第11話 暴君紫焔帝
私は他人の屋敷の玄関でうなだれる。これどうするの?
「はぁ。妖魔を倒さないと、ここから出られないのだけど?」
「むっ!」
「だから、何故に入ってきてしまったのかなぁ。おっさん。護衛だよね? 妖魔相手に戦えるわけ?」
「むむっ!」
たぶん王離は少しだけなら素質がある。私の貼った札を剥がしたのだ。しかし修行すればの話だけど。
今すぐにどうこうなる話ではない。
「えっと、何故に王離を盾にしているのかな?」
私は項垂れながら、厳ついおっさんの周りをぐるぐる回っている。もちろんムシ入りの箱を渡されないためにだ。
「そもそも、皇帝である琅宋がウロウロしているのが悪い。そのムシ入りの箱はしまって、厳重にしまって。私は仙桃を渡したはず、これで手を打てと」
「黎明。ムシにやられて支離滅裂になってきているぞ。おい、人の子。芙蓉に会ったときになにか言われたんじゃないのか?」
ムシで頭がいっぱいになってしまっている私の代わりに白が確認してくれた。
そう私は、芙蓉様によろしくと言っておいて欲しいと言った。
言ったんだよ!
「仙桃を食べるか食べないかを問われた」
「その意味がわかって、食べなかったのだろう。だったら、人の道理の中で生きろ。黎明に関わろうとするな」
「だが、それは……」
琅宋は言葉を詰まらせる。
はぁ、その間に私はここから脱出させる方法でも考えるか。
いや、そもそも空間が歪んでいるんだよね。だからここは玄関に見えて出入り口ではない。
私は事前に繋がる道を作って、あとは道をこっちに繋げればいいようにしていたのだ。
やはり外部からの干渉がないと難しいね。
「白描様。質問をさせてもらってもよろしいでしょうか」
「なんだ? 王離とやら」
「人が仙桃を食したら問題があるのでしょうか?」
「別に何も起こらない。仙桃によって一時的に仙力が上がるが、それも一時的だ」
「だったら、何が問題なのでしょうか」
そう仙桃はただの美味しい桃だ。多少の力の底上げになるけど、なにも問題はない。
「だが、そいつは紫焔帝の血筋だろう? 何も起こらないかもしれないが、紫焔帝の二の舞いになるかもしれない。ただそれだけだ」
「暴君紫焔帝」
厳ついおっさんは、恐る恐る己の主を見る。
もしかして知らなかったのかなぁ。
母はその昔存在した王の末裔になる。ということは、妹の芙蓉様もそうなるので、必然的にその血は琅宋にも受け継がれている。
そして私にもだ。
この金色の目が証拠だね。
「黎明がこの年で、ほとんどの仙術を極めているのも、紫焔帝の血だからこそなせることだ。しかし、今のように暴走しかかることもある。それが行き過ぎたのが紫焔帝の末路だな」
紫焔帝は、はじめから暴君と呼ばれていたわけではなかった。だが、とあるときを境に、国を崩壊させるようにあちらこちらで、戦をしかけることが多くなった。
きっかけは、とある仙人からもらったという仙桃だった。……諸説あるが。
仙桃を口にした紫焔帝は身に余るほどの力を手にして、国を大きくしていった。しかし力を得れば、さらなる力を欲するようになった紫焔帝は、戦いを繰り返し、終いには仙界へ進軍したという。
だが、紫焔帝は天の怒りを受け地に落とされ、人とは言えぬ醜い化け物の姿になったという。
そして醜い化け物の姿になった紫焔帝は人々を襲うようになり、退魔師に討伐されることとなった。
これが歴史に残る紫焔帝の話だ。
この話は昔、母から聞かされた。あまりにも仙桃を食べ過ぎる私への戒めとしてだ。
しかし私の感想は『仙桃が美味しい』だった。
仙桃の持つ効力は一時的な仙力の上昇だ。
だから、紫焔帝が元々仙才を持っていれば、仙桃はきっかけになったのかもしれない。
その後の話は、何か違う要素が混じっているように私は思った。例えば、上薬を久服すると仙術を使うことができる。
最後の醜い化け物になったというのは、妖魔の話にすり替わったような疑問を覚えた。
だから、私は紫焔帝の話は信じてはいない。
では何故、琅宋に仙桃を渡したのかといえば……
「しかし紫焔帝の血筋の奴らは早世する。前の皇帝も早かったな。それを受け入れたのであれば、ここになど居らずにお主の成すべきことを成せばいい」
そうなんだよね。紫焔帝の金の目を持つ者は若くして死ぬ。だから母は仙桃を求めて天仙になった。おかげで妹の芙蓉様は今もご健在だ。
紫焔帝が仙界に進軍したっていうのは本当かわからないけど、家族を救いたいために仙桃を求めたんじゃないのかなぁ。
私はそう思っている。




