アカシアの記3:青年ルイ
時は流れ魔女同士の戦い、通称「ソフィアライギ」の日になった。
ルイは青年に成長し、魔法使いとしても十分な力を身に着けていた。
「ザナ、ソフィアライギの場所はどこなんだ?」
「ルイ、ソフィアライギに行くときはあなたは目隠しをしてもらう必要があるのよ。ごめんなさいね。」
「わかった」
ルイは目隠しをした。
「今から行くわよ。」
ザナは魔法陣を展開し、二人でその中に入った。すると体感では一瞬にしてどこかへ移動したように感じた。
「ついたわよ。」
ルイは目隠しを取る。
「ここは……?」
そこはまるで森の中のようだった。
ザナは木の枝先を頼りに森の中を進んでいく。
(ザナは何を見ているんだ?)
ルイはザナの視線の先を見る。
すると木の枝先のところをよく見るとそれは人間の手のようになっていてソフィアライギの場所を示しているように見えた。
(なるほどな。)
「ここよ。」
ザナとルイはその場所へと足を踏み入れた。
そこは洞窟のように薄暗く、壁も岩肌になっていた。
「さあ、行きましょう」
「まだあるのか…」
ザナはどんどん進んで行った。
「おいザナ。」
「なに?ルイ」
「本当にここで合ってるのか?」
「遠いと思ったでしょ。そうなの。結界をそこら中に張ってるから普通の行き方じゃたどり着かないのよ。ついてきて」
それから少し歩くとザナが足を止めた。
「ここからは目を閉じて頂戴。閉じた方が身のためだから」
ルイはすぐに言われた通りにした。
「絶対に私の手を握って離さないでね」
「わかったよ」
ルイはザナの手を握った。
そしてしばらく歩いていると急に宙に浮いた感覚になった。
すごい速さで落ちている感覚に襲われ、我慢できずに目を開けた。
「うわああああああ」
ルイとザナは落下していた。しかも暗闇の中を。ルイは必死に目を凝らすが何も見えない。
ルイは手を握りしめ、ザナがいる方向とは逆の方を向いて声を出した。
「ザナー!!いるかー!!」
ルイの声が反響するだけで返事はない。
ルイは焦りを感じていた。
「ザナー!どこにいるんだよ!」
その時、ルイは気づいた。
「これ……まさか……」
「わかる?あなたは今、地面に立っているのよ。」
ルイが意識を集中してみると、確かに自分が地面に立っているのを感じた。
「あ、どうして……」
「ここからのルールを教えておくわ。」
「ルール?」
「そう。ここからが本番よ。ルールは3つあるの。まず1つ目が、必ずパートナーと一緒に行動しなければならないということ。そして2つ目は、ソフィアライギでチームのうちどちらかが死んだら、そのチームは脱落となる。最後の3つ目は、ソフィアライギに参加する者は、最後の勝利チームが出るまで地上へ戻っては行けないということ。」
「最後まで勝たないと…どっちかが死ぬってことか」
「そういうことになるわね。でも安心して。私がいればどんな敵が来ても怖くないわ。」
「そうだといいけど……」
ルイは不安と恐怖心を抱えながら暗闇の中を歩いていった。
どれくらい歩いただろうか。
ルイは、もう体力の限界だった。
「なあ……まだつかないのか?」
「もう少しよ。あと少しだけ頑張って」
すると急に地面の色が変わり、一瞬にして周りに空が現れた。
「こ、これが…」
「そう、ソフィアライギの場所よ」
ルイの目には壮大な光景が広がっていた。
「すげぇ……」
ルイは思わず息を呑んだ。
そこには魔女同士が戦っているのが見え、さらにその中心に大きな城のようなものが建っているのが見える。
ザナとルイはその城の前まで来た。
ザナは城の扉に手をかけ、ゆっくりと開いた。
「ザナ・ヴェート!!!」
城の中から誰かがザナを呼んだ。
「レイリーン!!!」
ザナもその女の名を呼ぶ。
「よく来たな。来れないかと思ったぞ。」
「そっちこそ」
「お前はいつも余裕ぶった態度をとる」
「それはお互い様でしょ」
