第46話 甘やかされている?
「お腹が空いた」
頭をたくさん使ったので、お腹が空腹を訴えてきた。先程からお腹の虫が合唱をしている。
「おい。今言うことか?」
寝殿を出たところで、霍良に文句を言われた。
しかし、私のお腹は悲鳴を上げている。もうお昼を過ぎてしまっているのに、まだご飯にありつけていないのだ。
露店の饅頭でいいので食べたいが、ここは町外れなので食べられるところが近くにない。
「お腹が空いた。お腹が空いた。お腹と背中がくっつくぞ」
「うるせぇー! お前はガキか!」
いや、霍良のほうが声が大きいと思う。
仕方がない。私は大きく息を吐き、大気の気を取り込む。
仙人になる修行に使う方法だ。いわゆる気の基本的な取り込み方だね。
そうすれば、空腹ではあるものの、お腹の虫を紛らわせられる。
だけど、お腹が空いているのには変わらない。
「あー。白の美味しいご飯が食べたい。美味しいご飯はやる気が出るのに。食べなくてもいいのだけど。別にいいのだけど」
「黙れと言っているだろうが!」
黙れとは言われていないよ。
仕方がないので、トボトボと足を進める。
「おい、どういう育て方をしたら、こんなのが出来上がるのだ。ここがどういう場所か、わかっていないのか」
「俺に言われてもなぁ」
何故か霍良の矛先は白に向けられてしまった。その白はというと、どうでもいい返事をしている。
「仙界で苦労なく甘やかされて、育ったらこうなるぞ」
いや、母から仙人になるための修行をさせられたよ。私に甘々なのは父だけだよ。
「はぁ、黎明。これでも食っておけ」
背後から肉球の手で器用に紙に包まれた何かを差し出された。
これはまさか飴というもの!
……ってどこにあったわけ? まさか毛の中に隠されていたとかないよね。
「毛にまみれているとかないよね?」
「馬鹿か、黎明の仙嚢からとりだしたのだ」
私は紙を取り外して、黄金色の四角い飴をパクリと食べる。甘い。美味しい。
この飴を作った人は天才だぁ!
「って。窮奇も甘やかしているじゃねぇか!」
「霍良は声が大きすぎ。部下の人たちにもうるさいって嫌われているんじゃない?」
「声がデカくなければ、指示が飛ばねぇだろうが!」
あ、職業的にそんな感じということか。
軍の人も大変だよね。
「お二人は似ていますね」
前方からお付の人の声が聞こえてきた。
「「どこが!」」
「言いたいことをはっきりとおっしゃるところでしょうか? と、そういうところです」
霍家に仕えている人なので、顔は知っている人だけど、そこまで言われるほど霍家には行っていないよ。
それに霍良と似ているだなんて心外すぎる。
そんな無駄口を叩きながら、長い階段を降りていった。
そして、その霍家のお付の人の一人に案内されてきたところは、一軒の屋敷だった。塀に囲まれ、入り口の門には門番がおり、それなりの身分の人が住んでいることが窺える。
「まぁ? 霍家の方が?」
その門に入ったところで一人の老夫人が驚いた声を上げている。
白髪の歳めいた女性だけど、品というものがにじみ出ている。
ちょうど庭に出ていたところなのだろう。手に白い花を持っていた。
そしてお付の人が話している感じから、この老夫人が許夫人だと思われる。
「まさか! この私にお声がけを!」
……ん? お声がけ?
「なんか、勘違いしているな。だから遠回しな言い方じゃなくて、ズバッと言えと言っているんだ」
霍良はそう言って、老夫人の元に向かっていく。
「はじめまして許夫人。俺は霍良という者だ。従姉弟殿が貴殿に尋ねたいことがあると、足を運んだしだい。少し時間をくれないか?」
霍良! 言葉がぞんざい過ぎる!
そして私は霍良の従姉弟じゃないからね!
本当の従兄妹の姜昭儀と勘違いされては困るから。
そして、老夫人は私に視線を向けて、もの凄く残念そうな顔をする。
え? なに? その嫌そうな雰囲気は。
「そうですか。中央に戻れるわけではないのですね」
この感じは、自ら望んで墓守の仕事をしているわけでないと?
「何もないところですが、どうぞ中にお入りください」
そう言って、老夫人は屋敷の中に消えて行った。なんだか、感じが悪い。
芙蓉様の言葉からは、優秀な人という感じだった。これは芙蓉様が許夫人に気を使ったということかな?
「ねぇ、何故に私が残念な子みたいな目で見られないといけないわけ」
「そこは別に否定するところじゃねぇだろう」
「いや、するよ」
失礼だね。私は知らない人から残念な子というふうに見られる理由はない。
「まぁ、あれだ。墓守の役目というのは、厄介払いというやつだ。ここは都から離れているからな」
……離れていると言っても、馬車で半日だったけどね。近いと思うよ。行こうと思えば行ける距離じゃない。
でも、日に四回も死んだ皇帝に食事を出すっていうから、丸一日も休むことができないのか。
これはこれで辛い役目なのかもしれない。




