第67話 美味な食事
「これは……建物を埋めたのか? それとも地下に建てたのか?」
唖然とした霍良の声が空間に消えていく。
そう、ここには色鮮やかな扉がある。その上に視線をむければ、洞窟の壁から瓦の屋根が生えているのだ。
「はぁ……入りたくない」
もう、嫌な気配が閉じられた扉越しからビシビシと感じる。
いったいこの廟には、誰が祀られているのだろう。
「おい、開けるぞ」
霍良はそう言って廟の扉を開け放った。
扉の軋む音と共に、中からかび臭さに混じって獣臭が強くなる。
「臭い」
「言うな」
霍良も臭いのはわかっているが、認識したくないということだろう。
私の肩にへばりつくようにいる白を窺い見るも、いつもと変わらない感じだ。
白はこの奥に何がいるのか知っているのでこのように余裕なのだろう。
私に教えてくれてもいいのに。
意を決して、私は廟の建物の中に一歩足を踏み入れた。
すると廟の中が明かりに満たされる。
とても色彩豊かな内装が目に飛び込んできた。
そうとう地位のある者の廟なのかもしれない。
柱の装飾、壁の細かな紋様、扉の細かな細工、一つ一つが目をみはる造りだ。
例えて言うのであれば、この前霍良と共に訪れた先々代の皇帝の寝殿だ。
それぐらいの地位の者ではないのかな?
「なぁ、帰れるよな?」
「不安を煽るようなこと言わないでくれる?」
私のほうが聞きたいよ。
かなりの距離を歩いてきたのだ。
私も戻れる保証はできない。
でも、どうにかして出る方法は考えている。
強引な方法ではあるけど、ここが地下なら、上に向かえばいいということだ。
妖魔の領域ではあるけど、私たちを招くために実際にあるものを利用している感じがするのだ。
だからここは完全に閉じられた空間ではない。
そして再び扉にぶち当たった。この奥に何かがいるのだろう。
「黎明」
「開けていいよ」
向こうが招き入れているのだ。進むしか道はない。
ボロボロの退魔剣を手にした霍良が思いっきり扉を開け放った。
普通であれば祭壇があるはず。しかし、目の前にあるのは玉座だった。
壇上に据えられた玉座に座る男。
黄色の袍に刺繍された龍の絵が印象的だ。そして頭上には簾が落ちる帽をかぶっている。
どう見てもその姿は皇帝だった。
しかし、獣臭が酷い。目の前の皇帝もどきはいったい何なのだろう?
『やっと朕の食事がきたであるか。早うこちらに来い』
食事? 私たちのこと?
「残念ながら食事ではないな。封印されてもその食欲に限りがないようだ」
白が皇帝もどきに向かって声をかけた。やはり知っているものらしい。
だけど封印とはどういうことだろう?
『窮奇か。人が美味であることはわかるだろう?』
「別に美味くも不味くもない。ただの道楽だった」
はぁ、妖魔同士の会話は恐ろしい。人が矮小なものと見下している。
『だった? 今はその人間に買われている猫に成り下がったのであるか?』
「改心したと言って欲しいものだ」
改心? 白は母に調伏されたのだけど、そう言えるのだろうか?
『カッカッカッカッ! あの窮奇がか? 笑わせてくれるものである! まぁいい、朕は空腹である。食事よこちらに来い』
「食事ではないと言っている。因みにその奇妙な形はなんだ? 何かの遊びか?」
『これであるか?』
突然皇帝もどきの身体が膨れ上がった。そして姿を現したのは毛むくじゃらの人の形をした何かだった。
全身が黄ばんだ白い毛に覆われ、人の顔はあるものの目がない。口には鋭い牙が生え、そこからはよだれが垂れている。
『人の姿をしていれば傅いて供物をよこしてくれるのである。人とはなんと愚かであろうな。そう思わぬか? 窮奇』
「別に何も思わないな。饕餮」
饕餮!こんな首都の地下に饕餮がいるってヤバくない?
饕餮って食に対して貪欲という妖魔だよね?そんなものが解き放たれれば、この国が滅んでしまうじゃない。
でも封印というものがあるようには見えない。
いや、もしかしてこの廟自体が封印物ということ?
だから地下に埋められている?
『相変わらず話があわぬ』
「話があうとは、これっぽっちも思っていない」
『食事を持ってきたのでないのであれば、何をしにここに来た窮奇』
「なに? どの程度なのか見に来ただけだ」
『ほぅ。朕の封印を解くのであれば、供物をもっと用意するがよい。それか上質な美味な人間を用意するとよい』
これは人を食べて力を得ようとしているというの?
でも高家が追われてどれぐらい立ったのだろう?その間供物というものはなかったはず。
『時々落ちてくる人でもよいが、もっと上質な美味な人がよい。そう、そこのおなごのような上質な力を持った人である』
私? 私が上質? そして霍良は言われていない。
いや、もっと大事なことをコレは言っていた。上から人が落ちてくると。
「白、上からどんな人が落ちてくるか聞いてよ」
私はコソコソと白に質問するように言ったのだった。




