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冒険の始まり

「ふっふっふ。これで俺の10連勝だな」

「また負けかよぉ」


勇者ヴァンと仲間のトーマス。

今日、彼らは魔王討伐の冒険に出ようとしていた。

朝早くにヴァンの家に集まって、冒険の前にラゼルのゲームをしようということになっていた。


「もぉー、もう一回勝負しよ! 」

「いや、そろそろ準備しよう。ウィザードにも会いに行かないとだし。」

「うぅ~……」


トーマスは不満そうだったが、渋々諦めてくれたようだ。

ヴァンたちは荷物をまとめ、家を出た。

町のはずれを出たところにウィザードの屋敷があった。

二人は屋敷のドアをノックした。


「ごめんくださーい。師匠ぉ」


師匠。ウィザードはトーマスの魔法使いの師匠である。


「ガチャッ」


屋敷のドアが開いた。

長髪をなびかせながらウィザードが出迎えた。


「やあ、来たね。」


彼は魔法に関しては天才で、若くして宮廷魔術師になった。

しかし性格には少々難があり、いつも変なことばかり考えている。


「久しぶりだなぁ、ウィザード!」

「ああ、久しぶりだねヴァン。リリアなら先に来ているよ。クリームコーヒーでもいかがかな?」

「いただきます!師匠!」


トーマスは目を輝かせて言った。


「それじゃあ、お邪魔します。」


ヴァンは屋敷の中へ入った。

屋敷の中には色々な書物が置かれていた。


「すごい量ですね……。これ全部読んだんですか? 」

「もちろんだとも。僕は天才だからね。」

「ははは…」


「あら、やっと来たのね」


ヴァンのもう一人の仲間リリアが持ちくたびれたようにソファに座っていた。

手にはクリームコーヒーの入ったマグカップを持っていた。彼女はトーマスと同じく魔法使いで、回復術を学んでいた。


「久しぶりだなリリア。元気にしてたか?」

「ええ、あなたたちも相変わらずね。」

「まあ、な。それより、俺たちがいない間ちゃんと修行してたんだろうな?」

「もちろんよ。あなたたちより強くなったわ」


リリアは不敵に笑った。


「ほう。それは楽しみだな。どれくらい強くなったんだろうなぁ」

「トーマス、ちょっと試さない? 」


リリアは立ち上がった。

そして手をクロスさせて構えた。


「いいぜ。かかってこいよ」


トーマスも立ち上がり、魔法のワンドを構えた。


「行くわよ! はあっ!! 」

「うおっ!? ぐふっ……」


次の瞬間、トーマスは壁に叩きつけられていた。


「どう?私の攻撃は?」

「すげぇ……防御術を逆手に使った跳ね返りの術か。やるじゃねぇか…」

「こらこら、私の屋敷で暴れるんじゃないよ。」


ウィザードは呆れ顔だった。


「すみません……」


リリアは誇らしげに胸を張っている。


「そうだ、忘れないうちにこれを渡しておくよ。」


ウィザードは三人に小さな宝石を渡した。


「これは……例の…魔石ですか。」

「ああ。魔物に反応して光を放つ。」

「ありがとうございます。」


そんなこんなしてるうちに出発の時間になった。


「それじゃあそろそろ行こうか。」

「美味しかったです。ごちそうさまでした。ウィザード。」

「では皆さん、お気をつけて、いってらっしゃい!」


ウィザードは笑顔で彼らを、見送った。


彼らは国の外に出るための門に到着した。

門には勇者を見送るために数十人の王族が来ていた。

この国「アラベンダ」の王アーサー・ギルドレイド卿が彼らを迎える。


「ついに出発の時であるな。ヴァン勇者諸君。」


彼の姿を見たトーマスは思わず名を叫んだ。


「ギルドレイド卿!」


ヴァン、リリアも続き


「見送りに来ていただき、感謝いたします。ギルドレイド卿」

「感謝いたします。」


