第19話 呪詛
「おおぉぉぉぉぉ! 身体に翼でも生えたかのように軽い!」
四階を抜かして五階に続く階段を上りながら、王離が叫んでいる。
それは良かったね。
相変わらずの虫ども。時々現れる疫鬼。
そして、すごい勢いで駆けてくる殭屍。まだ、いたのか!
ここに来て赤子のような鳴き声が響いてくる。
「はぁっ。はぁっ。はぁっ。はぁっ。さきほど……から、なんだ……この……鳴き声……」
琅宋は、仙桃を食べてから調子が悪そうだ。
肩にのった白から白い目で見られている。
いや、だってこんなに顕著に不調が現れると思っていなかったんだもの。
結局、二人は仙桃を食べたのだ。
仙桃の効果で王離は、体力が回復し筋力が増強したらしい。
さきほどから、虫どころか殭屍までも斬り伏せている。
元々、素質があった王離だ。妖魔を倒す為に作られた槍を使いこなすようになっていた。
しかし琅宋は逆に、体調が悪くなってきている。顔色が悪く、発熱でもしているようだ。
だから、私が隣を並走しながら神気を送って、身体の中の気を整えている。
「呪詛の本体が近いということだね」
確証はなかったけど、この鳴き声は相当危険かもしれない。
「琅宋。これを持っているといいよ」
私は翡翠の短剣を琅宋に差し出す。短剣と言っても切れるものじゃない。
「これは?」
「お守り。邪を切り祓うという呪がこめられている」
今の琅宋は、紫焔帝の血が仙桃によって活性化されている。この状況ではまともに戦えないだろう。
だから、守り刀を渡しておく。
「それなら黎明が……持つと……いい」
「私の守り刀は白だからね。必要ないんだよ」
「はん? 俺様にかかれば猫鬼など子猫同然だ!」
私の肩に乗って偉そうに言う白。
いや、後始末の方が大変なんだよ。
「猫鬼! それはもしかして、人を呪い殺すというものであるか!」
王離が、後ろを振り向きながら聞いてきた。
「おっさんは、前だけを気にしていればいい」
流石に猫鬼の相手は私がすることになるだろうね。
「人を……呪い殺す……なら、役目を……終えたのでは……ないのか?」
琅宋が、武官は死んだのに、未だに人を呪い殺す呪詛が完結していないことを言っているのだろう。
「武官っていう人が呪詛で死んだのなら、それでそれは良かったのだろうけど、疫鬼で死んだのなら、呪詛は完結しないまま発動し続けることになる」
「あ……だから……この状況……に」
「そうだね」
ただ、疑問なのが庭を回ったときに、呪物が埋められた痕跡がなかったことだ。
だから、王離に前の所有者を聞いたのだけど、随分前に瑞曉を離れているようだった。
だから武官に対しての呪詛だと思ったのだけど……。
そして五階にたどり着いた。そこはまるで高貴な人と謁見するような広い場所だった。
中央には簾が上から下ろされたあやしい空間がある。
「なにか、皇帝との謁見の場所みたい」
「いや……そのものだ」
その皇帝陛下が言うのだから間違いはないのだろう。ということは、その皇帝に近しい者ということになる。
これは厄介な匂いがプンプンするよ。
「白。三ヶ月分の前借りじゃ、割に合わないよ」
「ははははは。人の怨念というものは厄介だな」
笑って誤魔化さないで欲しい。私は初めからやる気なんてなかったのに!
そして赤子のような猫の鳴き声がうるさいぐらいに響いてくる。それも複数いるかのように、全方向から聞こえてくるのだ。
中央にある簾がくるくると上に上がっていき、そこにいるものの姿があらわになった。
そしてピタリと止む猫の声。
ああ、これは普通の呪詛じゃない。
中央の玉座には美しい汉服を身に着けた女性がいた。ただ、その頭部は黒い猫だ。
猫鬼は蠱毒の一種だ。
作り方は様々だが、女性の身体を用いての外法などありえない。
これは、相当根深いものかもしれない。
『ミャウミャウ。ミャァァァァァン!』
猫だから、何を言っているのかサッパリわからないけどね。




