第42話 私の常識は仙界の常識
「客観的な話だ。霍家の次期当主の嫁という地位を得たいと思うかどうかだ」
「え〜。いらないよ」
「そういうところを言っているんだ。お金が欲しいと思っていても、なくてもいいと思っているだろう?」
まぁ、無くても生きていけるし。ただ、町の中で暮らすには、お金が必要になる。美味しいものを食べるのにも必要だ。
だから、退魔師として働いて金銭を得ているにすぎない。
「食べ物もあれば食べるが、無くてもいいと思っているだろう?」
食べ物を食べなくても、生きるすべを身につけているので、食べなくてもいいが、美味しいものを食べたほうがやる気が出る。
「人として生きる上での欲を感じないんだよ。地位や名誉などその辺に落ちている石ころと同じなんだろう?逆に邪魔だと思っているんじゃないのか?」
「地位や名誉なんて必要ないけど……」
私には必要ないものだ。
お金も仙界では意味がないもので、地位や名誉も人が営む社会だからこそ、意味をなすのだ。
それに仙人の修行には、欲を捨てさせるカリュキュラムが組まれている。でも……
「欲を我慢するのは難しいよ。食べなくてもいいけど、美味しいものは食べたいし、寝ない修行もしたけど、眠たいものは眠たいよ」
そう欲に抗う難しさにぶち当たるのだ。
「黎明は、まだまだだってことだ」
私の膝の上で毛づくろいしてる白。完全に猫に見える白に言われたくないよ。
「でもなぁ。そういうのがあいつに気に入られたんだろう?」
「え? 誰のこと?」
「はぁ、全く相手にされていないっていうのもなんだな。昼には琳宇につくからそれまで俺は寝る」
何故か飽きられたように言われたけど、寝るってちょっと待ってよ。話が飛んだままで私は話が理解出来ていないままなのだけど。
私は目を瞑って寝ようとしている霍良の肩を揺らす。
「寝ないでよ。なぜ、芙蓉様の許可で高美人の墓に入ってもいいというのが理解できないのだけど」
「あ?もらってきたのは先々代の皇帝の陵墓の参拝の許可だ。わかるだろう?」
わかって当然のように言われたけど、余計にわからなくなったよ。
「私の常識は、仙界の常識というのを念頭に話して欲しい」
「ちっ! 面倒くせぇーなぁ」
舌打ちされた!
いや、だって最初は買い物も満足にできなくて困ったぐらいなのだから。
それにお金を取られそうになって、慌ててスリをしてきたおっさんの腕を捻り上げて、腹パンしたけどね。
「いいか。皇帝の陵墓には祭壇がある寝殿という建物がある。そこまでは一応許可はいるが入ることが可能だ」
いや、私は皇帝の陵墓の話を聞きたいわけではなくて、高美人の墓の話を聞きたいのだよ。
「日に四度食事を用意し、衣服を整えているのが世話人である許夫人の役目だ。高官たちの参拝もそこで行う」
……私は何を聞かされているのだろう?別に先々代の皇帝の陵墓に参拝に行きたいわけじゃなくて、高美人の墓荒らしをしにいくのだ。
いや、棺の中身を確認するだけなのだけど。
「その奥に霊廟に続く扉がある」
あ、うん。まぁ、そんな感じなんだろうね。
「今は無くなった風習だが、妃が死後も皇帝を支えるようにと埋葬されることがあった」
「生贄!」
「違う。……いや、違わないが、皇帝に死後も仕えるという名目だ。今はそんな古びた風習は残っていない」
え? じゃこの話はいったいなんでしたわけ?
「その高美人の墓もその陵墓の中にあるのだ」
「え? 時系列が合わなくない? 高美人が亡くなったのは皇帝が亡くなる随分前の話だよね?」
「あ? なんでここまで言って理解しないんだ? そもそもだ、陵墓はとても巨大な作りだ。皇帝が死んでから作っても間に合わないだろうが! 生きているときから作り始めているんだよ。先に死んだ妃はそこに埋葬されることになっているんだ」
もの凄く霍良に怒られてしまった。いや、陵墓が巨大で皇帝が生きているときから作っているのは知っているよ。
だけど、まさか妃の墓がその中にあるだなんて思わないじゃない。
「それで、霍芙蓉様から先々代の皇帝の寝殿での参拝の許可をもらってきている」
あれ? 寝殿って祭壇があるとか言っていたところじゃない?
それじゃ、陵墓には入れないよ?
「だから、参拝をしていてもおかしくない時間は半刻だ。その半刻の間に、陵墓に潜入して高美人の墓を暴く必要があるってことだ」
「結局、墓荒らしと変わらない!そこの説明をせずに寝ようとしていたってどういうこと!一番大事なところだよね?」
半刻の間に、どれぐらい距離があるのかわからないけど、霊廟の入口まで行って、侵入して高美人の墓の場所を探すんだよね?
絶対に無理じゃない。
「あ? そんなもん。臨機応変に行けばいいだろう」
霍良の嫌われている理由がわかってしまった。絶対に部下に無茶振りをしているに違いない。
こんな墓荒らしに、臨機応変もなにもないよね? って最初に言っていたことと違うじゃない。




