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第4部:王都の凱旋、新たなる火種

第14章:闇の胎動と最後の警告


グラント領での死闘を経て、俺とイザベラの絆は恋人としてのそれへと深まった。互いの想いを確かめ合い、バルコニーで交わした口づけは、これまでの苦難を乗り越えてきた俺たちにとって、かけがえのない宝物となった。しかし、そんな個人的な幸福に浸っている暇はなかった。王国には依然として『夜なる結社』という巨大な闇の脅威が残り、いつ彼らが次なる行動を起こすか、予断を許さない状況だったからだ。


王宮は、俺とイザベラの報告を受け、すぐさま対策に乗り出した。聖教会との連携を強化し、闇の魔術や『夜なる結社』に関する情報収集と分析を急いだ。王都及び主要拠点の警備体制は最大限に強化され、騎士団は臨戦態勢を維持した。宰相閣下も病床から指示を出し、国政の混乱を最小限に抑えようと尽力してくれた(貢献度+85)。王国全体が、見えざる敵への警戒感を強めていた。


そんな中、俺は【貢献度可視化】スキルを使い、王宮内や王都の人々の様子を注意深く観察し続けていた。グラント領での一件と、俺たちの帰還後の迅速な対応により、民衆の不安は一時的に和らぎ、王家への信頼(貢献度)は回復傾向にあった。しかし、水面下では、アルベルト派の残党と思われる者たちが、依然として不穏な動きを見せていた。彼らの貢献度は低いまま(-30~-50程度)で、時折、怪しい会合を開いている様子などが、俺の協力者となった者たち(貢献度が高い役人や衛兵)からの報告で明らかになっていた。彼らは、来るべき時に備えて、何かを企んでいるに違いない。


そして、最も気がかりだったのは、逃亡したアルベルト叔父(貢献度-???)の動向と、『夜なる結社』の真の目的だった。フィデリア国内の協力者(シルバーロック商会ルート)からの情報も途絶えがちになり、彼らが何を企んでいるのか、具体的なことは掴めずにいた。ただ、不気味な静けさが、嵐の前の静けさのように感じられてならなかった。


そんなある夜、俺の私室に、極秘の連絡が入った。差出人は、フィデリアのエリアス書記官(先の交渉で俺たちに協力してくれた、貢献度+40の人物)からだった。彼は危険を冒して、俺たちに最後の警告を送ってきてくれたのだ。


『緊急事態。マルクス伯爵派残党とアルベルト公、そして『夜なる結社』が完全に手を組み、最終計画を実行に移そうとしている模様。結社の目的は、やはり古文書にある『災厄の王』の復活。その儀式は、間もなく訪れる『蝕の日』に、アルクス王国の王都地下にあるとされる古代遺跡で行われる可能性が極めて高い。アルベルト公は、復活の触媒、あるいは生贄として利用されるだけかもしれない。フィデリア国内の結社勢力も呼応し、混乱に乗じてアルクスへの軍事介入を画策している動きあり。どうか、ご警戒を。これが、私から送れる最後の情報となるでしょう。ご武運を祈ります』


「やはり…災厄の王の復活が目的だったのか…!」

俺は報告書を読み、息を呑んだ。そして、『蝕の日』が間近に迫っていることも、星々の動きを観測していた聖教会からの報告で既に知らされていた。残された時間は、本当に少ない。


「レオン、すぐに陛下と宰相閣下、大司教に報告を!」

隣で報告書を読んでいたイザベラも、顔を青ざめさせて言った。「フィデリアの軍事介入の可能性も…内憂だけでなく、外患も同時に迫っている…!」


俺たちは直ちに、国王陛下、宰相閣下、そして聖教会の大司教を集め、緊急の対策会議を開いた。エリアスからの情報と、これまでの調査結果を総合し、敵の計画の全貌がようやく明らかになった。


『夜なる結社』は、アルベルト叔父の憎悪と権力欲を利用し、彼を傀儡としてアルクス国内に混乱を引き起こさせ、民衆の負の感情(絶望や恐怖)を高めてきた。そして、闇の力が最も強まる『蝕の日』に、王都地下の古代遺跡で災厄の王を復活させ、世界を闇に染め上げようとしている。さらに、フィデリアの好戦派(マルクス伯爵派残党)も、その混乱に乗じてアルクスを侵略し、支配下に置こうと企んでいる。まさに、内憂外患、絶体絶命の状況だった。