王族の中にはビッグレイン卿(殿堂入りを果たした勇者)、アームス(王族お墨付きの武器職人)などがいた。


「おお、アームスさんもいるぞ! 挨拶してくるぜ!」

「おい待てよトーマス。」


トーマスは走って行ってしまった。


「ははっ、あいつは相変わらずだな。」

「はあ……ほんとに子供なんだから。」


「ヴァン、もう後には引けんぞ」


と王族の中に紛れて誰かが声を上げた。


「ディーン!?」


ディーン・コモン、メイ・コモンの一人息子にしてヴァンの師匠にあたる。年齢が近いためヴァンはディーンを兄のように慕う。


「俺に会いに来ねえってことはもう覚悟はビシッと決まってるっつうわけだな」

「ええ覚悟はとっくにできてますよ。」

「よし、それでこそお前だ。でもあいさつくらい来てもいいんじゃねえか?」

「一昨日の最後の修行の時にあいさつはしたじゃないですか...何回するんですか」


ヴァンは困った表情をしながらそう言った。


「まあいい、とにかく行ってこい!魔王を倒して帰ってこいよ!!」

「はい!必ず!」


ディーンは彼らを見ながらそう言い、ギルドレイド卿に合図を促す。

ギルドレイド卿は門番に開門の指示を送る。


「では諸君、神のご加護があらんことを」


王族の見送りを受け、ヴァンたちは門を出た。

魔王の住む城を目指して。

魔王の城は大陸の中央に位置する「グランシャリオ山」の山頂にあった。

一行は山の麓にある村へとたどり着いた。


「ここか、目的地は」


ヴァンは地図を確認しながら言う。


「えーっと……うん。ここで間違いないみたいね。」


リリアも確認しながら言った。


「この村は?」


トーマスは辺りを見渡しながら聞いた。


「ここは……確か……ライズベルトの村だったかな。」


ライズベルトの村。かつて「ライズベルト協国」というグランシャリオ山一帯を総括して支配していた国があった。

しかしライズベルト協国は魔王ルイによって滅ぼされてしまう。生き残ったライズベルトの残党は魔王の城を監視するため、村を作った。それがライズベルトの村である。

魔王のこともあるため、村の人は皆、警戒心が強くなっていた。


「俺たち、歓迎されてなさそうだな……」

「仕方ないさ。俺たちが魔王を倒すんだ。当然の反応だろう。」

「そうね。私たちが頑張らないと……」


三人はライズベルトをあとにし、山を登ったところの洞へたどり着いた。

標高が高く、雪がちらついている。


「ここで一泊してくしかなさそうだな。」

「なんかすごい雰囲気出てるわね……」

「村で一泊してもよかったんじゃねぇか?」


三人とも緊張しているようだ。


「魔王を倒したら、あの村も平和になるのかしら……」


リリアは不安そうな顔をした。


「リリア、君の修行の成果は十分出てると思うよ。大丈夫。不安がっても仕方がないからね。」

「そうよねヴァン。メイに教えてもらったんだからきっと大丈夫。」


リリアの師匠はメイ・コモンである。メイはかつてフェニックス狩りという作戦で回復術師として先頭をきった凄腕の女魔術師であった。彼女は現在、王都で武器職人をしている。


「そうだ、とりあえず飯にしようぜ!」

「そうね、お腹空いたし」

「ああ、ちょうど昼時だしな」


彼らは洞で食事をすることにした。

食事中、トーマスが思い出したようにつぶやく。


「そういえば、この前見た夢で出てきた女の子も勇者だったんだよな。」

「え? どんな子?」


リリアは興味津々だ。


「髪が長くて、白い服を着た可愛い感じの子だよ」

「私に似てるじゃない!」

「いや似てるっていうか……そのまんまって感じだな雰囲気は。って、リリアは長髪というより中髪って感じだけど…」

「私にもチャンスがあるかも……!」

「どういうことだい?」


ヴァンは話がよくわからなかった。


「あ、いや、なんでもないの!」

(あれ……私なんでこんな気持ちになったんだろう……)


