第12話 女禍伏犠のようだと
「やっぱり、結界が強すぎて外に出るのはムリだね」
これが私が出した結論だ。
「因みに私と白は、一日では解決できないと思って食料持参なんだけど、紛れ込んだお二人はどうなのかなぁ」
私は困惑気味の表情を浮かべている王離を挟みながら尋ねる。
「はっきり言って足手まといなんだよね。妖魔相手に戦えないお荷物を連れて命の保証なんて私はしないよ」
そして、はっきりと足手まといだと言う。相手が偉そうな武官のおっさんだろうが、ムシ好きの皇帝だろうが関係ない。そっちが勝手に入り込んできたのだ。
屋敷の一階はムシを排除したけど、やはり妖魔はいなかった。ならば、別の階層にいるのだろう。
「ここって何階まであると思っている? 二階じゃないよ五階もあるんだよ?」
外見は二階建ての建物であっても、中の空間が歪んでいて既に五階まである。妖魔の力が強ければ、更に階層が増えるかもしれない。
「私の出せる案は二つ。ここに結界を張ってあげるから、何日かかるかわからないけど、ここで待つこと」
仕方がないから食料は分けてあげよう。私は別に食事を取らなくても生きていける。仙人になるには、それも必要なことだから。
でも、やる気がすごくそがれる。食べなくてもいいのだけど、食べた方がやる気がでる。
「もう一つは?」
「命の保証はしないけど、妖刀を貸してあげるからムシ共を始末しろ」
妖刀は力が弱い道士が妖魔を倒すために作られた武器だ。
仙嚢の中に環首刀と槍が入っている。
一般的に使われていて数が多い武器だ。ということは、量産品の安物ということだね。
「刀で虫を始末とは非効率すぎないか?」
「は? 偉そうにゴテゴテした物を腰に下げていて、ムシも殺せないの?」
王離の腰には、鞘に派手な装飾された剣がぶら下がっている。私にはわからないけど、良い武器なのだろう。
「いや、我は非効率だと」
「はぁ、じゃここにいるってことでいいよね」
「王離。私は黎明と共に行動する」
「はっ! この王離、羽虫でもなんでも殺して見せましょう」
琅宋の一声で、行動は決まったらしい。だけど私としては、ここにいて欲しかった。
ということで、王離に槍を、琅宋に環首刀を渡した。
そして今は二階を捜索している。
「なんだ! このデカいムカデは!」
「クモの大きさじゃないだろう!」
「どこの森のヘビだ!」
「蜂の針が短剣並じゃないか!」
文句を言いながらムシ共を倒していく王離。たかがムシだと侮っていた報いだ。
そして私は、王離が倒しもらしたムシに札を投げつけて燃やしていく。
そして二階のムシ共は一階のムシ共より巨大化していた。
私でも発狂級の大きさだった。
「ここに住んでいた武官は、先代を守ったという功績で将軍の地位を得た者で、いたって真面目な武官だったのだ」
そして私の隣ではこのような状況でも動じない琅宋。まぁ、そうでなければ、皇帝などやっていけないのだろう。
「私はまだ、ここに来た理由を聞いていないけど?」
「……言い訳をさせて欲しいと」
「言い訳?」
「二十年前のことだ」
……私は二十年も生きていないけど?
私が理解不能な表情を浮かべていると、肩に乗った白猫が、ため息を吐きながら補足してくれた。
「はぁ、黎明のトラウマ事件のことだろう」
「ひっ!」
箱詰めの毛虫!
私はザッと琅宋から距離を取る。
「あの幼虫が蝶になると、たまに左右で違う羽を持つ蝶が生まれることがあるんだ」
「左右で違う?」
蝶の羽は左右対称だから、それはおかしなものだね。
「雌の羽と雄の羽を持つ蝶が生まれることがあるんだ。女禍伏犠のようだと思ってな、それを見せたかったのだが、どれがそうなるかわからなかったから、たくさん集めて渡そうと思った……のだけど」
……言いたいことはわかった。珍しい蝶が生まれることがあるから、それを私に見せたかっただけだと。
それならその蝶だけを見せて欲しかった。
しかしそれを世界を創った女禍と伏犠に例えるとは、面白い考えを持っているものだね。
確かに、二柱を一柱と言わんばかりに共に描かれることが多い。
しかし、あの気持ち悪い毛虫が、そんな変わった蝶になるとは思えないのだけど?
「理由はわかったよ。取り敢えずここから、出ることを考えることだね」
「ぐふっ。これはトラウマにもなります」
「王離が限界のようだから、代わることにするよ」
今まで妖魔と戦ったことがない王離にしては、よくやったほうだろう。
「ムシどもー! 滅殺してやるぅぅぅぅ!」
私は札をとってムシどもに向けて火を放ったのだった。
遅くなりまして申し訳ありません。
連載をしすぎて、首がまわってません。
次回も書き上がり次第です。




