いを入れろ! 今からゆう君に告白するんだ!


 私は身体を翻し、緊張で震えた声をしながらゆう君に問いかけた。


「ねぇゆう君、私が引っ越しする前に1つ、お願いを聞いてくれるかな?」


 噴水の水しぶきが、夕日に照らされてキラキラと輝いている。

 私の頬も夕日に照らされて、真っ朱に染まっていることだろう。


 ゆう君は緊張した面持ちでゴクリと固唾を飲み込む。もしかしたら、私が今からなにをするのか分かったのかもしれない。

 ゆう君も私と同様、顔が真っ朱に染まる。


「も、もちろん。俺に出来ることならなんだって言ってくれ」


 ゆう君は震える声で返事をして、コクンと頷いた。


 それを確認した私は、18年間生きてきた中で1番、緊張が最高潮にまで達する。


 私は高鳴る鼓動を落ち着かせるため、大きく深呼吸をする。


 広場の奥からは子どもたちやその親の声が聞こえるが、私たちの周りはまるで時間が止まったみたいに静かになった。


 私は手をぎゅっと握りしめ、少し震える指先を絡めて見つめる。そして私は顔を上げて、ゆう君の瞳を真っ直ぐに見つめた。


「ねぇゆう君……、再会したらさ、亜美と、結婚してくれないかな?」


 これ、完璧に決まったんじゃないかな!? でも、亜美のこのドキドキも、そのドキドキのせいで亜美の顔が真っ朱になってるのも演技じゃなくて本当だけど……でも、やっぱり完璧だと思う!


 私は計画が完璧に決まったことに対して、内心で歓喜していた。


 でも、これで断られたら多分……ううん、絶対亜美泣いちゃうな……。


 でも……、もしここで断られて亜美が泣いちゃったら、もしかしてゆう君が亜美のことを慰めるために抱きしめてくれたり!? キャー! 考えただけでもドキドキが……!


 あー! だ、ダメだよゆう君!! 亜美のそんなとこ触っちゃったら! って違う!! 今はそんなこと考えたらダメ!! 今は『再会したら結婚して』作戦の成功を信じる時!!






◇◇◇



「ねぇゆう君……、再会したらさ、亜美と、結婚してくれないかな?」


 亜美あみは頬を真っ朱に染めて、俺の瞳をしっかりと見ながら告白をしてくる。


 亜美が顔を真っ朱に染めた時点で、もしかしたら告白されるかも……なんて淡い期待をしていだが、まさか本当に告白だったとは……。

 それに、亜美が俺のことを好きだったとは思わなかった。


 俺は亜美が好き。亜美は俺が好き。

 なら、答えは1つだろう。


 俺は朱く染まった顔で、亜美に告白の返事をする。


「うん、良いよ。再会したら結婚しよう……ん? 結婚……? 結婚!?」


 俺は遅れて言葉の意味を正しく理解して、瞳を見開き、驚愕した表情を浮かべて亜美を見る。

 これではもはや、告白ではなくプロポーズではないか。逆プロポーズである。


「えっ!? 亜美、今結婚って言った!? 付き合ってじゃなくて!?」

「うん、亜美はゆう君と結婚したいの。それくらいゆう君のこと好きなの。でも、次いつゆう君と再会出来るか分からないでしょ? だから、亜美と結婚の約束をして、ゆう君が亜美の婚約者になって欲しいの。そしたらゆう君に悪い虫がつかないでしょ?」

「……」


 どうやら、亜美は俺のことが相当好きなようだ。こんなに好意を持っていてくれたとは……。俺は相当な鈍感野郎なのかもしれない。


「さっきゆう君、亜美と結婚してくれるって頷いたから。やっぱり無しとかダメだからね?」

「いや、あれは告白だと思って頷いて、頷いた後に『結婚して』だったと分かったわけでして……」

「やっぱり無しとか──ダメだからね?」

「はい! もちろんです!」


 亜美からの圧が凄いのよ……。

 

 亜美が目尻に力を入れて見てくるので、俺は思わず頷いてしまう。

 でも、俺は亜美が好きなんだ。なら、断る選択肢なんてはなからないだろう。

 

 今日、亜美と別れたら次の再会がいつになるか分からないけど、亜美を幸せにするためにも勉強頑張らないと。そして、亜美に相応しい男になったら、俺は亜美を迎えに行こう。


「亜美、一応ゆう君に聞きたいことがあるんだけど、聞いてもいいかな……?」


 亜美は不安そうに身体の前で指を絡めて、上目遣いでチラリと見てくる。可愛い!