「まあ、俺の夢の話だからな。」

「それより、これから魔王と戦うことになるかもしれないってことを考えようぜ。」


トーマスは話を切り替える。


「確かに、今は考えていても仕方がないか……。」


ヴァンも納得する。


「じゃあ今日は早めに寝ましょうか。明日が本番よ。」

「ああ、そうだな。」


こうして、彼らは洞で一夜を過ごした。


翌日。

朝になり、ヴァンたちは出発した。

彼らの目の前には巨大な扉が立ちふさがっていた。


「これが……魔王のいる部屋への入り口か……?」


ヴァンはつぶやく。


「恐らくそうでしょうね……」


リリアも同意する。

三人は扉の前に立ち、呼吸を整える。

そして、意を決して扉を開けるとそこには……


「おお、よく来たな。我が愛しき勇者よ。」


魔王が玉座に座っていた。


「魔王!?」


「まさか本当に魔王がここに……」

「魔王が人間の言葉を話すなんて……」


三人とも驚きを隠せない様子である。


「驚くのはまだ早いぞ、勇者ども。我の本当の姿を見るがいい!!」


そういうと魔王は立ち上がり、魔力を解放した。

エンペラー・ルイ。魔王が光の中に姿を現したのだ。

まがまがしい三本のツノ。耳の部分には魚のヒレのようなものがあり、目は皮肉にも光を放っていた。


「うっ……なんだこの威圧感は……体が震えてくる……!」


ヴァンは剣に手をかける。


「こいつ……強い……今までの敵とは比べ物にならないくらい……」


リリアは恐怖を感じていた。


「おい、どうした!かかってこい!」


魔王は挑発をし、こちらの様子をうかがっていた。


「お、おい、これもしかして様子をうかがってるんじゃねぇか?」


トーマスは冷や汗をかきながら言った。


「どういうことだ?」

「あいつ自らここに出てくるなんておかしいだろ。手下も一人もいない。周りにろうそくもない。あるのは日の光だけ。おかしいだろ。」

「何が言いたいんだトーマス?」

「俺が言いたいのは、あいつ弱いんじゃねぇかってことだよ。」


トーマスは少し笑みを浮かべながらそう言った。


「まったく…トーマスはほんとにガキね…」

「御託はもういい。連携を並べるぞ。トーマス!ラゼルの陣だ。リリアは回復リカバリ、戦闘によってはあの跳ね返りを使ってくれ。いいな!」

「了解!!」


三人は魔王を囲むように戦闘態勢を整えた。


「いくぞヴァン!!炎舞連撃!!!」


トーマスは攻撃を開始した。炎をまとった連続突きで相手をひるませる技である。


「!」


ヴァンは高速の居合い斬りで相手の足を狙う。

ヴァンとトーマスの攻撃は当たった。魔王は足を崩し、そのうえ右腕に火傷をおった。

怒り狂った魔王は口を大きく開き攻撃を繰り出そうとした。


「今だ!」


ヴァンはその隙を狙い、懐に入り込み剣で切り刻んだ。


魔王は怒り、口から勢いよく波動のようなものを放った。

リリアはその攻撃を見逃さず、跳ね返りの術を構えた。


「よけろぉぉ!」


トーマスが叫ぶ。


次の瞬間、激しい爆発音とともに煙が舞い上がった。




爆風で吹き飛ばされたリリアは目を覚ました。


「ここは……どこ?」


彼女は起き上がるとそこは見慣れない場所であった。


「確か魔王と戦っていて……それで……」


辺りを見回すと、リリアは驚いた。


「ここって……洞窟の中よね……?」


リリアは混乱していた。なぜ自分はこんなところにいるのか……そもそも戦いはどうなったのか……。


「ヴァンたちはどこにいるの……?」


すると、後ろから声が聞こえた。


「……まったく」


そこには、黒いマントを着た男がいた。


「あなたは…誰?」


リリアが聞き返す。


「斬り捨て御免!!!」


リリアはすぐに危険を察知した。


「魔王の手下ね。来るのが遅かったわね。」


リリアは袖に入れておいた治癒のポーションを腕にかけ戦闘態勢にうつった。


「魔王の命により、貴様を殺す……!!」


男はそう言うと、腰にさしてあった剣を抜き、リリアに切りかかった。

リリアはバックステップでその攻撃をかわす。


「魔王軍の中でも相当な実力者みたいね……」


リリアは警戒する。


(でも、この感じ……どこか懐かしいような……。)


「今度はこちらの番よ!火焔鳥!」


リリアは火の魔法を唱え、攻撃を仕掛ける。


「ふんっ、そんなものが効くと思うな!」


相手は片手をかざすと、リリアの魔法をかき消した。


「なんですって!?」


リリアは驚愕する。


「これならどうかしら?雷槍!!」


リリアは稲妻の魔法を唱えた。


「ぐあっ……」


相手に直撃した。しかし、致命傷にはなっていないようだ。


(まずいわね……。今ので倒れないなんて…もうポーションはないし…)


