第6部:想いを力に、光差す未来へ
第22章:最後の希望、貢献の光
「ククク…ようやく、目覚めの時が来たか…」
目の前に降臨した、災厄の王。その圧倒的な存在感と、周囲に撒き散らされる絶望的なまでの闇のオーラに、生き残った騎士たちは完全に戦意を喪失し、立ち尽くすことしかできなかった。彼らの貢献度(士気)は軒並みマイナスを示し、恐怖に震えている。
「光だと? フン、くだらぬ」
災厄の王は、俺たちが持つ光の剣や、聖騎士たちの放つ微弱な聖なる光を鼻で笑った。「貴様らのような矮小な存在が、この我に逆らおうというのか? 身の程を知れ」
王は軽く片手を振るった。ただそれだけで、凄まじい闇の衝撃波が発生し、俺たちの前方にいた騎士数名が、防御する間もなく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて動かなくなった!
「ぐあああっ!」
「なっ…!?」
あまりにも一方的な、規格外の力。これが、古代に封印されたという災厄の王の力なのか…!?
「レオン!」
イザベラが俺のそばに駆け寄り、杖を構える。彼女の貢献度【+100】。その輝きだけが、この絶望的な状況下でも揺らいでいない。
「大丈夫か、イザベラ!?」
「ええ…! ですが、相手は想像を絶する強さです…! 私の魔法も、おそらくは…」
俺も光の剣を構え直し、災厄の王と対峙する。剣は依然として光を放っているが、先ほど仮面の男と戦った時ほどの輝きはない。まるで、相手の強大すぎる闇の力の前に、気圧されているかのようだ。
【貢献度可視化】スキルで災厄の王を見てみるが、表示されるのは【???】という測定不能な表示のみ。貢献度という概念すら通用しない、次元の違う存在なのだと思い知らされる。
「ほう…その剣は、少々目障りだな」
災厄の王が、俺が持つ光の剣に気づき、興味深そうに目を細めた。「かつて我を封印した忌々しい光の力か。だが、今の貴様では、その真価を引き出すこともできまい」
王は、再び手を振るった。今度は、俺目掛けて、凝縮された闇の槍が放たれた!
「危ない!」
イザベラが咄嗟に光の防御魔法を展開するが、闇の槍はそれを容易く貫通し、俺の肩を掠めた!
「ぐっ…!」
激痛が走る。闇の力が傷口から侵食してくるような、嫌な感覚だ。
「レオン!」
イザベラが治癒魔法をかけようとするが、闇の力は聖なる力を拒絶し、傷はすぐには塞がらない。
「ククク…どうした? もう終わりか?」
災厄の王は、楽しむかのように俺たちを見下ろしている。「せっかく目覚めたのだ。もう少し、遊んでやろう。貴様らの絶望する顔を、じっくりと眺めてから、この世界を闇に染め上げてくれるわ」
王は、その場から一歩も動かず、ただ指先から次々と闇の弾丸を放ち始めた。それは、まるで雨のように降り注ぎ、騎士たちを、聖騎士たちを、そして遺跡そのものを破壊していく。
「防げ! 防ぎきれ!」
「聖なる盾を!」
仲間たちは必死に応戦するが、多勢に無勢。いや、相手はたった一人なのに、その力は軍隊にも匹敵する。次々と仲間たちが倒れていき、遺跡は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していく。
俺は、傷ついた肩を押さえながら、歯噛みすることしかできなかった。光の剣を握る手に力が入らない。絶望的な戦力差。どうすれば、この状況を覆せる?
(そうだ…スキルだ! 【貢献度可視化】…この力は、ただ敵意を見るだけじゃない。想いを、意志を、可視化する力だ! 災厄の王には通用しなくても、他のものには…!)
俺は、必死に頭を回転させた。光の剣に宿る想いは? この遺跡に込められた祈りは? そして、今ここで絶望している仲間たちの心の奥底にある、微かな希望の光は?
俺は、スキルを、遺跡全体、光の剣、そして生き残った仲間たちに向けて、全力で発動させた!
すると、見えた! 遺跡の壁や床から、古代の人々の「災厄を封じたい」という強い祈り【+??】が、青白い光の粒子となって立ち上るのが。光の剣から、歴代の王や勇者たちの「国を守りたい」という揺るぎない意志【+??】が、金色のオーラとなって溢れ出すのが。そして、今まさに絶望に打ちひしがれながらも、心の奥底で「生きたい」「守りたい」と願う仲間たちの、か細いが確かに存在する貢献度【+10】、【+20】、【+30】…! それらが、小さな光の点となって、彼らの胸で明滅しているのが!