「いいけど……。なんかあるのか?」

「その……、亜美の、さ、『結婚して』って言葉、受け入れてくれたでしょ?」


 亜美の問いかけに頷いて肯定の意を現す。

 それを見た亜美は、先程よりもさらに不安そうに瞳を揺らしながら、続けて俺に聞いてくる。


「ゆう君は私を見て仕方なく頷いてくれたのか、それとも、そ、その……亜美の、ことが、す、す、好き、だから、頷い、て、く、くれ、たの……?」


 なんだ。そんなことか。

 流石の俺も、好きでもない女子の告白に頷くことなんてしない。

 俺はこれでも、何故かちょくちょく女子から告白されるくらいの男ではあるが、今までの女子のその告白に頷いたことは一度もない。

 何故なら、俺は亜美のことが好きだから。


「俺は誰でも頷くわけじゃないぞ? 相手が亜美だから、俺は頷いたんだよ。だから安心してよ。俺はちゃんと、その……、亜美のことが、す、好きだからさ……」


 少し気恥ずかしくなり、亜美から視線を逸らしながらそう答えた。


 それを確認した亜美は、パァーと表情が明るくなった。


「そんなんだ! ゆう君は亜美のこと好きだったんだ! 亜美、今すっごく嬉しい!」


 亜美の笑顔を見て、俺も亜美とは同様に笑顔になった。


「じゃあ、亜美、そろそろ帰ろうか」


 俺は亜美に右手を差し出した。

 亜美は俺の差し出された右手を見て、嬉しそうにその手を繋いだ。


「うん!」


 亜美は元気よく、返事をした。


 俺と亜美は仲良く手を繋ぎ、亜美の家へと向かって歩いていく。


 これが終われば、明日からは亜美がいない生活。昨日までの俺は寂しさと悲しさで絶望していたが、それもさっきまでの話だ。

 何故なら現時点をもって、俺と亜美は婚約者同士になったからだ。そんなもん、全部吹き飛んだ。


 絶対に俺のことが異性として好きじゃないと思っていた大好きな女の子が、今は俺と手を繋いでいるのだから。いや、前もこんなことあったか……。

 とにかく、しばらく亜美と会えなくなったとしても、亜美の婚約者になって人生絶好調の今の俺からしたら、寂しくも悲しくも全くないのだ!






◇◇◇



 ──あああああああああああああああ!! 亜美が居ないいいいいいい!! もう俺は無理だああああああ!! 俺はこの先生きていけないいいいいいい!!!


 俺は自分の部屋のベッドの上で、枕にしくしくと涙を流して絶望していた。


 昨日、亜美が居なくても寂しくないし悲しくないと言ったな? アレは嘘だ。バチくそに寂しいし、バチくそに悲しい。


 昨日、亜美を亜美の家まで送った後に、自分の家に帰ってから亜美と夜遅くまで電話してたのに、亜美とはもう当分会えないと思うとめちゃくちゃ泣けてくる……。


 もう亜美と会いたくなってる自分がいる。

 でも、我慢だ。俺は亜美の婚約者だ。なら、亜美の隣に立てるように、立派にならないと。


 俺は今年、受験生だ。勉強をもっと頑張って、良い会社に入って、亜美を楽させてあげるんだ!


 俺は気合いを入れてベットから起き上がり、勉強机の椅子に触り、教科書を開いて勉強しよう……と思ったその時、ピンポーンと家のチャイムが鳴った。


 ──こんな朝から一体誰なんだ?


 現在時刻は朝の9時30分。こんな朝早くから訪問販売でもしているのだろうか? マジでご苦労様だわ。


 まぁ、母さんが出てくれるだろ。

 と言うことで、俺は筆記用具を手に持ち、勉強をしようとノートにシャーペンを走らせようとするが──


「優人ー! 母さんの代わりに出てくれないかしらー!? 今ちょっと手が離せないから!!」


 ──丁度、母さんからの呼びかけがかかった。

 どうやら俺が出ていかないといけないらしい。


 2階にいる俺にも聞こえるように、母さんの大きな声が1階から聞こえてくる。


「分かったー!!」


 俺も1階にいる母さんに聞こえるように、大きな声で返事をした。


 俺は筆記用具を置き、自分の部屋を飛び出して1階に降りていく。


 母さんはリビングのソファに座ってニヤニヤとした表情を浮かべていた。


「全然母さん手空いてるじゃん……」


 俺は母さんにジト目を向けた。


「早く出て。お客さんがお待ちよ。お隣に引っ越してきた人みたい。挨拶してきなさい」


 なるほど。

 最近引っ越し業者のトラック来てたもんな。


 と言うか、なんで俺が出るんだよ。おかしいだろ。父さんが居ないなら、普通こういうのって母さんが出るもんだろ……。

 あと、なんで母さんはニヤニヤしてんだ? 訳分からん……。


 俺は母さんに呆れと疑問を抱きながら、てくてくと玄関まで歩いていく。玄関の扉の取手に視線を向けて、掴む。そして玄関の扉を開けてから流れるように取手から視線を上げ、訪問者に顔を向ける──。


「今日隣に越してきた城ヶ崎(じょうがさき)と言います。これ、つまらないものですがどうぞ」


 どうやら隣に越してきた人は城ヶ崎さんと言うらしい。その城ヶ崎さんが菓子折りを持ってきてくれたみたいだ……………………………………………………………

…………………………………………………………………

…………………………………………………………………

……………………………………………………………………………………………………………………………………………ん???????


 ッスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ………………………………………………………………………………ん????????


 俺の目の前には、亜美と瓜二つの人物がいた。

 でも、昨日亜美って引っ越していったよな?


 俺は目をゴシゴシと手で擦り、もう一度ちゃんと相手を見る。 

 俺の目の前には、亜美と瓜二つの人物がいた。


 ………………ん??????


 俺はもう一度目をゴシゴシと手で擦り、相手をしっかりと見る。 

 俺の目の前には、亜美と瓜二つの人物がいた。


 亜美と瓜二つの人物は俺を眺めながらニコニコとしている。

 数秒後、亜美と瓜二つの人物が口を開いた。


「昨日の結婚(約束)、覚えてるよね?」


 ………………………………。


 俺の思考がやっと正常に回りだす。


 そして、俺は思う──


「再会したら結婚して」と言って引っ越していった幼馴染が、翌日隣の家に引っ越してきた。


 ──と。



                       完
















 初めましての方は初めまして。お久しぶりの方はお久しぶりです。

 胡桃(くるみ) 瑠玖(るく)です。


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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