第22話 たまには一緒に食事をするのもいいよね
すぅーすぅーすぅー……
「黎明……黎明! 起きなさい! 黎明!」
「はっ! お母様!」
母の声に目が覚めた。
目を開けると母の金色の目が私を見下ろしている。
この状況に勢いよく飛び起きた。
ヤバい。まさか母に見つかるまで寝てしまった。
「黎明。もう起きるのかな?」
「お父様、起きるよ。お母様に見つかってしまったから」
「黎明!」
泉の水を汲み終わったあと、父の家で昼寝を堪能していたのだ。ここで暮らすことは許してくれないが、お昼寝は許してくれるのだ。
「見つかったとはなんですか! 貴女は修行中の身だとわかっているのですか!」
「お母様。わかっているよ。でも……」
「でも、なんですか!」
「たまには、お母様とお父様と一緒に御飯食べたいよね」
「……食事の用意をしましょう」
母はそれだけを言って、背を向けて私がいる部屋から出ていった。
よし! 時間稼ぎはできた!
くるりと横を向く。
そこには、ニコニコと私を見ている父がいた。
そう、私は父の膝枕でお昼寝をしていたのだ。
「ぱぱ〜。黎明。天蚕の糸が欲しいなぁ。あと、月松の墨も欲しい」
「おい。それ普通でも中々手に入らないやつじゃないか」
うるさいよ、白。
父なら二つ返事でくれるはず。
「どれほど欲しいのかな?」
「天蚕の糸は一束と、墨は一本」
「用意をさせておこう」
「ぱぱ〜。大好き〜!」
私に激甘な父に抱きつく。
普通では手に入らないものも父に頼めば用意してもらえるのだ。
「そんな希少な素材使う道士がどこにいるんだ」
「口の周りをベタベタにして、仙桃を食べている白に言われたくないよ」
翼が生えた白虎が、桃汁で口の周りをベタベタにしているのだ。その横には父に仕えている仙女がおり、白に餌付けをしている。
私が寝ている間に、どれほど食べたのだろう。
「相変わらず、黎明と窮奇は仲がいいね」
「言われたことを、やっているだけだ」
白は父ではなく、母の霊獣だからね。こういうときの白はそっけない。
「黎明は、少し玉瑛様を見習ったらどうだ? 料理ぐらいできるようになろうという気はないのか?」
「え? 白のご飯の方が美味しいから、白のご飯を毎日食べたいよね」
「まぁ……確かに、食材を無駄にしなくていいよな」
そっぽを向きながら毛づくろいを始める白。
照れなくてもいいのに。
そんな、私と白を見てクスクス笑う父。
「食事の用意が整いましたよ」
「早っ!」
そして、食事ができたと部屋に戻ってきた母。
はぁ、こういう穏やかな毎日を、ぐうたらと過ごしていきたいよね。
虫地獄は嫌だよ。
こうして、久しぶりに父と母で食事をとったのでした。
「戻って来てしまった。三年間暮らした雨漏りする家に」
首都の瑞曉にある貸し家に戻ってきた。日は落ちて辺りは寝静まり真っ暗闇。
そしてピチャン、ピチャンと土間に落ちる雨粒。
外は土砂降りの雨で、雨に打たれて戻ってくれば、我が家の中にも雨が降っていた。
少し離れただけで、雨漏りまでするようになっている。
「取り敢えず、札でも張っておく?」
「そこに鍋でも置いておけ、明日にでも木の板でもどこからか調達してくればいいのだろう?」
白は父の住んでいる南山と瑞曉を往復したので疲れているようだ。さっさと板間に上がって丸まって寝てしまった。
仕方がないか。
明日は退魔師協会のババアのところに行って、追加料金の交渉をしよう。今回の仕事は割に合わなかった。
その後にでも廃材屋を回って、良さそうな木の板を買ってきて、屋根の修理をしよう。
私は雨水が落ちている土間に鍋を置き、白が寝ている隣に座る。大きく揺れ動くお腹に背を預けた。
そして、側に明かりをともす。
今のうちにやっておこう。
父からもらった天蚕の糸を取り出して、布になるように編んでいく。
本当は機織り機を使うのがいいのだけど、そんな物はここにはない。
だから、目が荒くなるが、編み棒を使って一枚の布になるようにする。
天蚕の布。いわゆる天女の羽衣だ。
今回のことで思ったこと。
あそこまでの外法となると、私一人では対処できなかった。
白がいなければ、私はあの数の猫鬼に対処できなかった。
なに? 倒しても復活する猫鬼って。
だから、私は私自身の自由度を上げるために、天蚕の布を作る。
私は明け方まで夜なべをして、天蚕の糸を編み続けたのだった。
『ドンドンドンドン!』
うるさい。また、隣の夫婦が喧嘩しているの?
『ドンドンドンドン!』
それとも向かい側のジジイの借金取りか?
『ドンドンドンドン! 黎明、戻ってきておるのだろう!』
「あ?」
何故か。王離の声が聞こえた気がするけど、気の所為……ぐぅ〜。
ギィと軋む音をたてながら扉が開く音がする。
「王離っていったか? 黎明はまだ起きないぞ」
「何奴! それからもう昼であるぞ!」
「あ、今昼飯を作ろうとしていたから、この姿なんだ。昼飯を作り終えたぐらいに匂いで起きるから外で待っていろ」
「むむ! 昼飯を作る……まさか霊獣様!」
「そうそう」
うるさいなぁ。私の眠りを阻害しないでよね。白。
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