「…なんということだ。我々は、これほど恐ろしい陰謀の只中にいたとは…」

陛下は、震える声で言った。

「しかし、ここで怯むわけにはいかん! 王国の総力を挙げて、この二つの脅威に立ち向かうぞ!」


会議は、具体的な作戦計画の立案へと移った。

まず、フィデリアの軍事介入への備え。国境警備を最大限に強化し、同時にフィデリア国内の穏健派(エリアス書記官のルートを通じて)に働きかけ、好戦派の動きを牽制するよう依頼する。時間稼ぎにしかならないかもしれないが、やらないよりはマシだ。


そして、最大の脅威である『夜なる結社』と災厄の王復活の阻止。

古文書の解読により、古代遺跡への入り口は、王宮の地下深く…初代国王が建てた古い礼拝堂の地下祭壇の奥に存在することが判明した。敵は、蝕の日にそこから侵入し、儀式を行う可能性が高い。


「我々が遺跡に突入し、儀式を阻止するしかない」俺は決意を込めて言った。「主力部隊を編成し、蝕の日に突入する」

「危険すぎる! だが、それしか道はないか…」陛下は苦悩の表情を浮かべた。

「私も行きます」イザベラが、迷いなく言った。「私の光魔法と、レオンの持つ光の剣があれば、闇の魔術にも対抗できるはずです。そして、何より…あなたのそばで戦いたい」

彼女の瞳には、強い意志と、俺への深い愛情が宿っていた。貢献度は【+100】。もはや、この輝きが揺らぐことはない。

「イザベラ…ありがとう」俺は彼女の手を握った。


大司教も頷いた。「聖教会も、精鋭である『聖騎士団』を派遣し、全力で協力いたします。古代遺跡の構造や、闇の魔術への対抗策についても、我々の知識がお役に立つでしょう」


こうして、決戦の作戦が固まった。主力部隊は俺、イザベラ、大司教、聖騎士団、そして王宮騎士団の精鋭で構成し、蝕の日に古代遺跡へ突入。別動隊は国王陛下と宰相閣下の指揮の下、王宮と王都の守りを固め、アルベルト派残党やフィデリアの動きに備える。


残された時間は、あと僅か。

王国全体が、運命の日に向けて、最後の準備を進め始めた。俺とイザベラの心も、決戦への覚悟と、互いへの想いで満たされていた。光と闇の最終決戦が、すぐそこまで迫っていた。


第15章:蝕の日、最後の決戦へ


そして、運命の蝕の日が訪れた。

空は、まるで巨大な傷口から血が流れ出ているかのように、不気味な暗赤色に染まっていた。太陽は黒い影によってその姿を歪められ、昼間だというのに世界は薄暗い夕暮れのような光に包まれている。時折、空気を震わせるような不気味な地響きが起こり、人々の不安を掻き立てた。王都の街は静まり返り、家々の窓は固く閉ざされ、道行く人の姿もまばらだった。誰もが、これから起ころうとしている災厄の気配を感じ取り、息を殺して祈りを捧げていた。


王宮の地下深く。古代遺跡へと続く古い礼拝堂の地下祭壇の前に、俺たち主力部隊が集結していた。俺とイザベラを先頭に、屈強な王宮騎士団の精鋭たち、そして聖なる力に身を包んだ聖教会の聖騎士団。総勢およそ百名。皆、硬い表情ながらも、その瞳には揺るぎない決意の色が宿っていた。彼らの貢献度は、一様に高く、士気は最高潮に達している。


俺の腰には、決戦前夜から淡い光を放ち続ける「光の剣」。イザベラの手には、魔力を高める宝珠が埋め込まれた杖と、古文書から書き写した対闇魔術用の呪文が記された羊皮紙。大司教は、聖なるシンボルを胸に掲げ、祈りを捧げている。


「準備はいいか?」

俺が問いかけると、全員が力強く頷いた。


「開門!」

俺の号令と共に、祭壇の奥に隠されていた重々しい石の扉がゆっくりと開かれた。その先には、漆黒の闇が口を開けて待っている。ひんやりとした、カビ臭い空気が流れ出し、闇の奥からは、これまで感じたことのないほど濃密で邪悪な気配が漂ってきた。まるで、地獄への入り口のようだ。


