目が覚めて、昨夜の記憶は無い
次の日の朝、ミツオは見慣れたソファーの上で目覚めた。二日酔いで非常に不快な気分のまま上半身を起こすのがやっとだった。
「おはようございます」
ミツオは気分の悪さを取り繕う素振りを見せながら声のする方に顔をを向ける。
相棒の「エリー」がコーヒーをネルドリップで入れてくれている。室内にかぐわしい香りが広がる。
ロングヘヤーでコケティッシュな雰囲気をまとうエリーは、ミツオにとって特殊な相棒といえる。エリーはメタリックブルーに輝く体を持つ女性型アンドロイドなのだ。
「昨夜のことはまったく覚えが無い」
ミツオはコーヒーを飲みながらつぶやく
「ミツオさんがお戻りになられたのは朝方でしたよ」
ミツオは驚いて声のオクターブが一音上がった。いつもは自分の部屋に帰るはずなのだ。
「エリーここにいたの?」
「はい。先生のお帰りを待っていました。明け方、背のひょろりと高い香川と名乗る男性におんぶされてここに帰ってきましたよ」
「ここ5階でエレベーターないんだけど……なんて力持ちなんだ」
ミツオは絶句した。
「名刺を置いていかれました。依頼の件おねがいしますとのことでしたよ」
エリーがテーブルに受け取った名刺を置いた。
「依頼を受けた覚えがまったくない」
ミツオは折れ曲がったタバコに火を付けて指先に挟んだ名刺を眺めた。
「香川 たま」
そう書かれていた。