二人は睨み合っている。
「それで、今回はどんな奴を連れてきた?」
「彼よ。」
「どうも」
「ほうほうほう。君、魔血石はとんでもない色をしているようだねぇ。でもうちの永遠のエースには勝てないと思うけどねぇオホホホホホ」
「声がうるさい。」
ザナは冷たい目線で言い放った。
「ところで、今回のソフィアライギのテーマは?」
「決まってるだろう?『力』だよ」
「まあ、そうよね。昔と変わらない」
ザナは腕を組んで言った。
「他のはまだなの?」
「ツァルはもう来てるわ。城の上にいたわよ。見えなかった?もう一人はいつもの通り遅刻よ。オホホホ」
「はぁ……またあいつか」
ザナはため息をつく。
「なあザナ。ちょっと聞きたいんだけど。」
「何かしら?」
「今日の戦うメンバー知りたいんだ。急に始まってもよくわかんないんじゃ不安だし」
「そうね。でも前に教えた通りのメンバーだと思うんだけどね。えーっと、まずはレイリーン・フェニックス。火の魔法族フェニックス家に伝わる不死鳥を使うわ。次はツァル・リドゥ。氷の魔法族リドゥ家に伝わるコールデン・ハートを使うわ。次は遅刻魔のクレイシア・ハーン。前回最下位の負け犬よ。以上」
「ああ、なんかそんな感じで言ってたね。変わってない感じか。」
「まあレイリーンとツァルは変わらないと思うわ。一族の伝統ってのがあるらしいし。クレイシアは前回老いぼれ爺さんで挑んできたのよ。確か不死鳥が殺しちゃった気がするわ。だから何が来るかわからないけど…まさか老いぼれを復活させたりはしないだろうけどねハハハ」
(なんかすごい緊張してきた。これは武者震いってやつか?…震える)
「お、遅れて、ご、ごめんなさい。」
「ジャラジャラ、ジャラジャラ…」
顔に黒い十字マークを付けた女の人が城の中に入ってきた。
「おっせぇんだよクレイシア!最下位のくせに調子乗ってんじゃねぇぞ!」
レイリーンが怒号をあげた。
「あ、あんまり怒るとけ、血管切れるよ。と、歳なんだからさ……」
「黙りやがれ!年寄り扱いするな!!」
レイリーンは怒り狂っている。
「あら、クレイシア、あなたまだあの時と同じ服着てるの?」
「だって、これしかないもの。ザナ服くれない?」
「嫌よ。私ももう同じのしか持ってないもの」
「相変わらず貧乏ね。オホホ」
ザナとクレイシアとレイリーンはバチバチだ。
そんな中、ツァルが城の上から降りてきた。白く美しく、他とは一線を画す存在だ。
「じゃあそろそろいいかしら?」
ツァルが聞く。
「いいよ」
「OK」
「いつでも」
城の中でソフィアライギは始まった。まず最初に動いたのはツァルだった。
ツァルは杖を天高く掲げ、叫んだ。
「凍てつく大地よ、我が命に従い、敵を焼き払う炎となれ!!」
ツァルが叫ぶと、城の周りに吹雪が発生し、そこからいくつもの巨大な氷柱が現れた。その氷柱は城に向かって一斉に放たれた。
「フッ。くだらん。」
レイリーンが言うと、城の周りから灼熱の業火が現れ、迫り来る氷柱を全て溶かしてしまった。
「あらら、やっぱりレイリーンの魔法には勝てないか」
ザナは冷静に分析している。
「この程度か?もっと本気で来ないとつまらないぞ。リドゥ」
「くっ、コールデン・ハート!行けっ!」
ツァルがそう言い放つと同時に、城の天井が破壊され、外から氷の魔人コールデン・ハートが姿を現した。
「グォオオオーーーンン!!!」
魔人は雄叫びをあげ、拳を振り上げた。そしてそのままレイリーンに向けて振り下ろした。
しかしレイリーンはその攻撃を難なくかわした。
「フッ、遅いぞ。」
「どうかな。雷氷!!!」
そう言い放った次の瞬間レイリーンの周りにあった氷が電流を放ち、レイリーンの体を貫いた。
「クハハハッ、今回の最下位はお前だなレイリーン。」
ツァルがそう言うと、レイリーンはツァルを見てニヤリと笑った。
「それはどうかな?」
