第65話 既視感に襲われた
「霍家の話はしてないだろうが! それなら阿蘭だけを妃に出しているということがないだろう」
霍良に怒られた。
確かに芙蓉様がご顕在であるなら、わざわざ妃を複数人用意することはないということか。
「わかった。取り敢えず、その中央の建物に行こう」
「絶対にわかっていないだろう」
呆れている霍良が、高家の当主が暮らしていたであろう建物の方向に案内をしてくれた。
到着したものの、他の建物と同様に崩れかかっている。これは建物内に入るほうが危険ではないのだろうか。
「いろんな意味で入りたくない」
「いや、入れよ。なんのためにここまで来たんだ」
他の場所は霊山の水が流れ込んできたので、浄化されていた。
だけど、ここからは嫌な気配が壊れた入口から漂ってきている。
はっきり言って、建物が崩れてきそうで入りたくないし、嫌な気配が漂って来ているので入りたくない。
そんな私は霍良に背中を押されながら、崩れた建物の中に一歩踏み入れた。入ってしまったのだ。
「あ……」
「黎明。当たりだな」
「なんだ?これは!」
外見はボロボロの屋敷だったにも関わらず、斜めになった屋敷の入口に踏み込んだ瞬間に、その景色が一変した。
目の前の広い廊下の端に火が灯り、色彩豊かな柱が建物を支えている。
私の肩に乗った白から称賛を得られたが、私からすれば既視感に襲われていた。
これもう三度目だよ。
今度は何が出てくるのだろう?
後ろを振り向けば、霍良の背後は壁になっており、ここから出られないことを私は悟った。
しまった。門番がいた所為で、支柱に出口となる札を貼るのを忘れてしまった。
「霍良。どれぐらいで出られるかわからないけど、出てきたモノは人だろうがなんだろうが、切ってくれたらいいから」
「何が出られるかわからないだ……後ろが壁だ! 俺、妖魔とか遭遇したことないぞ」
私が何を切って欲しいと言ったのか理解してくれたらしい。
そして、このような現象に遭遇したのは初めてだと告白された。
「普通は遭遇しないよ。どれほど美人が出てきても油断したら駄目だよ」
「こんなところにいるのが人ではないことは理解できている」
霍良は受け入れが早くてよかった。
色々説明するのは面倒だからね。
「それでどこに行けばいいんだ?」
「わからないけど、取り敢えずまっすぐということだろうね」
私は火が灯された廊下を指し示す。
虫が出てこないことを心の底から祈ることにする。
「わかった。俺が先頭を行こう、なにかあれば、補助してくれ」
「わかっている。頼りにしているよ」
「はぁ、俺は術師じゃないからな」
霍良はため息を吐きながら、綺麗に磨かれた廊下を進んで行ったのだった。
「おい、地下に行く階段があるぞ」
そこまで進まない内に地下に降りる階段にぶつかってしまった。来た方向以外が壁に囲まれているので、地下に行くしかない状況だ。
だけど、暗闇に満たされた地下に入ることに躊躇する暗さだ。
私は廊下にある置き型の明り取りを手に持ち、そのまま穴が空いたような地下に向かって放りなげた。
「おい!火事になるだろう!」
私の行動に慌てて、腕を掴むもその反動で、手から明かりが落ちていく。
普通であれば、油が床に広がり火事になることだろう。
だが、置き型の明かりは階段を跳ねながら、下の床に転がっていく。油がこぼれることもなく、明かりが灯ったままだ。
まるで、そうあるべきだと呪をかけられたようだ。
そして、その明かりに寄ってくるように足音が聞こえてきた。
ぎしぎしと床が軋む音が聞こえてくる。
何かが来た。
「霍良。来たよ」
「わかっている。だが、人の足音じゃないな」
靴を履いている足音ではないのはすぐにわかる。
だけど、軋む音は二足歩行のものだともわかるものだった。
何がくるのか、私と霍良は緊張しながら、落ちた明り取りの光に映り込むモノを目視しようと目を細める。
薄手の夜着を来ている人のように見えた。
だが、その姿が光が届く範囲に入ってくる。
光に映り込んだのは頭髪はなく、黒い手足の土人形だった。
「おい、アレは切れるのか?」
「たぶん。切れば崩れると思うけど……」
その等身大の土人形がこちらを見る。
まるで意志があるように、私たちに気が付き、見上げたのだ。
その顔は黒ずんでいるものの、美人の女性だった。思い当たる妖魔は……。
「廟鬼だ」
「あ? なんだって?」
「土人形が鬼化したモノだ。大した力はないのだけど、この下に廟があるってこと?」
土人形の鬼は別にいい。
だけど、これがいるということは、近くに廟があるのだ。
いったい誰の廟が個人の屋敷の地下にあるというの?