(想いは…祈りは…力になる! ならば、それを束ねれば…! このスキルで、俺がその想いを集めるんだ!)
「イザベラ、大司教、皆さん!」
俺は、残った仲間たちに向かって叫んだ。「まだ希望はある! 諦めるな! この遺跡には、そしてこの剣には、古代の人々の想いが宿っている! 俺たちの想いを、祈りを、力に変えるんだ! スキルで、俺がその想いを光の剣に集める! だから、心を強く持ってくれ!」
俺の言葉に、皆が一瞬、戸惑いの表情を見せた。だが、イザベラが力強く頷き、「レオンを信じます!」と言った。その声に、絶望しかけていた仲間たちの瞳に、再び微かな光が灯った。
「王子殿下の言う通りだ! 我々の祈りを力に!」
「光の神よ、我らに力を!」
大司教と聖騎士たちが、再び詠唱を開始した。それは、聖なる力を増幅させ、光の剣へと注ぎ込むための祈りの詠唱だった。生き残った騎士たちも、剣や盾を構え、それぞれの想いを込めて祈りを捧げる。彼らの貢献度が、再びプラスへと転じ、その数値が上昇していく! 【+40】、【+50】、【+60】…!
イザベラも、俺の手を握りしめ、その瞳に強い意志を込めて、俺を見つめる。彼女の【+100】の想いが、温かい奔流となって俺の中に流れ込んでくる。それは、国への貢献とか、そういう次元ではない。ただ、俺を信じ、俺と共に未来を生きたいという、純粋な愛の力だ。
そして俺は、光の剣を再び天に掲げた。スキルを全開にし、仲間たちの祈り、遺跡に宿る古代の想い、そしてイザベラからの愛…その全てを受け止め、光の剣へと注ぎ込む! スキルを通して見える無数のプラスの貢献度の光が、一本の巨大な光の奔流となって剣に流れ込んでいく!
第23章:想いを束ねて、究極の一撃
「面白い…」
災厄の王が、初めて興味深そうな表情を見せた。「矮小な者どもが、束になって祈りだと? 無駄な足掻きを。よかろう、その儚い希望ごと、まとめて消し去ってくれるわ!」
王は、これまで以上の巨大な闇のエネルギーをその両手に集束させ始めた。遺跡全体が震え、空間が悲鳴を上げる。世界そのものを破壊しかねないほどの、絶望的な力が、今、解き放たれようとしていた。
対する俺たちの手の中には、仲間たちの想いを束ねた、一本の光の剣。剣は、もはや俺の手には収まりきらないほどの、巨大な光の柱へと変貌していた。それは、太陽にも匹敵するほどの、温かく、そして力強い輝きを放っている。闇を打ち払う、希望そのものの光だ。
「滅びよ、矮小なる者ども!」
災厄の王が、その両手に集束させた巨大な闇のエネルギーを、俺たち目掛けて放った! 全てを飲み込み、無に帰すかのような、純粋な破壊の奔流。
「行けえええええっ!!! みんなの想いよ、光となれ!」
俺は、仲間たちの想いを乗せた光の柱を、迫り来る闇の破壊奔流に向かって解き放った!
光と闇、二つの絶対的な力が、遺跡の中央で激突する!
凄まじい衝撃波が巻き起こり、空間そのものが歪む。光と闇が互いを打ち消し合おうと、激しくせめぎ合う。
最初は、闇の力が勝っていた。光は闇に飲み込まれかけ、俺たちの希望も潰えそうになる。
「くっ…! まだ、足りないのか…!」
俺が歯を食いしばった、その時。
「まだです、レオン!」
イザベラの声が響いた。彼女は、俺の後ろで、最後の魔力を振り絞り、光の剣に向けて増幅の魔法を放っていた!
「私たちの想いは、こんなものではないはずです! あなたを信じる私の想いも、もっと!」
彼女の言葉に、俺はハッとした。そうだ、想いは力になる。ならば、もっと強く、もっと純粋に願うんだ!
(守りたい! この世界を、未来を、そして…愛するイザベラを! みんなの貢献を、無駄にはしない!)
俺の心の叫びに呼応するかのように、光の剣の輝きが、さらに一段と増した! 白く眩い光は、闇の奔流を押し返し、逆に飲み込み始める!
