第39話 霍良の嫁?ないわ〜
「小明〜!」
ジジイとは思えない筋肉の塊に捕獲された。
大きな屋敷の門をくぐろうと足を出したところでの話だ。
まだ、敷地にも入っていない。
白猫になっている白はしれっと地面に降り立って、先に門をくぐっていた。
私を見捨てる気か!
「めんこいのぅ〜。じぃーじぃじゃぞ〜」
私は祖父には会ったことはない。
霍将軍は叔父であるので、私の祖父ではないのだ。
「叔父様。お久しぶりです」
「小明。じぃーじぃだぞ。姉上の娘はわしの孫同然じゃ」
いや、違うよ。本当の孫はさっさと屋敷の中に入っていってしまったよ。
しかし、このままだと私だけ門に取り残されて、ご飯が食べられないという事態に……。
「じぃーじぃ。黎明。お腹が空いたなぁ」
「そうか。そうか。いっぱい用意しておるぞ」
「ありがとう。じぃーじぃ」
「小明はめんこいのぅ」
そう言って霍将軍は、私の頭をグリグリと撫でだす。頭がもげそうなんだけど。力加減をして欲しい。
そして霍将軍に捕獲されたまま、私は食堂に通された。その間の廊下では、使用人とすれ違うたびに、視線を逸らすように頭を下げてくれる。
霍将軍は御年六十歳になるにも関わらず、今も現役で軍部にいる人だ。
有事の際にはもちろん戦地に立つ。
そんな霍将軍を慕う者も多いと聞く。
その人物が、姉の娘を抱え『なにか欲しいものはあるか。じぃーじぃが何でもかってやるぞ』『服がよいかのう?髪飾りがよいかのう』とか言っているのだ。
それは視線を外したくなるだろう。
食堂に連れて行かれれば、既に霍家の人々が席についていた。
この状況に私は血の気が引く。
え? 食べるのを待っていたということ?
私が琅宋と一緒に食事を取っていたらどうなっていたわけ?
怖いよ。
「好きなだけ食べると良いぞ」
霍将軍は私がこの状況に気が遠くなりかけていることなど、気付かないというふうに私を椅子の上に座らせた。
そして運ばれてくる料理。
琅宋とご飯を食べなくて良かったよ。
この人たちを空腹のまま何時間も待たせることになっていたもの。
本当に霍将軍は怖いな。どこまで人の行動を読んでいるのか。
「小明。じぃーじぃと一緒に暮らさぬか? 小屋のようなところで住むより快適じゃぞ」
何故か私は霍将軍の隣に座らされてご飯を食べている。
美味しいのだけど、話しかけられたら答えなければならないので、純粋に食事を楽しめない。
こんなたくさんの料理を食べることなんて、ここに来ない限りないのに。
見慣れない料理なので、わくわくしながら食べるのだ。
だけど、霍将軍は無理なことを言ってくる。それはダメだよ。
「私は仙人になる修行中なので、誰かの庇護下に入ることはありません」
「飯は俺が作っているけどな」
円卓の上に乗って、ハムハムと肉を食べている白。その肉美味しそう。食べてみたい。
……違った。私は、料理を作ることが壊滅的だから仕方がないのだよ。
「では良の嫁にどうじゃ?」
「は?」
シスコンジジイは毎回、私に自分の孫を進めてくる。その霍良に視線を向けるが、絶対にない。
「三人も妻がいるのに、私は必要ないでしょう」
そう、霍良の側には三人の女性がおり、霍良の世話を焼いている。料理を取り分けたり、お酒をついだりしている。
表面上はにこやかな笑みを浮かべているけど、目が笑っていない。これは、彼女たちの中には何かしらの確執があると思われた。
そして霍良と視線が合い、互いにないわという表情になる。
「そうか。残念じゃのぅ」
全く残念だと思っていない霍将軍の言葉が聞こえてくる。
たぶん、これは前フリなのだろう。
本題は別にある。
「東可の陵墓に行くそうじゃが」
やはり、芙蓉様から話が行っていたのだろう。私が今から行こうとしている地名が出てきた。
「はい」
「その辺りは物騒じゃから、良を連れていくとよいぞ」
「……」
私は霍将軍の言葉の意が汲み取れず、料理から目を離して隣を見上げる。
「物騒ですか」
普通であれば野盗ぐらいなら問題にならない。私は妖魔を相手にしている道士だ。人との諍いに戸惑うことはない。
「そうじゃのぅ。最近は墓荒らしが横行しているらしい」
墓荒らし。墓には埋葬した故人が死後の世界でも困らないように、装飾品や金品などを一緒に納めているのだ。
その金品を狙って盗掘する者たちがいるのは聞いたことがある。いわゆる墓泥棒だ。
だが、王の墓には墓守がいる。
その周りにある貴族の墓の話なのだろうか。
「その昔、宴には王の寵妃が同席することがあってのぅ」
話が突然変わった。
墓荒らしの話はもういいの?
「皇后の他に、班昭儀、許婕妤、衛娙娥、文容華、高美人、黄八子、という六人の寵妃が宴に同席することがのぅ」
許婕妤と高美人ってまさか!
「寵妃はそれぞれ得意な芸を披露しておった。舞であったり、楽であったり、詩であったり」
まぁ、その一芸が皇帝に気に入られたのだろうね。
「その中でも異質だったのが高美人であった」




