第52話 接点がなさすぎる
「これ、無理案件じゃない?」
私は円卓の上で項垂れる。
絶対にこれは、手を出したら駄目なやつじゃない。
この感じだと二十年前にことを起こした者が、国の中枢にまだいるっていうことだよね?
それも後宮に携われる立場だ。
そして一番解せないのが、炎駒がこの状態を放置していることだ。
炎駒としては、問題ないということなのだろうか。
いや、そもそも皇帝と認めていなかった。
こうなってくると白が言っていたように初心に戻る必要が出てきた。
高美人はただの囮だったと。
「言われてみれば、貴族が高美人を見たというのも、白い蝶を真冬に飛ばしていたからというのが理由だった。本当に死んだ高美人かは確認していない」
そしてその時点で、誰も墓を開けて確認しようとも思わなかった。
高美人と言っても所詮皇帝のいち側妃でしかないからね。
次の美人の地位につく者が、現れるだけのこと。
「だったら、あの後宮にいた殭屍が高美人という確証もない。あの永寿宮にいたから高美人だろうという予想だ」
そう。私はなぜ琅宋を見て皇帝だと言ったのか疑問に思ったはずだ。
そこを解決しなければならないのだろう。
しかし、琅宋も見覚えがないようだった。
そして高美人の石棺には何も入っておらず、蓋の裏に逆八卦らしきものが描かれていたのみ。
「一瞬だったから、そこまで容姿は覚えていない。だから、許夫人に確認することができない。あ、でもあの甘ったるい匂いどこかで嗅いだ記憶があるのだけど」
それに赤子の声が聞こえるという話だったけど、私が行ったときには聞こえなかった。
赤子の声が聞こえると高熱を出すか。蠱毒に近い症状だけど……個人ではなく後宮全体に呪をかけた?
いや、それは術としては成り立たない。
範囲が広すぎる。
蠱毒。あの猫鬼の頭をもった女性のこともわかっていない。
白は本体ではないと言っていたので、どこかに本体が……あれ?
「あの殭屍のボン・キュッ・ボンの体つき、猫鬼の女性と似ていたかも! 顔が猫だったけど」
「黎明。黎明からみれば、後宮の女性の多くはそうだろうな」
「うるさい、白!」
もし、本体が殭屍で猫鬼は分身だったとすれば、黒い猫鬼は幻影か影。攻撃が効かない理由にもなる
いや、言っていることは支離滅裂だとわかっているが、武官政頼と後宮の事件に接点がなさすぎるのだ。
赤子の声というのが猫だったという可能性はある。
琅宋が猫の声を赤子と間違えていたからね。
「あー考えても全然駄目だ。食べよう」
取り敢えず脳に補給をしなければならない。
「結局食うのかよ」
食べるよ。食べられる時に食べておかないとね。
「霍良は、政頼という人のことはどれぐらい知っている?」
「あ? 一人の妓女に入れ込んでいたっていうやつか?」
……三人の奥さんがいる霍良に、言われたくないと思うよ。
「っていうか、琅景陛下を守ったとか言っているが、普通なら政頼ごときが皇帝陛下に近づけるはずないだろう」
いや、私はその時の状況は知らないからね?
「俺は自作自演だと思っている。頭上から蛇が降ってきたのを殺したという話だが、庭園を散歩している皇帝の上にどうやったら蛇が降ってくるんだ? 馬鹿じゃないのか?」
馬鹿かどうかは置いて、蛇が上から降ってきたのか。いや、庭園なら木の上とかにいないわけ?
「外なら蛇ぐらいいるよね?」
「雪が降っている庭にか?」
「雪が降っているのに、散歩する皇帝も皇帝だね」
確かに、雪が降っているのに蛇がいるのもおかしなものだ。
「それも羽が生えていたとか抜かしやがったそうだ」
羽が生えた蛇? 『鳴蛇』か『化蛇』かな? でもこれらが人の住むところに現れると、被害が出るのだけど。
「ねぇ、私はあまり記憶がないのだけど、三年前って干ばつか、川の氾濫ってあった?」
「あー? 別に食うのに困った記憶はないな」
「麦州で干ばつが続いているという話はありますが」
お付の人が答えてくれたけど遠い。麦州って東の方じゃない。関係なくない?
「そっちは龍脈が関係しているやつだ」
話に混じっていなさそうな白が答えてくれた。東側の干ばつは龍脈ね。
「って三年前には、龍脈の流れが代わっていたっていうこと?」
「あと、その蛇っていうのはどう処分したんだ? それに術でも込められていたら、既になにか起こっていてもおかしくはないぞ」
白の言う通りだ。皇帝に何かしらの呪を与えようとしたのであれば、蛇自体が蛇の形をした呪物の可能性がある。
「その政頼が剣で斬ったら、血だけ残して消えたと言い腐りやがったんだ! だから俺は自作自演だと言っている」
あ、それ政頼に呪がいっているパターンだ。
私と白のため息が、重なったのだった。