「怯むな! 光は必ず闇を打ち破る! 皆の貢献が、この国を救う力となる!」

俺は、自分自身に、そして仲間たちに言い聞かせるように叫び、光の剣を抜き放った。剣は、闇を切り裂くかのように白銀の輝きを放ち、俺たちの進むべき道を照らし出す。


「行くぞ!」


俺たちは、固い決意を胸に、一人、また一人と、古代遺跡へと続く暗闇の中へと足を踏み入れた。ここから先は、未知の領域。どんな罠が、どんな敵が待ち受けているか分からない。だが、俺たちには守るべきものがある。そして、仲間がいる。愛する人がいる。最後の戦いが、今、始まる。


地下通路は、予想以上に複雑に入り組んでいた。壁には奇妙な模様が描かれ、時折、不気味な呻き声のようなものが聞こえてくる。空気は重く、邪悪な気配が常にまとわりついてくるようだ。


【貢献度可視化】スキルは、敵意の感知にはあまり役に立たなかったが、遺跡に残留する微弱な「善意の思念」(プラスの貢献度)を探ることで、正しい道を見つけ出すのに役立った。俺は先頭に立ち、仲間たちを導いていく。


途中、やはり闇の魔術による罠が仕掛けられていた。幻影を見せる霧、毒ガスが噴き出す床、突如として現れる落とし穴…。しかし、俺のスキルによる微弱な危険察知と、イザベラの光魔法による浄化・防御、そして聖騎士たちの加護によって、俺たちは大きな損害を受けることなく、罠を突破していった。


しばらく進むと、最初の広間に出た。そこで俺たちを待ち受けていたのは、夥しい数のアンデッド…骸骨の兵士や、腐敗したゾンビたちだった! 彼らは、虚ろな目で俺たちを睨みつけ、錆びついた武器を手に襲いかかってきた。


「聖騎士団、浄化の陣を! 騎士団は前衛を固めろ! アンデッドの動きを止め、確実に数を減らすぞ!」

大司教の指示が飛ぶ。聖騎士たちが円陣を組み、聖なる光でアンデッドの動きを封じ込める。その隙に、騎士たちが突撃し、アンデッドを次々と打ち砕いていく。


俺も光の剣を振るい、アンデッドを浄化していく。光の剣は、闇の存在に対して絶大な効果を発揮するようだ。しかし、敵の数は多く、倒しても倒しても、次々と闇の中から湧き出してくるかのようだ。


「キリがない…! このままでは消耗してしまう! 奴らの出現パターンは…?」

騎士団長が焦りの声を上げる。


「私が道を切り開きます! 敵の出現地点は、あの奥の闇の淀み!」

イザベラが前に進み出て、杖を構えた。「集え、聖なる光よ! 邪悪を貫け! 《ホーリー・ランス》!」

彼女の詠唱と共に、眩い光の槍が複数放たれ、アンデッドの出現源である闇の淀みを正確に撃ち抜いた! 闇が晴れ、アンデッドの出現が止まる。


「今のうちに先を急ぐぞ!」

俺たちは、イザベラが切り開いた道を進み、アンデッドの広間を突破した。


しかし、その先にも、次々と困難が待ち受けていた。闇の魔術によって生み出された巨大なゴーレム、精神を蝕む呪詛の言葉が響く回廊、そして、『夜なる結社』の下級魔術師たちが待ち構える小部屋…。俺たちは、互いに協力し、それぞれの能力を最大限に発揮しながら、一つ一つ障害を乗り越えていく。俺のスキルによる情報分析と指示、光の剣の力、イザベラの強力な光魔法、騎士たちの勇気、聖騎士たちの聖なる力、そして大司教の知恵。その全てが、この絶望的な迷宮を進むための鍵だった。


多くの犠牲を払いながらも(数名の騎士が命を落とし、負傷者も多数出た)、俺たちはついに、遺跡の最深部へと続く最後の扉の前にたどり着いた。扉の向こうからは、これまで以上に強大な闇の気と、不気味な詠唱の声が漏れ聞こえてくる。儀式は、まさにクライマックスを迎えようとしているのかもしれない。