ザナもツァルと同じくニヤリと笑いながら言った。
すると、なんということだろうか。ツァルの体が突然バラバラになったのだ。
「なに!?」
「ははははは!!残念だったな。俺の勝ちだぜ。」
ツァルは自分の後ろに誰かいたことに気づいた。
バラバラの体の状態でツァルは声を振り絞り上げた。
「誰だぁ!!!」
そこにいたのはルイだった。
「ルイ!」
ザナは嬉しそうに彼の名を呼んだ。
「初めましてツァルさん。俺はルイ。魔術級格闘生ヴェート型。特技は格闘による切り技。終わりましてよろしく。」
「この私がぁ…新入りごときぃ…」
ツァルは息絶えた。
「ははぁ!セロニス以来だぜ魔女が死んだのは!おもしれぇ。ルイ君よぉ、私の不死鳥と戦ってくれよ。」
レイリーンは戦いにアドレナリンを放出し、地面にエネルギーを蓄えた。
「来い!フェニックス!!!」
「グアァアアーー!!!」
レイリーンが叫ぶと、不死鳥フェニックスと呼ばれる鳥は口から火炎放射を放った。
「はああああっ!!」
「うおおおおっ!!」
両者一歩も譲らない互角の戦いを繰り広げている。
「す、すごい……これが魔法族のトップクラスの力……」
クレイシアはそれをただ眺めてるしかなかった。
そこにクレイシアにめがけて突如、手裏剣がめがけてきた。
「なっ!」
クレイシアはギリギリのところで手裏剣をよけた。しかし頬にかすり傷を負ってしまった。
「クレイシア!」
「ザナ!」
手裏剣はザナの物だった。
「あんた戦わなくてもいいやって思ってるんでしょ。」
「いや、だってもう最下位決まったし…」
「それが生ぬるいって言ってんだよ!あ、あと今投げた手裏剣もちろんレガの魔刀性だからね」
「なに!?し、死んじゃうよぉ」
「死になさい!クレイシア」
クレイシアは落胆したように座り込んだ。
するとクレイシアが何かブツブツ言い始めた。
「ハーン…」
「え?聞こえないわよ?」
「ハーン・キング!!」
次の瞬間、突如ザナの目の前に全身鋼鉄の鎧を身にまとった戦士が目の前に現れた。
「こいつが、あんたのパートナーってわけね!」
ザナはその姿を見てひるむどころか好戦的になって魔術を繰り出していった。
一方、ツァルを倒したルイはレイリーンと激闘を繰り広げていた。
「オラオラどうした!!」
「くっそ……」
レイリーンは炎で攻撃してくる。それに対して、ルイも氷属性の技を出すのだが、レイリーンの攻撃の方が威力が高いためなかなか決定打にならない。
(火には水…光には闇…正義には悪…矛には盾…クッソ……どうすりゃいい)
「おらぁ!次は不死鳥だ!」
レイリーンが叫ぶと、フェニックスは口から火球を放ってきた。
「なっ!」
ルイはなんとかそれを回避したが、レイリーンはフェニックスに乗り込んでこちらに向かってくる。
「これで終わりだぁ!!」
レイリーンが拳を振りかざしてきた。
その時ルイの耳にどこからともなく声がささやいた。
「火には火を」
その声を聴いた瞬間、ルイは巨大な炎を繰り出し、炎で不死鳥とレイリーンを飲み込んだ。
「ぐぁああ!!!」
「こいつ、まだこんな力が残ってたのか!?」
レイリーンとフェニックスはそのまま燃え尽きて消え去った。
「はあ、はあ……今のは一体?」
ルイは謎の声について考えた。しかし、そんな暇はなく、今度はハーン・キングが攻め込んできた。
「うぉおおおっ!!」
「はあ、今度はこいつか。」
ルイはため息をつきながら、剣を構えた。
「行くぞ!!はぁっ!!」
ハーン・キングは炎の弾幕と剣で応戦してくる。
それをルイは最小限の動きで回避していく。
(なんだか昔を思い出すな…)
ハーン・キングは容赦なく城の壁なども構わず破壊していく。
(思い出すなぁ…パードの師匠…元気にしてるかなぁ…)
そんな思い出を瞑想しながら戦闘していると突如城の壁の向こうから氷の攻撃が襲い掛かってきた。
(ま、まさかコールデン・ハートか!ツァル…力隠してやがったなぁ)
