ダットサン510
サニーとも呼ばれたダットサン510の運転席にどっかりと座ったミツオはいつもの台詞をつぶやいた。
「道案内よろしく」
極度の方向音痴を自覚しているミツオはエリーにナビを委ねる。
「直進です」」
そんな時、エリーはいつもうれしそうに進行方向を指さす。
地上の道路はかつて使われていた程度で整備はままなっていない。なんといっても、ほかの車は空を飛んでいるのだ、当然と言えば当然だ。エリーのナビは、3Dレベルでの障害物もデータとして網羅している。正確に香川邸へとしずしずと進む。
「このあたりです」
地図上では、到着したはずなのだが、背の高い塀に阻まれて建物は見えない。
「こんな時は空を走る足がいいな」
ミツオはハンドルに身をあずけながらつぶやく。
「この塀には対空レーザーがぐるりと照射されています。おそらく、敷地上空に侵入した時点で、なにがしらのダメージをおいますね」
「香川さんはずいぶんと物騒なお金持ちなのだね」
ミツオはダットサンからおりて、呼び鈴のボタンを押そうと門扉に近づく。
物陰から男が二人、ミツオを遮るように立ちはだかった。
「何かご用ですか?」
黒いスーツをまとう男の一人が声を発した。ミツオを軽く上回る上背の持ち主、手足は長く、武術をたしなむ気配をミツオは感じた。
「香川さんにちょっとした用事があります」
「どんな?」
もう一人の男がずいとミツオに一歩足を出しながら口を開く。そろいの黒いスーツ、背は低いが首が太く、猪首の持ち主。耳はつぶれて柔術系の格闘技をやりこんでいるように見える。
「あなた達は、香川さんの関係者?」
ミツオは男達にはかまわず、ドアベルを押そうと一歩進んだ。