第69話 助けたのに怒られた
行きよりも半分の時間で建物の入口まで戻ってきた。
「おい! 壁のままだぞ」
しかし、その先は壁に阻まれている。これ以上進めないと言わんばかりだ。
だが、高家の人々はここに贄を送っていたのであれば、出口はあったはず。
いや、饕餮がここを解除しない限り、出られないのか?
「強引にこじ開ける」
ここが閉じられた空間ではないことは予想できている。ならば、何処かに綻びはあるはずだ。
私は霍良から退魔剣を奪い取る。そして切先を壁に真っ直ぐに向けて構えた。
「宝瓶の中に日輪があり、日輪の中に我が身がある。我が身すなわち日輪、日輪すなわち我が身」
私の手を伝って、退魔剣に力が行き渡る。
が、元々壊れかけているので、刃が悲鳴を上げるように軋みだした。
「我も天も地も向きも後も左も右もいかんが天の加護に漏るべき『悪鬼消滅』!」
そして一気に剣をつき放つ。
すると剣が光を放ちながら、壁を破壊した。
だが、その衝撃により剣は粉々に砕け散る。
「外だ!」
破壊された壁から夕闇に染まる空が見えた。
「うおっ!」
外に出ようとしたところで、霍良に腰を抱えられ外に飛び出すようにでてきた。
え?何故?
抱えられていることに疑問を持っていると、先程までいた建物が土煙をあげながら崩れていく。
「お前、元が壊れかけた建物だという認識なかっただろう!」
助けたのに怒られた。
「途中から周りからボロボロと木くずが落ちてきていたのに、気がついていなかっただろう」
それは気がついていない。
「いったい何の術を使ったんだ。もっと違う方法はなかったのか!」
凄く怒られている。助けたのに理不尽だ。
「凄く手に負えない妖魔を倒す術。饕餮の術だし、普通の術だと壊せないと思ったから……そんなに怒らなくてもいいと思うけど? 私、頑張ったのに……」
「はぁ、怒っていない。もう少し周りの状況を見ろと言っている」
「怒っている。霍将軍に霍良に怒られたと泣きついてやる」
「おい、それはマジでやめろ」
そして、上から霍良の大きなため息が降ってきた。
「はぁ、祖父様に報告にいくぞ。いいか、俺は怒っていないからな! 注意しただけだ!」
そういう威圧的なところが、怒っていると思われるんだよ。
こうして、謎だけが増えた高家の屋敷の探索を終えたのだった。
「小明はめんこいのぅ」
霍家の門をくぐったところで、筋肉の壁に捕獲されてしまった。
そして、俺は関係ないと言わんばかりに、その横を通り過ぎていく霍良。
「じいじい。黎明すっごく頑張ったのに霍良にお……」
「お祖父様。黎明は疲れていると思いますので、早く食卓に連れて行くといいと思います」
怒られたと言おうとしたところで、霍良の言葉が被さってきた。
「そうじゃのぅ。そうじゃのぅ」
そう言って移動を開始する霍将軍。
どうやら、怒られたと告げ口をするのはとても有効手段のようだ。
「それで良がどうしたかのぅ?」
食堂に向かって行きながら、先程の続きの言葉を尋ねてくる霍将軍。
私が口を開こうとすると、それを霍良が遮ってきた。
「お祖父様。詳しいお話をしたいので、食後にお時間をいただけますでしょうか?」
「良。わしは小明に聞いておるのじゃ! お前にではない!」
霍将軍との会話を遮ったことで、逆に霍良が怒られている。
まぁ、いつもより早く移動できたから、言わないでおくよ。
「退魔剣が壊れちゃってね。霍良が新しいのを買ってくれるっていうんだ」
「何!それなら、わしがもっといいやつを作ってやろうぞ!」
まぁ、もらえるのであれば、もらっておこうかな?
特殊な道具は普通より高くて、中々てに入れられないからね。
「本当?黎明、嬉しい」
「よしよし、じいじいが何でも買ってやるからのぅ」
「それ、本当の孫にも言ったことない言葉だよな」
頭がもげそうなほどぐりぐりと私を撫ぜている霍将軍に向かって、霍良がぼやいている。
いや、これはただ単にシスコンの延長上なだけだよ。
いつもなら放置され、霍将軍に連行されるだけだったけれど、今日は霍良が側にいるので、スムーズに食卓につくことができた。
そう、門で捕獲されている時間がとても短かったのだ。
そして、今日はいつもと違って、霍将軍と霍良と私だけが食卓を囲んでいた。
あれ? どうしたのだろう?いつもなら、霍家の人々が集まって大勢で食卓を囲むのにね。
今日はこじんまりとした個室での夕食だった。
「それで、五日も戻ってこなかった理由を聞こうかのぅ」
「は?」
「え?」
「五日の誤差がでたのか」
私と霍良が驚いているところで、一匹だけ冷静な声で、だされた焼き魚を食べている白がいる。
あれ? おかしいなぁ。
数時間しか経っていないはずなのに、外では五日も経っていたの?
あまりの衝撃に私と霍良は食事を前にして、呆然としてしまっていたのだった。




