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アカシアの記13:狼狽のギラ

ギラは研究所の扉を開けた。

内部から空気と共に腐敗臭が漂い始める。

ギラ、ルイ、ルミナスは中へと進んでいく。

ルミナスは、


「うわ……」


と呟く。

ギラは表情を変えることなく進んで行く。

ルイは鼻を摘む。


「彼らか」

「……はい」


ギラの両親、トーマスとリリアのバラバラ死体がそこにはあった。


「……じゃ、準備をしましょうかね」


ルミナスが杖を構える。

ルイは両手を構え、魔法を発動させる。


「〝滅光〟」


白き光玉が現れ、部屋の中を満たしていく。

閃光はすぐに収まった。

しかし、その一瞬の間にトーマスとリリアの死体が互いに融合するかのようにグルグルと宙を浮き、光と共に空間の歪みに吸い込まれていった。


「トーマス=ヴィヒ・フェニックス、そしてリリア=メル・ソウテン・リドゥ、二人ともクレア・フェニックスの血を受け継いだ存在。不死身の存在。プロジェクト・アラベンダのキーパーソンになってもらいます。」

「〝超呼応〟」


ルイが魔術を発動すると、また白い光の塊が現れ、二つの光に分かれた。

その二つの光それぞれから赤ん坊が現れた。


「ほぉ、うまくいったようですね。」

「...おい、これどういうことだよ。何をするつもりなんだ?」


ギラは不信感を募らせる。


「そうですねぇ、プロジェクト・アラベンダについて教えてあげないと不公平ですねぇ。」

「説明してあげよう。ギラ」


ルイは二人の赤ん坊を抱きかかえる。

そしてルミナスはプロジェクト・アラベンダについて説明を始めた。


『プロジェクト・アラベンダ』

結論から言えば、最終的に魔女ザナ・ヴェートを倒すのが目的の計画である。

ザナを倒すためには、まずルイとザナの子供を奪取しなければならないと考えた。

ルイはザナに魔力を奪われ、その魔力をお腹の中の子供に与えていた。

子供がザナに育てられた場合、もはや太刀打ちできないほどの強力な力を持つと考えたルイとルミナスは子供が出産する前に仲間を集めようと考えた。

さまざまな伝手や魔術を使い、聖騎士団、神座の侍達、ギラなどの仲間を集めることができたルイとルミナス。

ザナの子供が生まれ次第、彼らと共にザナの屋敷ヴェート邸へ攻め込み、子供を奪取する。

その後、ルイとルミナスはトライベルトを越えた遠くの地『名もなき地』に『王国アラベンダ』を設立する計画であった。

その『王国アラベンダ』は魔界結界で呪文をはり、ザナ・ヴェートに見つからないようにする。

『王国アラベンダ』内でルイの子供や魔力の強い子供たち(生まれ変わったトーマスやリリア)を育て、十分に育った時、皆でザナを倒しに行こう。

というこれが『プロジェクト・アラベンダ』の大筋だ。


「だ、誰だよ。ザナ・ヴェートって...トーマスとリリアを育てる?...赤ん坊を奪取?...」


ギラは理解できないように唖然としている。


「...何言ってんだアンタら。頭おかしいんじゃねぇのか!」

「まぁ待て。」


ルミナスがなだめようとする。


「冗談じゃない。折角殺した両親をわざわざ復活させやがって。それを育てる??教育し直すってか?無理だ。絶対に不可能だ!こいつ等は何度か復活したことがあるし、その根本の悪意は変わってない。俺はこいつ等をどうにかして封印しなきゃいけないと思ってる。俺の思いは正しいだろ!?」


ギラは汗をちらつかせながら熱弁する。


「まぁ、言ってることはわかるし、正しいよ...」

「あとザナ・ヴェートって奴。そんなに悪い奴なのか?何をしたんだそいつは?ただ、ただルイ。アンタの元妻から子供を取り返したいだけだろ。なんでこんな大事にするんだ。」