「な、馬鹿な!? 我が闇が…押し返されているだと!? 人間の想いごときに、この我がぁぁぁっ!?」
災厄の王が、初めて驚愕と焦りの声を上げた。
光は、闇を浄化しながら進み、ついに災厄の王本体へと到達した!
「ぐおおおおおおっ!?」
聖なる光に焼かれ、災厄の王の漆黒の鎧が砕け散り、その巨体が苦悶にのたうつ。
「おのれ…おのれ、矮小なる者どもがぁぁぁっ! 我は滅びぬ…いつか必ず、再び…!」
断末魔の叫びと共に、災厄の王の体は光の中に掻き消え、後に残ったのは、急速に霧散していく闇のエネルギーだけだった。
光が収まった後、そこには静寂が戻っていた。
崩壊しかけた遺跡。傷つき倒れた仲間たち。そして、光の剣を杖代わりに、かろうじて膝をついて立っている俺と、その傍らに寄り添うイザベラ。
「…終わった、のか…?」
誰かが、か細い声で呟いた。
蝕は完全に終わり、天井の崩れた隙間からは、穏やかな太陽の光が差し込んできていた。闇は祓われ、世界は救われたのだ。
「やった…やったんだ、俺たち…!」
安堵と疲労から、俺はその場に崩れ落ちそうになった。だが、イザベラがしっかりと俺の体を支えてくれた。
「ええ…やりましたね、レオン…! あなたの力が、皆の想いが、奇跡を起こしたのです!」
彼女の瞳には、涙が光っていた。それは、喜びと安堵の涙だ。
俺たちは、互いに見つめ合い、そしてどちらからともなく、強く抱きしめ合った。言葉はいらない。ただ、互いの温もりと、共に戦い抜いたという確かな絆を感じ合っていた。
生き残った騎士たちや聖騎士たちも、互いに肩を抱き合い、勝利の喜びを分かち合っていた。多くの犠牲が出た。だが、その犠牲の上に、俺たちは未来への希望を掴み取ったのだ。
光の剣は、その役目を終えたのか、輝きを失い、元の古びた剣の姿に戻っていた。だが、その剣身には、仲間たちの想いが刻まれたかのように、温かい感触が残っていた。
俺は、イザベラに支えられながら立ち上がった。
「帰ろう、イザベラ。俺たちの国へ。そして…あの約束の、続きをしよう」
「はい、レオン」
彼女は、涙を浮かべながらも、最高の笑顔で頷いた。
崩壊した遺跡の中から、俺たちは地上へと向かう。降り注ぐ太陽の光が、俺たちの新たな未来を祝福しているかのようだった。
光と闇の決戦は終わった。凡庸だった王子は、仲間と愛する人の想いを力に変え、世界を救った。だが、本当の意味での「貢献度革命」…この国をより良くしていくための物語は、まだ始まったばかりなのだ。
第24章:英雄の凱旋と新たなる誓い
災厄の王が打ち滅ぼされ、アルベルト叔父と『夜なる結社』が壊滅したという報せは、瞬く間に王都、そして王国全土へと広まった。蝕が明け、穏やかな太陽の光が戻ってきたことも相まって、人々は歓喜に沸き、不安と恐怖に満ちていた街には、再び活気が戻り始めた。
俺たちが、生き残った騎士たちと共に古代遺跡から地上へと帰還した時、そこには国王陛下をはじめ、ヴァイスハルト宰相(奇跡的に意識を取り戻し、まだ衰弱してはいるものの、車椅子で出迎えてくれた)、そして無数の民衆が集まっていた。
「レオン王子! イザベラ様!」
「英雄だ!」
「国を、世界を救ってくださり、ありがとうございます!」
万雷の拍手と、割れんばかりの歓声。民衆は、俺たちの名を呼び、涙ながらに感謝の言葉を口にする。彼らの俺たちへの貢献度(信頼と感謝)は、ほぼ全員が【+90】以上という、信じられないほどの高い数値を示していた。この国が、今、一つになっていることを実感する。
俺は、民衆の声援に応えながら、国王陛下と宰相閣下の元へと進み出た。
「陛下、宰相閣下、ただいま戻りました」
「おお、レオン、イザベラ! 無事であったか! 本当によくやってくれた!」
陛下は、感極まった様子で俺とイザベラの手を取り、その労をねぎらってくれた。
「お前たちこそ、この国の真の宝だ。誇りに思うぞ」
