第47話 許夫人って怖い
「こちらが許栄様です」
先程、庭にいた老夫人が案内してくれた部屋に、四十半ばほどの女性がいた。
ちょっとまってよ。さっきまるで自分が許夫人のような言い方だったじゃない。
いや、たぶんここにもう居たくないのだろう。だから、使用人としてでも霍家に雇ってもらえれば、ここから離れられると思ったのかもしれない。
「許栄様。この方々は許栄様にお尋ねしたいことがあるそうです」
いや、確かに年齢を考えれば二十年前は二十代半ば、子供を身ごもっていたという高美人と近い年齢だったのかもしれない。
年齢が離れている芙蓉様より、歳が近い側妃のほうが交流があってもおかしくはない。
って、先々代の皇帝って確か芙蓉様と変わらない年齢だったはず。若い女好きだったということ?
「俺は霍良という者だ。お初におめにかかる。許夫人」
「霍家の次期当主が、わざわざ用済みと捨てられた者に何を聞きたいと?」
凄く嫌味が入っている!
なんだか、関わりたくないオーラが許夫人から漏れ出ている。
しかし、霍良のことを知っているのか。ここは町から離れているので、人の噂もあまり入ってこないと思うのだけど。
「俺は護衛だ。聞きたいと言っているのは俺の従兄妹の霍道士だ」
「いとこ? さて、霍家のご当主の兄妹の血筋に、道士となる者がいたというのは初耳ですね」
え? もしかして、この人は家族構成まで記憶しているとかいうの?
確かに霍良の父親の兄妹の中に道士を生業にしている者はいないし、その子供にもいない。
「あー……今回は芙蓉様の依頼でここに寄らせてもらったんだ」
あ、シレッと話を変えた。
私が母の娘だと言うと何か問題があるのだろうか。
「太皇太后様からですか。……そうですか。それで何を聞きたいと?」
芙蓉様権限ですんなりと話が進んだ。すごい。
私のことをちらりと見て何かを考えた感じだったので、もしかしたら感づいているのかもしれない。
私は仙女玉瑛の娘だと。
「陵墓に埋葬されている高美人についてだ。許夫人から見た高美人を教えて欲しい」
客観的ではなく主観的な意見が欲しいと?
「高耀のことを? なぜに随分と昔に死んだ者のことを?」
今更なにを聞こうとしているのかと言いたいのだろう。確かに今更だ。
それは私も思っている。なぜ今になって事が起こったのかと。
「まぁ、太皇太后様が動かれているのであれば、皇帝に関わることで何か事が起こったということ。そして霍家もとなると、二十年前と同等のことが内廷で起きているということなのでしょう」
うわぁ。霍良が芙蓉様の名前を出しただけで、ここまで推察されるの?
この人すごいよ。絶対にこういう人を琅宋の側に置いていたほうが……あ、だからか。
頭が良すぎて、都から離れた場所に墓守として送られてしまった。だから自分のことを『用済みとして捨てられた者』と言ったのか。
「高家も霍家と同じで、鴻帝の血の流れを組む家で、家の再興を企んでいるというのはご存知でしょう」
知らないよ! そっちの情報は全然私にはないよ。
「霍家は太皇太后様の力でとは言い難いですが、今では霍家を知らぬものはないほどの権力を持っています。それと同じことを高家もしたものの、霍家によって潰されてしまい、今では見る影もありません」
あれ? この話の流れは霍家が悪いみたいな方向になっていない?
それから高家は何をして霍家に潰されたのかその辺りの説明はしてくれないの?
私には基本的な情報が欠落しているのだけど。
私はスススっと後ろに下がり、お付の人にコソコソと聞いてみる。
「高家は何をして霍家に潰されたの?」
「先代の皇帝の皇妃に高皇妃をつけたことです」
ん? 先代の皇帝に高皇妃? 先々代の皇帝に高美人?
二代続けて妃として高家が送り込んだと……って琅宋の母親って高家の人!
あれ? ちょっとまって、色々合わなくなってきている。
これ霍将軍の話がおかしいってならない? 嘘を言われた?
でも永寿宮の殭屍を解決しなければならないのであれば、私に嘘をつく必要はない。
「高耀は高家の威信を背負っておりましたよ」
「そんなことは誰でも知っていることだ。同じ妃として、どう見ていたのかを聞きたいんだよ」
霍良。私はその誰でも知っていることを知らなかったのだけど?
そうだよ。初めからこの話は私には荷が重かったと思う。
しかし、同じ妃として? そう言えば芙蓉様が危機感を抱いていたと霍将軍が言っていたけど、そのことを聞き出そうとしているのだろうか。
「同じ妃としてですか。そうですね。殺したいぐらい憎らしい女でしたよ」
もの凄く殺意がある言葉が、許夫人から出てきた。
え? 高美人はいったい何をしたのだろう。




