第57話 三食昼寝付き!
琅宋に連行されたのは、どこぞの庭園の四阿だった。
たぶん、お偉いさんたちが使用するお店なのだろうけど、下街以外はほぼ来たことないから、今どこにいるのかさっぱりわからない。
そして、何故か店の女性たちに衣装を着替えさせられるという謎の行動をされた。
これはもしかして、ホコリ臭い格好で皇帝の側をウロウロしているんじゃないということだろうか。
まぁ、胸を強調した衣装じゃないことが唯一の救いだ。
髪まで結われてジャラジャラ小物を付けられて、生きた心地がしないのだけど。
「白。今すぐ脱走したい」
「それ、軍に追いかけられるからやめとけ」
「白なら出し抜ける!」
「家の前に陣取られてしまいだな」
「酷い」
これ、また軍人に連行コースじゃない。絶対に周りに住んでいる人たちから『あの子ヤバいわね』と噂されるやつだよね。
「黎明。待たせてしまったな」
どこぞの若旦那という格好した、琅宋が現れた。
「今日は邪魔をするなと言っていたのに……」
ブツブツと文句を言っている琅宋が席につく。その背後には相変わらずのおっさんが陣取っていた。
壁がない四阿なのに、一気に狭さを感じてしまった。
「別に、逃げようか逃げようかの算段をしていただけだからいいよ」
「黎明。それ逃げるしか選択肢がないぞ」
「うるさい。白」
ん? てっきり白からじゃなくて、琅宋から突っ込まれると思ったのに、だんまりだ。
どうしたのだろう?
円卓の上で箱座りしている白から視線を上に上げた。
何故か私をガン見している琅宋と目が合う。
「なに? これ着るように指示したの琅宋だよね。似合わないという文句は聞かないからね」
「豚に真珠だな」
「白。そんなことを言うと仙桃あげないよ」
「そんなことを言う黎明には飯作らないぞ」
……それは私が飢え死にする。いや、死なないけど。毎日焦げた物を食べないといけなくなる。
「白がいないと、私が生きていけないよ。ご飯作ってよ」
切実な問題だ。
私は仙嚢から仙桃を取り出し、白に献上する。
「わかればいいのだよ。わかれば……」
偉そうに言いながら、仙桃を食べだす白。
「黎明」
琅宋から名前を呼ばれたので、視線を上げると……あれ? 先ほど座っていたところに琅宋の姿がない。
そして壁のように立っているおっさんは、呆れた視線を私に向けている。
なに?
突然横から手が出てきて私の両手を掴む。
いつの間にか琅宋が私の隣に座っていた!何故に?
「お……」
「お?」
「俺の後宮に入らないか」
「あ? なにそれ? 私は仙人になるための修行中なのだけど?」
「あ……いや……そ……そう! 目があるというなら潜入調査するべきじゃないのかという案だ」
「我が主。もう少し言い方というものがあると……」
突然、琅宋は後宮で潜入調査をする案を出してきた。
そしてそこに呆れた王離の声が被さってくる。
しかし、琅宋の言葉に思うことはある。琅宋が気づかなくて、芙蓉様と許夫人が気づいたということは、後宮に何かしらの目の存在がいるのではないのかと。
「それに……三食昼寝付きだ」
「さささ三食昼寝付き! 昼寝まで!」
「それはただの休憩時間に休めという意味である。はぁ、我が主。思いつきで口にすると碌なことになりませぬぞ」
「王離。こんな可愛い黎明を霍良と二人きりなど、させられるはずないだろう!」
ん? どういう理由?
「琅宋。霍家の使用人はいたけど?それに霍良は奥さん三人いるのに?」
「そう言われると我が主は……」
「王離将軍。口が過ぎるぞ」
なに? マジで怒っているの? 琅宋。
そう言えば、琅宋って普段はおっさんに気安いよね。色々個人的な遣いを頼むことがあるみたいだし。
「おっさんって、琅宋と仲が良いよね。昔からの友達?」
「むっ! 我は、我が主の剣の師をしていただけに過ぎませぬ。友などとはおこがましいにも程があります」
へー。だからか、常に側に置くほど気安い関係なのか。琅宋がおっさんを慕っていると。
「それで、黎明。返事はどうなのだ? 俺の後宮に入るか?」
「その言い方が嫌なのだけど?」
芙蓉様の依頼のために必要でないのかと言われれば、そうだねと頷くけど。
琅宋の後宮に入るかと問われると、違うと言い切れてしまうのだった。




