アカシアの記10:ギラの闘争
ギラは生まれつきギザギザした歯と赤い右手を持っていた。
そのことから周りの人々から「化け物」と揶揄され避けられていた。
そんないじわるなことをされながら過ごしていたある日、両親が家の荷物を片付け始めた。
トランクを広げ、早々と支度をしていた。
何が何だかわからなかったギラ少年は父親の膝にすがった。
父親、トーマスはギラに気づきギラを抱えた。
そして顔を近づけてこう言った。
「いいかい。今から皆で旅行に行くよ。お父さんとお母さんで準備してるからギラは馬車に乗ってなさい。」
そう言いトーマスは馬車にギラを乗せた。
ギラは馬車の後ろ窓から街の様子を見た。
まだ早朝であり、空は白くモヤがかかっているようだった。
ボーっと街を見ていると、街の奥の方から人が一人出てきたのが見えた。
なんとなくこちらを見ているような気がしてギラは不思議そうにその人を眺めていた。
すると後から一人、また一人と馬車の近くに人が現れてきた。
だんだんと何かただごとではないとギラも察し始めた。
両親が家から出てきて馬車に乗り込んだ。
すると両親の姿を確認した街の人々が一斉に馬車に向かって石を投げ始めたのだ。
ガンッガンッガンッ
ヒヒーーーーン!
石が馬車と馬に当たった。
トーマスはすぐに席に乗り出し鞭を持った。
「ヤーッ!!ヤーッ!!」
トーマスの指揮で馬車は走り出した。
走り出しても人々は石を投げつけていた。
バリンッ!!
突如、馬車の窓が割れた。
石が当たったのだ。
母リリアはギラを守るように頭を抱え込んだ。
幸いケガ人はいなかった。
人々はなぜこんなひどいことをするのか。
ギラ少年には理解できなかった。
彼ら一家はあたりをトライベルトを離れ、国々を転々と渡っていた。
街に着いては離れ、また着いては離れ、なかなか同じ場所に住みつくことができなかった。
トーマスとリリアはストレスを溜めていた。
研究をしようとするたびに街から追い出されていたからだ。
我慢の限界に達しようとしていた彼らに、やっとのこと、受け入れてくれる街に出会えたのであった。
ソルアという国のサンレオンという街だ。
サンレオンはソルアの首都であり、街の中心部にはソル・コロシアムとよばれる大きな闘技場があった。
また、ソルアには昔からルア財団と呼ばれる宗教団体が存在しソルアに多大なる影響を与えていた。
トーマスとリリア、ギラの家族を難なく受け入れたのも、そのルア財団の影響があったのかもしれない。
ルア財団と関わりがあったわけではないが、トーマスとリリアは少なからずルア財団に興味を持っていたのは事実だ。
ルア財団は秘密裏に、「魔法科学の研究」と「魔女の育成」を行っていた。
ルア財団の魔女達は「アマゾネス」と呼ばれていた。
魔女と言っても、アマゾネスはソフィアライギの4つの勢力の魔女達よりは劣っている。
その為、アマゾネスが使える魔術も火炎を放つ魔術のみだ。
アマゾネスの育成についてはジャオウという老いた魔女が指揮をやっていたが、魔法科学については指揮をする者がいなかった。
そこでトーマスとリリアの出番だ。
二人はルア財団に研究員として名乗りでた。
ルア財団は早速、二人を魔法科学専属研究員に任命した。
彼らがここに来てから研究はどんどん進んでいった。
彼らの初の研究成果の一つとして誕生したのが「魔刀」である。
かすり傷でも受ければ死に至るという最強の刀。
そんな刀を作成したのがトーマスとリリアを含むルア財団であった。
ルア財団はアマゾネスの決闘をソル・コロシアムで行った。
魔刀の性能を確かめるため、20人のアマゾネスをコロシアムに入れ殺し合いをさせたのだ。
