第38話 霍良が立ちはだかった
ついてくるという暇人皇帝を振り切って、私は大きくなった白の背に乗って、暗闇の空を飛び立った。
夕食を一緒に食べようという誘いに一瞬後ろ髪を引かれる。だけど、私がいつまでもいていいところではないので、さっさと出ていく。
「怖いわ。宮廷内怖っ」
私は思わず、白の背の上で両腕をさする。
あそこは魔境だ。
普通の神経をしていたらいられないよ。
「その割には、殺気をバシバシと投げつけていたよな?」
「は? 人払いしているのに、様子を窺いにくる輩がいるからだよね」
炎駒がいるときは良かった。
人はある程度炎駒と距離をとろうとするので、近づく人の気配はなかった。
炎駒がいなくなってから、どれほどの人が部屋の周りをウロウロしていたことか。
全員に殺気をぶつけてやったけどね。
内緒話もできやしない。
「それで琅宋は馬鹿に任せていいよね」
「良いんじゃないのか?正義感を振り回して、相手をしてくれるだろう?」
正義感ねぇ。ふざけているようで、炎駒の琴線に触れれば、かまってくれるとは踏んでいる。
ただ、そこに正義感があるのかは不明だ。
「取り敢えず、お腹すいたから下町で何か食べようよ」
「そうだな。これから一晩中移動させられるし」
首都と言っても夜は真っ暗だ。
だから、空を飛んでいるモノがしれっと地面に降り立っても見つかることなんてありはしない。
だけど、今日は月が明るいので、人気がないところに降り立つ。
大通りから外れた入り組んだ路地にだ。
少し歩けば大通りに出られる。そうすれば、ご飯が食べられる店があるはずだ。
人の姿になった白と共に大通りに出ようとすれば、路地の中央で陣取るヤツに捕まってしまった。
「そんないい服を着ているとさらわれるぞ」
月明かりに金色の目に反射しているのか、異様に目が光っている人物にだ。
「ふん! 私が簡単にさらわれると思っているわけ?」
あ、今思ったら服をそのまま拝借してしまっていた。でも、お偉い許夫人という人に会うから別にいいよね。
「思ってはいないが、俺がさらってやろうかと」
「は?以前のようにボコボコにされたい?」
「……お祖父様が呼んでいる」
「ちっ!」
私の行く手を塞いだのは、先程名が出た霍良だ。私から見れば、琅宋と同じ従甥に当たる。
「食事も一緒にどうだと言われている」
「はぁ、どれだけ準備がいいわけ?」
私が芙蓉様に呼ばれて強制連行されたことはわかっているだろう。なんせ、王離が軍を動かして私を連行したのだから。
だけど、私が夕食を食べずに出てくることを予想して、孫の霍良を迎えに行かせたのだ。
相変わらず食えないジジイだ。
いや、だからこそ将軍の地位まで上り詰め今でも権力を保持しているのだろう。
「さて? 俺はお祖父様の命令を聞いてここにいるだけだからな」
ここで霍良を無視すると、借り家の前で軍人を整列させるという嫌がらせを受けるので、従うしかない。
「はぁ、わかったよ。本当に力の無駄遣いだよね」
呆れてしまう。空を飛ぶ白に追いつく俊敏さ。
霍良は上手く力を使いこなせている。ジジイの権力の所為とか言われているが、武神の力の所為なのは見てのとおり。
「それで霍将軍は何だって?」
取り敢えず、事前に霍良から情報を得ておこう。いつもジジイが何を言っているのか理解不能になるのだ。
「んー。お小遣いあげるからおいでだったかな?」
「早くいこう!」
「相変わらず現金だよな。御祖父様の庇護下に入れば、お金に困らないぞ」
「嫌だね。私は仙人になってぐ~たら生活をするという壮大な夢があるのだからね」
私は何度か行ったことがある霍家の屋敷に向かって歩く。
お小遣いをくれるというのなら、行ってあげよう。
「相変わらず、仙人らしくないことをいうよな。それであの皇帝に仙桃を食べさせたんだって?」
情報はやっ!
いや、聞き耳を立てていた者の中に霍家の影が混じっていたのか。若しくは芙蓉様から漏れたのか。
「だったら、なに?」
「よく食わせたなと思ってな。あいつ凄く堅物だろう?」
……聞き慣れない言葉が聞こえてきた。
堅物? やはり、皇帝は二人いる説が正しいのではないのか。
琅宋が暇人をしているのは、表にいる身代わり皇帝がしっかりしているからだろう。
「堅物というのがわからないけど、何かとついて回る暇人皇帝になら食べさせたけど」
「ふーん。黎明の前では素直なのか」
よくわからないことをいう、霍良と共に月明かりが照らす夜道を歩いて向かったのだった。




