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依頼人はお金持ちに違いない!
エリーがうれしそうに分厚い封筒をミツオに手渡す。
「これは?」
「香川さんが置いて行かれました。前金だそうです」
ずしりと重い封筒の感触にミツオの表情はにんまりとした笑みに変わる。
「依頼内容を覚えていないのが難点だな」
ミツオはコーヒーを飲み干すと、なんとか自分を奮い立たせて上着を羽織る。
「おでかけですね」
「昨日の今日だが、香川さんにもう一度、話を聞きに行くしかないな。一緒に行くか?」
「はい」
エリーがいそいそとミツオに続く。空を進む車両しかなくなった今でもミツオは4つのタイヤですすむ車を愛している。かつてあった日本という国の車だった。維持するのもやっとだが、優秀なメカニックがミツオの知り合いにいるのが幸いしている。
探偵事務所は、繁華街の外れ、薄汚れた雑居ビルのなかにある。家賃は驚くほど安いはずだなのだが、滞納気味なのは不景気にせいなのだと
とミツオは自身に言い聞かせている
酸をまとう雨が細く降り、太陽はほぼ雲から顔を出さない。屋根の無い空き地に頭から突っ込んだ愛車がたたずんでいる。