第62話 気に入らない
私は私と同じ金色の瞳を見る。
炎駒が言っていたとおり、本当であれば私が手を出さなくてもいいのだ。
なのに、琅宋が紫炎帝の力を否定するから、このようなことになっている。
「一つだけ言っておく。琅宋の力は私より強い。すべてを受け入れれば、こんなくだらない呪いなんて全て弾き飛ばせる。……まぁ、それを受け入れられないようにされているのだけど」
私はそう言って琅宋から離れた。
「じゃぁね。迎えは一人で、一週間後にしてね」
これ以上ここに留まるつもりはないと、琅宋に背を向けて四阿をでる。
後宮の件は琅宋の手を借りなければ解決できない。だから後宮を自由に出入りできる権利のために利用させてもらおう。
「黎明。弟の孫に芙蓉の孫の呪いを解くように言われていたが、やらないのか?」
庶民が着るには小綺麗な袍に着替えて、桶を抱えながら街の中を歩く私に、白が問いかけてきた。
「それは白にとって、どうでもいいことなんじゃないの?」
白は私の護衛兼世話係だ。いや、ご飯を作ってくれる係だ。
琅宋のことなんて気にすることではないはず。
「はっきり言って、俺には関係ない」
ズバッと言う白は、いつもの定位置である私の肩から下を覗き込むように前のめりになっている。
亀を食べたいのだろうか。
これは依頼されたものだから、食べることはできないよ。
「だが、あの呪いは一人じゃない。複数の者たちの思惑が絡みついている」
「そんなのは、わかりきっているよ」
確実ではないけれど、母親の言葉が呪いとなって琅宋の意志を制御している可能性がある。
こういうのは一番厄介だ。
人の思念が呪いとなっているものは、呪いの核がないので、簡単には解決できない。
「いくつかのものは炎駒が抑えている。これに手をだして麒麟に牙を剥かれるのは避けたいね」
麒麟というだけで、人々からの信頼は絶対的だ。そんな正義の塊と言っていい炎駒の機嫌を損ねた者となってしまえば、私は人の世界で居場所を失ってしまうだろう。
ただ、炎駒の正義は国の正義であり、人々の正義ではないことがある。
琅宋のことを思えば、炎駒はさっさと対処すべきなのだ。
しかし、皇帝と認めていないために、このように中途半端なことになっている。
「それに、あの金を受け取っておけばよかったんじゃないのか? 前借りしているから、今回の依頼も報酬がでないだろう」
「ぐ……痛いところをついてこないでよ」
結局王離からも琅宋からも対価を受け取らなかった。
生活がギリギリなのには変わらない。
「王離は琅宋の護衛だから、そこから対価をもらうのは間違っている。もらうなら琅宋からだよ」
「だったらふっかけてやれば良かっただろう?」
もちろん、白の言う通りなのだ。
だけど、気に食わない。
「はぁ、あの態度が何なのか理解できない。私に構おうとするから、巻き込まれていると気づいていない。それに力があるのに使わないのが気に入らない」
足手まといなのに私についてこようとするのが理解できない。それなら霍良を連れて探索するほうが何倍もまし。
霍良は紫炎帝の力をきちんと自分のものにしている。何かあっても自分の身ぐらい守るだろう。
「なんだ?黎明より力があるのを嫉妬しているのか?」
「何バカなことを白は言っているわけ?宝の持ち腐れだって言っているんだよ。それに琅宋に何かあれば、私のせいにされても困るのだよ」
「ふーん。それじゃアレが皇帝という立場じゃなかったらどうなんだ?」
琅宋が皇帝でなければ?
それだと、そもそもあのようにこんがらがった呪いにはなっていないと思う。
まぁ、そうだね。
「強引に紫炎帝の力を引き出すかな? 今は、下地ができた状態だけだからね。あとは自分でなんとかしろってね」
「それをすればいいじゃないか。何故しない?」
それはちょっと気になることがある。だけど、これは確証がなくおいそれと口にすることはできない。
「面倒くさいからだね」
「それ仙人志望としてはどうなんだ?」
そんなことを言いながら、私は退魔師協会に向かって行ったのだった。
*
久々のボロ家で迎える朝。隣の夫婦の喧嘩から始まり、白がご飯を作ってくれる音が響いている。
このままお昼まで惰眠を貪っていたい。
なのに、バキッとなにかか破壊される音が、私の惰眠を邪魔してきた。なに?この破壊音は?
「マジで、こんな馬小屋みたいなところに住んでいるのか?」
ふわふわの布団越しに何故か霍良の声が聞こえてきた。何故に、ここに来た。
それに何を壊したの?直しておいてよ。
「おい、そこの布団に包まった中身。行く準備をしろ」
「……」
私の惰眠を邪魔するヤツに答える義理はないよ。