宰相閣下も、弱々しいながらも確かな声で言った。「…レオン王子、イザベラ…よくぞ…。娘を…国を…ありがとう…。君になら、安心して任せられる…」彼の貢献度も【+90】まで上昇している。娘の婚約者として、そして次代の王として、俺を完全に認めてくれたのだろう。
多くの犠牲を払いながらも、王国最大の危機を乗り越えた。その事実は、俺たちの胸に大きな達成感と、そして未来への確かな希望をもたらした。
その後、数ヶ月にわたり、王国は復興と再生に向けて力強く歩み始めた。犠牲になった騎士たちの追悼式典が厳かに行われ、同時に、国を救った英雄として、俺とイザベラ、そして戦いに参加した者たちを称える祝賀行事が各地で開かれた。
第25章:貢献度革命の真価
祝賀ムードが一段落すると、俺たちはすぐに王国の立て直しに着手した。今回の戦いで浮き彫りになった、様々な課題に取り組む必要があったからだ。
俺は、王太子として正式に国政の中心に立ち、イザベラはその傍らで王太子妃として、そして最高のブレーンとして俺を支えた。回復した宰相閣下や、信頼できるようになった貴族、役人たちの協力も得ながら、俺たちは「貢献度革命」と呼ぶべき改革を推し進めていった。
それは、単に【貢献度可視化】スキルで人を評価するということではない。スキルはあくまで補助的なツールとして活用し、家柄や身分にとらわれず、能力と意欲のある者が正当に評価され、国政に参加できる仕組みを作ること。そして、国民一人ひとりが、自分の得意な分野で国に「貢献」し、その貢献が正当に報われることで、幸福を実感できる社会を目指すこと。それが、俺たちの目指す「革命」だった。
具体的には、能力主義に基づく官僚登用制度の確立、税制の見直しによる富の再分配、教育機会の均等化、新技術(前世の知識を応用したもの)導入による産業振興、効率的な行政サービスの提供などを、次々と実行に移していった。
もちろん、改革には抵抗も伴った。旧来の特権にしがみつく貴族(貢献度が低い者たち)からの反発や、新しい仕組みへの戸惑いもあった。そのたびに、俺はスキルで人々の反応を探りつつ、イザベラと共に粘り強く対話を重ね、時には断固たる姿勢で、時には柔軟な妥協案を示しながら、改革を進めていった。数値だけでは見えない人々の感情や立場を理解し、寄り添うことの重要性を、俺は学んでいた。
フィデリアとの関係も、新たな段階に入った。災厄の王という共通の(潜在的な)脅威を経験したことで、両国間には相互理解と協力の機運が生まれた。穏健派が主導する新政府との間で、対等な立場での友好条約が結ばれ、経済・文化交流も活発になった。
第26章:(エピローグ)光差す未来へ
王国が安定を取り戻し、新たな時代へと歩み始めた頃、俺はついに、あの約束を果たすことにした。
思い出のバルコニーで、俺はイザベラの前に跪き、アメジストの指輪を差し出した。
「イザベラ・フォン・ヴァイスハルト。改めて、俺と結婚してください。俺の、生涯のパートナーになってほしい」
「はい…! はい、レオン…! 喜んで…!」
涙ながらに頷く彼女の指に指輪をはめ、俺たちは固く抱きしめ合い、愛を誓う口づけを交わした。
数ヶ月後、俺たちの結婚式が盛大に執り行われ、王国中が祝福に包まれた。
凡庸だった王子は、異世界で得たスキルと、かけがえのないパートナー、そして多くの仲間たちの「貢献」によって、国を救い、自らも成長を遂げた。
今、俺の隣には、王太子妃となったイザベラがいる。彼女の貢献度は、もちろん【+100】。だが、その数値以上に、彼女の存在そのものが、俺にとっての光となっている。
俺の【貢献度可視化】スキルは、今も俺の世界を映し出している。だが、それはもはや、人を測るためのものではない。人々を理解し、その想いを繋ぎ、共に未来を創っていくための、希望のツールなのだ。
「レオン、次の仕事に取り掛かりましょうか」
「ああ、そうだな。皆が幸せに貢献できる国を目指して」
俺たちは手を取り合い、光差す未来へと、確かな一歩を踏み出した。
凡庸王子の「貢献度」革命は、まだ始まったばかりだ。
おわり