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第5話 仙界と下界の時間は違う

 

 どこにこんなに多くの兵がいたのだろうというぐらいに、甲冑をまとった兵が整然と並んているところを案内されている。


 いや、こんなに兵がいたのなら、あれぐらいの妖魔を追い払うことできたよね。


 白の背中に乗っているとは言え、もう引き返したいオーラがまとわりついている。

 だめだ。

『我が主』とかいう人はこの兵を従えている時点で、駄目だ。本当に兵がどれだけいるのかわからない。

 上から見たほうが全体像がわかっていいだろうという規模だ。


 そして天幕が張られた場所に案内されてしまった。


「我が主の御前のゆえ、降りて中に入られよ。少しでも怪しい動きをすれば、こちらもそれ相応の対応をさせていただく」


 は? そっちが呼んでおいて、どういうこと? だったら天幕ではなくて外で会えばいい。

 その前に褒美はいらない。


「生まれながらの仙人である私に人と同じ地を踏めと?」


 イライラが溜まってしまい言い返してしまった。別に嘘は言っていない。


「しかし……」

此度(こたび)の件、どちらに正義がある?」

「いったい何を……」

「種が違う妖魔が同時に人を襲うことなどありはせぬ」


 私は甲冑をまとった者の言葉を遮り、今回のことを問いただす。それも偉そうにだ。

 ここで下手(したて)に出れば、舐められるからね。


 基本的に妖魔は単独行動をする。種は同じでも集団になることは滅多にない。いや、集団で行動するモノがいないわけではないが、数はそれほどいない。


 今回は集団で、それも鬿雀(きじゃく)掲狙(かつしょ)という全く別の妖魔が襲っていたのだ。

 共通点と言えば、同じ河北山に住んでいるというぐらい。


 ここは平地である草原。山なんて目視できる範囲にはない。


 これが意味することは、この者たちが河北山で、なにかをしたということだ。そして、鬿雀(きじゃく)掲狙(かつしょ)を怒らせた。


 私は今回妖魔を討伐していない。複数の敵を相手にするのが面倒だったというのもあるけど、違和感を感じたからだ。

 だから、元いた住処に妖魔たちを術で帰したにすぎない。


王離(おうり)。よい、余から出向くのが道理であろう』


 中から声が聞こえたかと思うと、天幕の入口となる布が上げられ、中から人が出てきた。


 すると周りにいた兵たちがザッと音をさせながら、礼をとる。


 怖い。この調教されたかのような集団的行動が怖い。


「天仙の御仁よ。此度の妖魔からの襲撃から助けていただいたことに感謝する」


 一人だけ豪華な甲冑をまとった人物が出てきた。武具のことにはさっぱり知識はないけど、高そうな甲冑だなということがわかる。


 視線を上げれば、背の高い紫紺の髪を結った偉丈夫が私を見下ろしていた。

 首が痛いぐらいに背が高い。


 いや、白に乗ったままだから余計に身長差が出てしまっている。


「別に私が手を出さなくとも、これ程の兵を付き従えている貴殿には無用だったであろう」


 主という輩が出てきたからと言って、私がへりくだることはない。別に私はこの者に仕えているわけではないからね。

 それに私のことを、天仙と勝手に勘違いしているのは、彼らの方だからね。


「いや、人の剣では妖魔は切れぬがゆえ、助かったのは事実だ」


 別に切れないことはないと思う。たぶんそこで、私を睨みつけている王離(おうり)という人物なら妖魔を斬れるだろうね。


 しかし、どこかで見た顔なんだよな?どこで見たのだろう?


 紫紺の髪も珍しいのだけど、私と同じ金眼ってかなり珍しい。とはいっても私の金眼は母譲りなのだけど……ふと一人の女性の顔が浮かんだ。


「ん? 芙蓉様?」


 なんとなく母の妹の芙蓉(ふよう)様に似ているような気がする。男だけど。


「なんだ? 今気がついたのか? そいつ、芙蓉の孫だろう?」


 白が芙蓉様の孫だと言った。おお! 言われてみれば確かにそうだ。


琅宋(ろうそう)? 昔会ったの覚えている? あ……でも、私より小さかったから覚えていないか」


 仙界と下界の時間の流れは違う。私が十歳のとき琅宋は五歳だと言っていた。

 ん? なんだか嫌な記憶も引っ張り出されてきた。……これは……さっさと退散しよう。


「芙蓉様の孫から礼をもらうわけにはいかない。叔母様によろしく伝えておいて欲しい」


 仙嚢から桃を一つ取り出す。

 そしてそれを私より大きくなった従甥に仙桃を差し出した。


「先程取ってきたばかりの仙桃だから美味しいよ?」

「もらっておけ、仙桃など普通は口にはできん」


 なんだか、呆然と私を見下ろしている琅宋に桃を押し付けて、白の背中を叩く。すると白はゆっくりと宙を歩き出した。


「待て……」


 呼び止める琅宋ににこりと笑みを浮かべ、言葉を遮る。


「芙蓉様の手前、物事を大きくしたくない故、問いただすのをやめたが、妖魔には妖魔の領分あるように、人には人の領分がある。忘れるなかれ」


 それだけを言い残して、私はその場を去る。そう、これ以上声をかけられないように去ったのだった。



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