第60話 そこまでは言っていない
「何か問題でもあったのですか? 我が主」
四阿から日が差す外に出ようとしたところで、おっさんが立ちはだかった。
邪魔なのだけど?
「帰る」
「今、食事の用意と三本足の亀を捕まえて来るように言ったところなのだが?」
全て私の要望だからどこに行くつもりなのかと言いたいのだろう。
厳ついおっさんが私を見下ろしてきた。
「話にならないから帰る。時間の無駄。食事はおっさんが食べればいい」
私がおっさんと柱の間を通ろうと横に移動すると、おっさんも同じように横に移動してきた。
「邪魔」
見下ろしてくるおっさんに負けじと、睨みつける。
こんなことで臆する私ではない。
「我が主。何を怒らせたのですか? わざわざ時間を作って、ここにまいったのですよね?」
このおっさんの言い方だと、本当は忙しいのに、私にわざわざ会いに来たと言っている?
それなら、さっさと戻って皇帝の仕事をすればいい。
私は反対側を通ろうと、足を出したところで、おっさんに肩を掴まれてしまった。
おっさんの護衛は私ではなくて、琅宋だよね。
構う相手を間違えていると気がつこうか。
そして琅宋はおっさんの質問には答えない。私はそちらの方を見てないからどんな表情をしているのかは知らない。
だけど、答えないというのが答えだ。
私がここに留まる必要はない。
「白猫様は何があったかご存知ですよね。我にお教えいただけないでしょうか?」
埒が明かないと思ったおっさんは、私の肩にへばりついている白に聞いてきた。
「あ? 黎明が面倒臭がって、芙蓉の孫にかかった呪いを解かないから、こじれているだけだ」
「私が悪いことになっている!」
「白猫様! 呪いとはどういうことでありますか!」
これ以上、いらないことを言わないように白を捕まえようと手を伸ばせば、石の床にスタッと白が降りてしまった。
待ちなさいよ!
「だいたい、これがあからさまに反応を示したのが血縁関係のことだろう? 馬鹿でもそこに何かあるってわかるじゃないか。なのに黎明は面倒だからと、手をださなかったからだな」
いや、周りの言葉と琅宋の言葉がおかしいのは気づいていたけど、皇帝に手を出して何かあれば、私が全部責任を取らないといけなくなる。
そういうのは、琅宋の周りをウロウロしている麒麟の炎駒に任せればいい。
あれなら、何をしても周りが認めてくれるだろう。
麒麟というだけで、絶対的な信頼度があるからね。
「何の呪いであるのですか!」
「ん? 絡みつきすぎてわからんぐらいだな。生まれる前からの……」
私はおっさんの手を振り切って、白を捕まえた。
そして、逃げないようにギュッと抱きかかえる。
「私は帰るから」
「この状況で帰れると思っておるのか?」
「はぁ、取り敢えず寝台の床とか板の裏とかにある、怪しそうなものを排除してからだね。そこに無かったら普段使っている家具とか……できれば他の術師に頼めばいいと思う。炎駒が手をだしていないのに、私がやる必要ないと思う」
呪いには呪いとなる元がある。それを排除しないかぎり無駄なのだ。
そして、それはプライベート空間にあることが多い。
そういうところは、私は入ることができないし、入りたくない。
私ではない術師に頼めばいい。
「ふむ。我が主の女官に扮するのであれば、探すのは可能であるな」
「おっさん。その設定は後宮内だけだよ。私は琅宋からではなく、芙蓉様から依頼を受けている。そこまで面倒をみる義理はない」
私を呼び出して依頼を出したのは芙蓉様だ。琅宋はただ単に興味本位で私の周りをウロウロしているにすぎない。
「我が主よ。トラウマはそうとう根深いもののようですな」
いや、皇帝という立場が面倒なんだよ。
「ときに霍道士よ。我が主の立場を理解して、発言しておるのか確認したいのだが?」
「そういうところが面倒だと、私は言っているんだよ。おっさん。だったらこっちは、霍将軍に泣きつくという手を使うけど?」
そっちが権力を出してくるのなら、王離が敵に回したくない霍将軍を引っ張り出してくると言う。
本当に泣きつくと後々面倒だからしないけどね。
「うぐっ……」
「それに、これ以上脅すなら、こっちは手段を選ばないけど?」
「黎明。目が光っているぞ。あと、料理を持った者たちがオロオロしているから、道を開けてやったらどうだ?」
白に言われた視線をおっさんの背後に向ければ、料理を運んでいる人が並んでいた。
店の人は悪くないので、私は大人しく横に移動する。
「王離という者よ。何事にも道理という筋は通さなければならないのではないのか?」
私と同じく通り道を譲ったおっさんに、白が諭すように声をかけた。
「芙蓉の孫もだ。お前たちはやってもらって当たり前と思っているかもしれないが、黎明に二度助けられている。いや、後宮の件も含めれば三度か」
最初の鬿雀と掲狙の件は、おっさんたちだけでも対処可能だったと思うけど?
それに、猫鬼のときはかってに首を突っ込んできて、私が面倒をみることになったんだよね。
三度目というのは殭屍か。あれもまぁ、噛まれなければいいだけで、最悪炎駒がどうにかしたと思うけど。
「礼を尽くさないクソ共だと、黎明は言っているって、わからないのか?」
「いや、そこまで言っていないよ。白」




