第51話 初心に戻る?
「黎明。初心に戻った方がいいのではないのか?」
白は私の質問ではなく、最初に戻ったほうがいいのではと言ってきた。
どういうことだろう?
偉そうに言っているけど、口の周りがベタベタになっているけどね。白。
あの政頼という武官のことは、八つ当たりではないのかという話が違うということ?
「芙蓉は何かを知っている。知っていて話していないということだ」
それは思っていた。話していないというか話せないのだろうと。
「あんたもそうだろう?」
白は個室の外に向かって言った。
え? 誰かいるの?
「ああ、入ってきていいぞ」
白は勝手に入ってきていいと言う。
すると扉が開き、そこには先程会った許夫人が立っていた。それも顔を隠すように頭からベールを被っている。
「先程は失礼しました」
そう言って、部屋の中に一歩入って来て、礼の姿を取る。
それもお一人だけで、付き人の老夫人の姿がなかった。
「なんだ? 話は終わっただろう?」
霍良が不機嫌そうに言う。
いや、あの白からの話からすると許夫人も何かを知っていて、話せなかったということだよね。
「これを」
許夫人は細長い木箱を差し出してきた。
けれど、どうみても封印されてそうな紙の札が貼ってあるのだけど?
「それはなんだ?」
「高耀が死ぬ前に渡してきたものです」
霍良は付き人の人に視線を送って、受け取るように指示した。
怪しい木の箱を手渡した許夫人は、用はそれだけだったと言わんばかりに帰ろうとする。
「ちょっと待て、これぐらいならさっき渡してくれればよかっただろう」
え? 霍良がそれを言うの?
苛ついてさっさと出ていったのは霍良だよね。
すると許夫人は感情が見えない固い表情をして淡々と言葉にした。
「目はどこにでもあります。だから私は都から離れた地に逃げたのです」
墓守を志願したのではなく逃げたと言う。
目とはどういう意味で言ったのだろう?
各家には諜報者というのはいるだろうから、そういうことなのかなぁ?
「高家を訪ねてみるといいでしょう」
それだけを言って許夫人は個室を出て行ってしまった。
高家を訪ねる? この私が? 縁もゆかりも無い私が?
門前払いされて終わりじゃない!
「芙蓉が、あの女を褒めていただろう? ということは、あの女は何かを知っているということだ。なのに、玉瑛様の馬鹿弟の孫も馬鹿だから、話が聞けなくなったのだ。この馬鹿め!」
白は円卓の上をトコトコと歩きながら、霍良に文句を言った。
でも、この感じだと老夫人がいるから、許夫人は高美人が一人悪いと言い続けたのだよね?
ということは、共に過ごしている老夫人ですら警戒しているということ?
「罰としてこれは俺がもらう!」
白は大きな魚を揚げた料理に齧り付いた。
うん。鯉の丸揚げだね。独り占めしたいのだろう。器用に食べながら皿ごとこちらに移動してきている。
そして馬鹿にされた霍良は怒っているのかと言えば、右手を額に置いてうなだれていた。
「霊獣様にまで、短気を注意されてしまいましたね」
付き人がクスクスと笑いながら、私の方に細長い木の箱を差し出してきた。
そんな何かを封じていそうな箱を持ってこないでよ。まずはそこの落ち込んでいる霍良に開けさせてから持ってきて……あれ?
この札には何も術は施されていない。
ただ木の箱が開かないように貼ってあるだけ。言い換えれば、開けられるとわかってしまうというもの。
「これ開けていい?」
「はい。霍道士様に持ってこられたのだと思います」
いや、私は霍良の後方で知らない話を知っているように話さないでと思っていたぐらいだ。
しかし、許夫人はそれなりに親しかった高美人から渡されたものを手放したのだ。
これには、今回のことに何か関わっていることなのだろう。
表面に貼ってある紙を切り、上蓋を持ち上げる。箱の中には筒状になった紙が入っていた。
手紙? 確か亡くなる前に渡されたと言っていた。ということは遺言状ってこと?
丸まった紙を止めている紐を外し、紙を開いた。
『救命啊』
ん? これだけ?
他に何か書かれているのかと思って隅々まで見るも、誰から誰宛も書かれておらず、ただ一言だけ書かれていた。
だけど、この言葉が高美人の最後の言葉だとすると、堀に飛び込んで自死をしたという話が違ってくる。
誰かが高美人に全てをなすりつけるために、殺害したということになるのだ。
芙蓉様は母のときも私のときも穏便にことを解決するように言ってきた。
普通であれば、二度とこのようなことを引き起こさないように見せしめにするほうが、権力者として統治しやすいはず。
だけど、事を荒立てることを嫌った理由。
許夫人がこの事実を隠した理由。
そこには何かしらの繋がりがあるはずだった。