「ザナは私の想定する最悪のシナリオを実行しようとしていると思うんだよ。」

「何だよそれ、どんなのだ。教えてみろ。」


ルミナスは研究所のオペ台に腰掛け、ザナのことについて語りだした。


「ザナは20年に一度、ソフィアライギと呼ばれる封印の儀式を行う魔女の一人だ。何を封印してると思う?ギラ」

「封印?...何だよ、ドラゴンとかか?」

「まぁ、ある意味間違ってなくもないが、そいつは魔法使いだ。」

「魔法使い?ただの魔法使いか。」

「いや、そいつはこの世界に誕生した最初の魔法使いで、君たちの始祖だよ。」

「始祖?」

「ああ、そして、私ルミナスの兄でもある。」

「何だよ、どういうことだよ。」

「名はエルデンテ・アル・アルヴァニアⅡ世。世界を終わらせることができる唯一の存在だよ。」


ギラは口をポカーンを開けることしかできなかった。


「君にとっては...おじいちゃんにあたるのかな」

「...何!?」


ギラは驚いた様子であった。


「エルデンテ・アル・アルヴァニアⅡ世とクレア・フェニックスとの間に生まれたのが、あのトーマスだよ。」

「...本当......らしいな...」


理解したかのようにギラは頭をかかえた。

ギラが思ったよりすぐに受け入れたことにルイは少々驚いていた。

ギラは研究所の写真の一つに手をかけて続けた。


「フェニックス......その名を持つ人が血縁なんだとは、薄っすら感じ取っていました。」


ギラはその写真を壁から外し、裏を見た。

そこには名前が書かれていた。


「...ギラ・モルテン・フェニックス。...やっとわかりました。これが俺の本名なんだって。」

「うん、そうか。」


ルイは悲しそうに頷いた。

ルイは続ける。


「そのエルデンテ・アル・アルヴァニアⅡ世なんだけどね……彼が生きてるとさ世界が終わっちゃうんだよね」

「はぁ……それ気になってました。世界が終わるって何なの?」

「世界を守るために代々のソフィアライギが協力して彼を封印してきたんだけど、今回ザナが妙なことを言い出したんだよね……」

「それは?」

「彼を蘇らせたいってね」


ルミナスは眉間に皺を寄せ、怒っているようだった。


「そのザナっていうのは狂ってるんですか?」

「そうじゃないんだよなぁ。多分、彼女なりに何か考えがあるはずなんだ」

「どういうことです?」

「私が予測するに。ザナは、彼女はきっと……」


ギラはルミナスの言葉を遮るように言った。


「彼を支配することができる...強力な魔力を使えば...そういうことですか?」

「……うん。おそらくそうだと我々は思ってる。」


ギラはあきれたように続けて言う。


「世界を終わらせる力を支配できたとしたら、一体どうなる...想像もできないや。」

「ふふ、まぁ、そうならないために我々が『プロジェクト・アラベンダ』を実行しようと動いてるわけだがね。」

「そうですか」


ギラは目線を下に向ける。ルイはギラに近づく。


「だからギラ。私たちに力を貸してくれ」

「俺は……」


ギラは一瞬言葉に詰まる。

ルイは心配そうにギラの顔を見る。

ギラは覚悟を決めたように話し出す。


「俺は、まだこの感情と向き合えていません。ですが、ルイさんやルミナスさんのことは信用できると思っています。だから、俺の力を必要としてくれているのなら是非使ってほしいです」


ギラは深々とお辞儀をする。

ルイはにっこり笑う。


「ありがとう」


ルイはそう答えた後、ギラの背中に手を添えた。

ギラはゆっくり顔を上げた。

そのときであった。


「ルイ!!来るぞ!!」

「えっ!」


大きな衝撃音が鳴り響いた。

ルミナスとルイは咄嗟に窓側を見る。

大きな岩のようなものが降ってきたのである。


「えぇい!!」


ルミナスは赤ん坊たちを庇ったまま、岩に向かって炎を放った。

岩は砕け散り、粉々になった。


「一体何なんだ!!これは!」

「……ルイ」

「??」


ルイはルミナスが指差す方を見る。

改座式の白夜人形がそこにいた。


「まさか、侍の使いがやってくるとは。」

「何なんです。こいつ!」


ギラは走りながら、応戦してるルイに聞く。


「奴は改座が送り込んだ人形兵器だ。多分、俺たちが契約した神座の侍の敵対勢力なんだろ。」

「仲間も増えれば、敵も増えるってことですか。」


白夜人形は研究所の壁をいとも簡単に蹴破り、三人を追う。

そしてギラを狙ってくる。


「おいおいおい」

「ちぃ!!」

「ギラ!!」


ルイは黒炎で攻撃する。

白夜人形はルイの黒炎をものともせず突っ込んでくる。

ルイはさらに黒炎を強化する。


「黒炎 舞え!!」


白夜人形に再びぶつけた。

白夜人形の腕が黒くなりはじめていた。

白夜人形は腕が使えなくなったことがわかるとルイの元へ突進をしてきた。


「くっ」

「ルイ!」


ギラは白夜人形を後ろから蹴り飛ばした。

そのタイミングでルイは研究所に落ちていた剣を持ち、白夜人形の首を切った。


「ふぅ、やっと終わったか」

「助かったよ、ギラ」

「なかなかやりますねギラさん。おや、ご両親もご満悦のようですよ。」


ルミナスの腕の中で赤ん坊のトーマスとリリアが幸せそうに笑っている。

ギラはただ困惑した表情を見せるしかなかった。

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