酔いに任せて話を聞いてみる(依頼人 その2)
香川と名乗る男の悩みは切実なものだった。
「好きという感情に支配されたのは初めてのことだったのです。でも相手は……」
「相手は誰ですか?」
香川はグラスに残る液体を一気に流し込み、声を絞り出すように叫んだ。
「猫なんです」
「あのニャーと鳴く猫ですか」
ミツオはそんなはずは無いと自分の耳を疑りながら聞き返す。
しかし、香川はこくりと頷いた。
「三毛猫のミツハさんです」
そう言うと香川が手をそっと開いた。ホログラムの立体映像が浮かび上がる。三毛猫がベランダからこちらを見ている動画だった。
「かわいい三毛猫ですね」
「いやらしい目でミツハさんを見ないでください」
香川は憤然と椅子から立ち上がり、声を荒らげる。
「いや、そういうことでは無くて、あいらしいですねという意味です」
「ならいいのです。取り乱してすみません」
香川が手を閉じると、動画も消えた。
「悩みというのは、まさか、猫が好きすぎて困るというものですか」
ミツオはどうしたものかなと思いながら人造酒をあおった。
「はいそうです。結婚したいと思っています」
香川も負けじとグラスを空けた。
「まあ、今夜は飲みましょう」