ザナは難しい顔をしながらツァルの死体の場所を見た。
(な、無い!死体が…)
いつの間にかツァルの死体が移動していたのであった。
「ざ、ザナぁ、ツァルもしかして、い、生きてるぅ?」
「ああ、かもね。ハハッ」
「ま、まぁ、レイリーンが死んだし、最下位は免れたよね。」
「最下位は免れたな。レイリーンは不死鳥の一族。また5年後くらい復活するかしらね」
「ザナ!ハーン・キングとコールデン・ハートは外だ。とりあえず外に出よう。」
「ルイ、ああ、そうだな……」
ルイはザナと一緒に城から出たが、そこにあったのは、なんとも悲惨な光景が広がっていた。
「なんだよこれ……」
「ひどい…わね…」
ハーン・キング、だったものは何者かによってバラバラに、内臓もぐちゃぐちゃにされてしまったのである。
「コールデン・ハート…やりすぎじゃねぇか?これは」
ルイは自分の口を押えながらザナに聞く。
「いや、このやり方はコールデン・ハートじゃないわ。もしかしたらコールデン・ハートもこんな風にされてるかも。」
「え?じゃあ一体誰がこんなことを。」
「もうアイツしかいない。ツァル・リドゥよ!」
するとザナの後ろに全身水色の何かが立っていた。
「な、なんだこいつ!」
その水色の生命体は丸い頭をして耳が長く、鼻も長いという人間とはかけ離れたものだった。
「ま、まさかツァル?」
ザナが聞くとそいつは首を縦に振った。
「お、おい嘘だろ。」
「やっぱ生きてたんだぁ。よかっ」
とザナが言った瞬間、ツァルがザナを素手で吹き飛ばした。
人間技ではない。
「なっ、くっ!こいつぅ!!!」
ルイはすぐに回復魔法をかける。しかし……
「無駄だよ。私の能力は『水』。君の回復魔法の効果を打ち消すことができる。そして私には水を操る能力があるからね。」
そう言うとツァルは口から水を吹き出した。
「うっ!ゲホッ、ゴホォッ」
ルイはまともにそれを受けてしまった。
「はぁ、はぁ、水はわかった。けどバラバラにしたのがわからねぇ。どうやってバラバラにした。」
「ああ、これ?これは君に対する腹いせでもあるよ。君が最初に私をバラバラにしたんだからね。」
「くっ、根の持つタイプってわけか。人間らしいこと言うじゃねぇか…」
「はっ、まあその通りだな。親切に教えると私は人間の中にある水分もコントロールできるんだよ。だからハーン・キングの体の中に私が入って全身の水をコントロールして切断してあげたってわけ。」
「はぁ、一旦体の中に入るってわけだ。気持ちわりぃ。」
「でももう同じ作戦は使わないわ。あなたは私が直々に刃物で切り刻んであげる!」
突如ルイの頭上にコールデン・ハートが現れルイにのしかかろうとした。
ルイは素早く回避し、コールデン・ハートの体を真っ二つにした。
「コールデン・ハートはバラバラにしなかったんだなぁ!」
「私はそんな下衆じゃないわ!!」
ルイとツァルの拳がぶつかり合った。二人はお互いに距離を取り、睨みあった。
ルイとツァルがお互いを警戒する中、ザナが突如大声を上げた。
「終わりだぁ!!!!」
ルイとツァルはザナの声で我に返った。
「あぁ、コールデン・ハートが切られたのね。」
ツァルは落胆して座り込んでしまった。
するとツァルの体は裸の状態で女の人間の姿に戻っていった。
「皆、スタンドプレーが好きなのよね。」
ザナが呆れたように言う。
クレイシアも城の片隅からトボトボ歩いてきた。
「何してたのよクレイシア。」
ザナが聞く。
「鏡見てたの。ねぇ見て。顔!!」
クレイシアの黒い十字マークが消えていた。
「やったじゃない!これで次の黒十字はレイリーンね。」
「ふふっレイリーンか。黒十字顔で復活ね。ふふっ」
ツァルは裸の状態で不敵に笑みを浮かべる。
「これで終わりか…」
そうルイが呟くと、ルイの視界はだんだんと暗くなり、やがて意識を失ってしまった。