第23話 軍に世話になるようなことはしていない
甘いご飯の匂い。今日は粥かな。
でも眠たい。
「黎明。飯ができたぞ」
「……」
「黎明。起きろ。客が来ている」
「眠いから帰ってもらって」
「たぶん帰らんと思うぞ」
「……」
誰か知らないけど帰って欲しい。
今日はふかふかお布団から出る気はない。
出る気はないのだ。退魔師協会のババァのところに行こうと思ったけど、お布団が私を離さないからしかたがない。
そう! 仕方がないのだ!
「寝るなって」
お布団に包まったまま座らされた。
そして鼻にご飯の甘い香りが漂ってくる。
「ほら、口を開けろ」
開ければ、とろりとしたお粥が口の中に入ってきた。
もぐもぐ。お粥の中に、コリコリした食感がある。松の実かな? 美味しい。
「食べる気があるなら自分で食べろ」
器を持たされ、匙を握らされる。
薄目を開けて粥をすくって食べる。甘くて美味しい。
私が作ると何故か焦げ付くけど、白のご飯は美味しい。
「おい、寝ながら食うな」
首が、ガクンガクンと揺れながら食べていると、頭を押さえられてしまった。
だから、明け方まで起きていたから眠いんだよ。
そしてお粥を食べ終わる頃には、目が冴えてきた。
私は再び横になる。ババァのところには明日行けばいい。今日は、お布団が私を離さないのだから仕方がないのだ。
「黎明! 客が来ていると言っているだろう!」
「私のお布団が飛んでいった!」
「いいから起きろ!」
白が私からお布団を奪ってしまった。私からお布団を奪うなど許されることではない。
文句を言おうと口を開ければ、何かが口の中に飛び込んできた。
甘い……なにこれ!
「これ美味しい!」
目がぱちりと開く。
凄く甘い。あ……溶けてなくなってしまった。
「麦の飴だ」
「え? なにそれ! こんな美味しいものがどこで売っているの?」
「客が持ってきたものだ。いいから着替えろ」
え! こんな美味しいものを持って来てくれるる客って誰だろう?
私はウキウキした気分で着替えて、ボロ家の扉を開けた……が、勢いよく閉める。
私が閉めようとしたのに、それが阻まれてしまった。
「私は何も悪いことなんてしてないよ!」
そう、雑多な貧困街の狭い路地に、不釣り合いな甲冑を着た者たちが整然とならんでいるのだ。
軍にお世話になるようなことはしていない!
琅宋の件は勝手に首を突っ込んで来たからであって、私が悪いわけじゃない!
後始末はしなかったけど、問題は解決した。たぶん屋敷の中に殭屍になっていた死体はたくさんあったと思うけど、それを倒したのはおっさんと琅宋だ。
そう。私が閉じようとしている扉を止めているおっさん。
「王離。私は軍にお世話になるようなことはしていない」
だから、その手を離せ。
「勘違いするでない。黎明を迎えにきただけである」
「勘違いもなにも、どこかに連行する気満々じゃない!」
「黎明。さっきの美味しい飴は、王離からもらったやつだぞ」
「飴だけもらっておく」
白の言葉に堂々と言い返す。食べ物に罪はないから、飴はもらっておく。それにもう食べてしまったから、吐き出すわけにはいかない。
「太皇太后様の姪殿を迎えに来ただけである。太皇太后様のご命令でだ」
「は? 王離って琅宋の側近だよね。こんな雑用もするの? っということで、その手を離して欲しいね」
「太皇太后の命を、我が主が受けたので、我が迎えに来たのである」
「いやだー! 絶対に虫地獄だ!」
なんていう場所か私は知らないけど、芙蓉様がいて琅宋がいたあの場所に良い思い出はない。
そう、ぎゅうぎゅうに箱に詰められたウネウネした物体がいるのだ。
「一週間前のあれに比べれば、何も問題なかろう」
一週間前? ああ、父のところに行っていたから、日にちがズレているのか。
しかし、流石にあの巨大虫共を相手にしていた王離も、あれはトラウマ級だったようだ。
「あまり騒ぐと近所迷惑だからな。ほら行くぞ」
背後から白に抱えられてしまった。私は今日はお布団に包まれていると決めたのに、何故にお外に行かないといけないのだ。
「いやだー。軍に連行されるなんていやだー」
「人聞きの悪いことを言うでない。迎えに来たと言っているであろう」
こうして私は、大通りまで白に抱えられ、そこで馬車に詰められたのだった。