魔刀はコロシアムの中心に置いた。
始まりの合図が鳴ると一斉にアマゾネスたちが魔刀に向かって走り出した。
アマゾネスの一人が魔刀に触れようとする。
しかし、別のアマゾネスから火炎放射をくらい、火だるまに。
その火炎放射を吹いたアマゾネスが魔刀を手にした。
魔刀は一斉にあたりを切りつけた。
一人、また一人と魔刀に切り裂かれていった。
傷を負えば死に至るのは本当のようだ。
魔刀を持ったアマゾネス以外全員が死んだ。
アマゾネスは兜を整え上官のいる観客席の方に手を振り上げ勝利を表現した。
これを見てトーマスとリリアは魔刀完成を確信し、この日を「ペルセウス・デー(魔刀の日)」と定めた。
そして喜びを隠さずに観客席で笑いと拍手をコロシアムに響かせた。
観客席の後ろの方にジャオウが一人佇んでいた。
彼女はアマゾネスたちを家族のように思っていたため、この光景をよく思っていなかった。
ジャオウはトーマスとリリアを睨みつけていたが、なぜか切ない表情を見せていた。
そんな暮らしを続け十数年。
トーマスとリリアの殺戮的実験は行われてきたが、アマゾネスたちもそれに反抗するようになってきていた。
アマゾネスたちは暴動を起こすこともあり、そしてここ数年ではソル・コロシアムでの殺し合いをすることはなくなってきていた。
暴動が起こるようになってからサンレオンから人々が去っていくようになってしまった。
ルア財団の活動も衰退の一途を辿っていっているのであった。
それを快く思わなかったトーマスとリリアは遂にアマゾネス皆殺しの計画を考え始める。
「ペルセウス・デー」になるとアマゾネスたちは決闘の犠牲者を弔うためにソル・コロシアムに集うようになっていた。
ソル・コロシアムにアマゾネスたちが集まるこの日をトーマスとリリアは狙った。
トーマスとリリアは兼ねてより閉鎖空間に閉じ込め、ムチ打ちなどの虐待的実験を行ってきたギラをソル・コロシアムに連れて行った。
ギラは布を被せられた檻に入れられ、今にも人を殺したい、そんな衝動に駆られていた。
強烈なフラストレーションによってギラの心は怪物になっていた。
日も暮れそうな夕方。
アマゾネスたちがソル・コロシアムの中心に集まっている。
中心には大きな焚き火が束ねてある。
様々な鎧や兜を着たアマゾネスたちが膝を立てて黙とうしている中、一つの荷車が
「ガッシャーーーーーーーン!!!!!!!!」
とソル・コロシアムに突っ込んできた。
「!!!」
アマゾネスたちは剣を構え、厳戒態勢に入る。
荷車はそのまま中心の焚き火にぶつかった。
荷車の檻から何かが現れた。
ギラだ。
ギラはすぐに近くにいたアマゾネスを襲い始めた。
赤い右手で一払い。
あっという間にそのアマゾネスの身体をバラバラにしてしまった。
さすがの戦士たち。
アマゾネスが一人殺られたぐらいでも何も音を上げなかった。
次々とギラに向かってアマゾネスたちが対向してきた。
だがギラは次々と攻撃をかわし、反対にアマゾネスたちの首の後ろ部分を切りさっていった。
赤い手に赤黒い血が滴っていた。
「うおおおおお!!!!!!」
一人の老婆がアマゾネスたちの後方から声を張り上げた。
アマゾネスの長、ジャオウだ。
ジャオウは長い白髪をなびかせ杖を空に掲げた。
その合図に呼応するようにアマゾネスたちも声を上げる。
「うあああ!!!」
「うりゃあああ!!!」
そして一斉にギラに襲ってきた。
火炎放射を吹くアマゾネスもいた。
必死の思いで涙を流しているアマゾネスもいた。
星の輝く夜空の下、コロシアムで怒号が鳴り響く。
ギラは赤い眼を輝かせ、アマゾネスに立ち向かう。