男は立ち上がりマントを脱ぎ捨てた。その男は長髪で若い青年であった。


(ウィザードに少し似てる……いや、そんなことどうでもいい。こいつを早くどうにかしないと)


「次はこちらから行くぞ!」


リリアは再び攻撃を受ける構えをした。


「うおぉぉぉぉ!!」


男は剣を振り下ろした。すると、そこから紫色の刃が飛んできた。


「きゃっ……」


リリアは何とか回避できたが、かすり傷を負ってしまった。


「これは……まさか魔刀!?」

「よく知っているな。」


男は余裕そうな表情を浮かべ、


「この魔刀にかすり傷でもくらえば死に至るぞ。ふっ、見た感じ、貴様傷を負ったなぁ。ふははは」


男はそういうと地面にあったマントを拾い上げ、背を向け洞の奥へと行ってしまった。

リリアは追いかけようとするが体が思うように動かない。


「なんで……どうして動かな……」


そう言いかけたところで彼女は気を失ってしまった。



その頃、ヴァンとトーマスは同じく洞窟の中にいた。

リリアを探しながら洞窟をさまよっていた。


「リリアァーーーー」

「リリア!!どこだ!」


二人が名前を呼んでいたその時、誰かがこちらに来るを察した。


「おい、誰かいるぞ!」


そいつはフード付きのマントをした見るからに怪しい者だった。


「あんた何者だ」


トーマスが聞くが奴は立ち止まらない。

危険を察知したヴァンはすぐに剣を取り出し奴に切りかかった。

その瞬間、奴は隠していた何かを取り出し同時に切りかかる。


「ギャァン!!!」


二人の武器が重なった。

敵の武器をよく見るとそれは、手であった。

真っ赤な右手で全体が鋼鉄のように固く見え、爪は尖っているようだった。

ヴァンは懐に入れておいた魔石を見た。


(魔石が光らないだと……)


「なんだこいつは……!!」


ヴァンはその手を弾き飛ばした。そしてすかさず腹部に蹴りを入れるが、敵はそれをガードした。


「やるな……」

「お前もなかなかだ……」


二人は距離をとると、お互いを警戒しながら様子を見ていた。


「さっきの攻撃……普通の人間じゃないな。何者だ。」


ヴァンがそう聞くと、奴は答えた。


「俺はギラ。お前ら勇者の一味を皆殺しにするためにやってきた。」

「何だと?魔王の手下か!」


そう聞くとギラはフードをとって話を続けた。


「あんな奴の手下だとは思ってねぇよ。へっははは」


ギラは大きく口を開けて笑っていた。


(何なんだこいつ…右の瞼に傷…鋭い目…尖った歯……そして赤い右手……明らかに魔王より強い!)


「お前・・・どこかで・・・」


トーマスは奴のことを何か知っているようだった。


「ちっ、さっさとけりつけるか。お前らはここで死んでもらう」


そう言うと、ギラは左手を上に上げた。


「ジョニー、チャーリー、レイ。出番だ。」


すると、ギラの後ろから同じようなマントを来た三人が現れた。


「まずい……トーマス逃げろ!!」


ヴァンはそう言い、下がろうとした。

しかしもう遅かった。



気が付けばヴァンは倒れた状態で洞窟の天井を見上げていた。


(ん…?……一体…何があったんだ…)


ヴァンはふいに横を振り向いた。


「うわああああああああ」


そこには血だらけのトーマスとリリアが倒れていた。


「トーマスゥ!リリアァ!!」


ヴァンは彼らの体を揺さぶる。

ヴァンの周りにはギラ、ジョニー、チャーリー、そして長髪の男レイが立っていた。


「おい、無駄だ。死んでる。」


ギラはヴァンに語り掛ける。


「お前ら……よくも二人を!!」


怒りに満ちた声で叫んだ。


「いいね~その顔。もっと見せてくれよ」


そういうとギラは右手を出し、


「じゃあ、始めますか。」


と言い放った。

その瞬間、ギラの右手とヴァンの剣が再び重なった。


「バァン!」


ギラの攻撃に耐えきれずヴァンの剣が折れてしまった。


(まずい……こいつ強すぎる……。)


ヴァンは膝をついてしまった。


(これ以上はもう…戦えない)


ヴァンは目をつぶり覚悟を決める。


(トーマス…リリア……すまなかった……俺が甘かった…冒険なんて…するんじゃ……)


次の瞬間、ヴァンはまた気を失った。

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