第37話 紫焔帝の血
「そういうことだと思った。紫焔帝の血が悪だと思いこめば、私の話はただの戯言に過ぎない」
一度、悪となった者を擁護する言葉は、悪と思い込んだ者にとって、雑音にすぎない。
だから霍将軍に対しての噂は、あまり良くなかったりする。権力に囚われた老害という言葉を、下町にいる私ですら耳にすることがある。
「しかし、私が無理やり食べさせたのもあるから、説明だけはしておくよ」
芙蓉様が説明しなかった理由はこれだ。幼い子供への刷り込みが行われていたため、琅宋は芙蓉様の言葉に耳を傾けることなく、血をつなぐことを止めた。
そして、そんな琅宋を一族の者である姜昭儀様は嫌っている。一族を代表して後宮に入ったものの、皇帝を敬遠している。
なんとなく、話が繋がったね。
「以前、天帝がどうとか言っていたけど、天帝は天にいるので人々の前には顕れない」
だから仙界に天帝という存在はいない。
たぶん玉帝と混同しているのだろう。神話では光厳妙楽国の太子として生まれたとされている。
その玉帝を神として崇めることが描かれているが、その者は天帝ではない。
それに女媧伏儀でも、天帝に会ったことがないとされているしね。
「その天帝がいる天から追放された武神が紫焔帝の祖と言われている。まぁ、神話時代なので、口伝しかない曖昧さだ。ここで否定されたら、鼻で笑うしかないね」
もし、証拠として提示するのであれば、現れる人外の力としか言いようがない。だが、それは紫焔帝の所為だと言われて堂々巡りになるのだ。
だから、私の言葉は紫焔帝を否定する者にとっては、戯言にすぎない。
「不老不死ではなくなった武神は一人の女性を娶り、ときの皇帝に仕えていた。そしてその血が紫焔帝に繋がっていく」
皇帝に仕えていたときの英雄談もあるけど、それは端折っておこう。
これも子供の気を引かせる英雄談だからだ。
「ただ、人の身に神の力は毒でしかない。だから、毒に蝕まれた人は短命になる。そうだね。30年生きれるかどうかだね」
あのままだったら、琅宋もあと数年の命だった。まぁ、私にとってはどちらでも構わないことなのだけど。
「人の身で人外の力に耐えようと思えば、いくつか方法はある。その中で、手っ取り早く仙桃を食べるという手段が取られたというもの。ただ、それは人外の力を体に受け入れるだけの話」
人外の力を受けいれる器ができたということだね。
その力を扱えなければ暴走だ。
ただ、その力にも個人差がある。
芙蓉様の場合はそこまでの力はない。だから、暴走が起きるほどじゃない。
だけど、琅宋の場合は、あの炎駒のテンションが高くなるほどヤバい。
何かきっかけがあると、暴走が起こるかもしれないけど、ここには炎駒がいるから、嬉々としてなんとかしてくれるだろう。
他人頼りだけどね。
「この話には続きがあって、神話時代の皇帝に仕えた武神が倒せずに封じたバケモノが出てきたときに、一族の者が倒すという役目を担っている……と言われている」
恐らく、紫焔帝がバケモノになって人々を襲ったというのが、これに当たるのではと私は思っているけど、真偽のほどはわからない。
ただ、武神が倒せなかったモノを、人の血が混じった紫焔帝が倒せたのかという疑問がある。
この辺りの話が語り継がれていないことから、厄災をもたらしたバケモノと戦った者たちは相打ちになったのだろう。
これも私の予想にすぎない。
お陰で、紫焔帝の血筋の排除が人々の中に広まったのだから、一概に外れでもないだろう。
「ということで、武神の血を持つ者は強さを求める傾向にあるらしい。シスコンジジイの孫が、やっかみで言われているのが下町でも噂にあがるぐらいにね」
「霍良のことでありますか?」
私より王離の方がよく知っているだろうね。軍部でそれなりの地位にいるらしい。
手柄を立てたが、裏で霍将軍が糸を引いているとかなんとか、言われているらしい。
「芙蓉様が、琅宋に怒っているのはその辺りのことだろうね。血を繋いで、いつか起こる厄災に備えなければならないってね。まぁ炎駒は別の意味で楽しんでいるようだけど」
炎駒は麒麟だから、あれは別の意で動いている。
私は炎駒とは関わりたくないので、二度と会いたくないけどね。
「……その……黎明が皇后になってくれるなら」
「は? ないわー。絶対にないわー」
私の背後から、おかしなことを言う琅宋の言葉をぶった切る。
「ぐふっ」
「うぎゃっ! なんで、力が増しているわけ?」
私を捕獲している力が増して、お腹が締め上げられている。
「取り敢えず! 何かあれば炎駒が嬉々として、なんとかしてくれるだろうから! 私は高美人を知っている人のところにいくよ!」
ん? 何故に私が皇后なのだ?
皇后が必要なら姜昭儀様と和解して、皇后に立ってもらえばいいのに。