「ここが、最後の戦いの場だ」

俺は、光の剣を握りしめ、残った仲間たちを見渡した。皆、疲労し、傷ついていたが、その瞳にはまだ闘志が宿っている。貢献度も、困難を乗り越えるたびに、むしろ高まっている者もいる。


「皆、覚悟はいいか?」

「「「応!!」」」

力強い返事が返ってきた。


俺はイザベラと視線を交わし、強く頷き合う。

そして、最後の扉を、力強く蹴り開けた。


その先に広がっていたのは、巨大なドーム状の地下神殿だった。中央には巨大な石造りの祭壇があり、その周囲をぐるりと囲むように、黒装束の『夜なる結社』の幹部らしき者たちが、禍々しい詠唱を続けていた。彼らの貢献度は軒並み【-80】以上と極めて高い。


祭壇の上には、まるで脈打つかのように、禍々しい紫黒の光を放つ巨大な水晶のような物体が浮かんでいた。蝕の光が天井の隙間から差し込み、水晶の輝きをさらに増幅させている。水晶の中には、おぼろげながら、巨大な人型の影のようなものが見える。あれが、災厄の王…!


そして、祭壇の前。水晶の真下に、一人の男が立っていた。黒いマントを羽織り、その顔は冷たい金属の仮面で覆われている。だが、その姿、放たれる圧倒的な闇のオーラ、そして俺に向けられる焼けつくような憎悪の視線…。間違いない。アルベルト叔父だ。彼の貢献度(敵意度)は、ついに【-100】を超え、【-???】という測定不能な領域に達していた。もはや、人の憎悪というレベルではない、何か別の存在に変貌している。


「来たか、レオン。そしてヴァイスハルトの小娘よ」

仮面の男が、まるで地獄の底から響くような、歪んだ声で言った。「ちょうど良い。貴様たちの絶望と魂を、我が王復活の最後の贄とくれてやろう!」

その言葉と共に、彼の体から凄まじい闇の気が放たれ、遺跡全体の空気が震えた。


「叔父上! 正気を取り戻してください! あなたは利用されているだけだ!」俺は叫んだ。

「黙れ、小僧!」仮面の男は、俺の言葉を嘲笑うかのように一蹴した。「利用だと? 違うな! 我は、この力を自ら望み、手に入れたのだ! 古き支配を打ち破り、真の世界を創造するために! 我こそが、新たなる時代の王となる!」

彼は両手を広げ、狂気に満ちた高笑いを響かせた。


もはや対話は不可能だ。残された道は、戦いのみ。

「問答無用! 儀式を阻止するぞ!」

俺は光の剣を強く握りしめ、最後の戦いの開始を告げる号令を発した。

「騎士団、突撃! 聖騎士は詠唱者を狙え! イザベラ、俺と共に叔父上を!」


「「「おおおおっ!!」」」

最後の力を振り絞り、騎士たちが、聖騎士たちが、そして俺とイザベラが、闇の中心へと突撃を開始した。光と闇の最終決戦の火蓋が、今、切って落とされた。


第16章:光と闇の激突、そして…


「愚かな…! 闇の深淵を知るがいい!」

俺たちの突撃に対し、祭壇の前に立つ仮面の男(アルベルト叔父)が嘲るように手をかざした。すると、遺跡の石畳から、まるで生きているかのように黒い影の手が無数に伸びてきて、突進する騎士たちの足首や鎧を掴み、その動きを阻害しようとする!


「なっ…!?」

「くそっ、離れろ!」

先頭を進んでいた騎士たちが、次々と影の手に捕らえられ、身動きが取れなくなる。


さらに、『夜なる結社』の詠唱者たちも、聖騎士たちの攻撃に応戦するように、一斉に闇の魔術を放ってきた。黒い炎の塊が飛び交い、呪詛の言葉が空間を歪ませ、地面からはアンデッド化したかつての戦士たちの骸が這い出してくる!


「怯むな! 聖なる光で闇を打ち払え!」

聖騎士のリーダーが檄を飛ばす。彼らは聖句を唱え、聖なる光の盾を展開して黒い炎を防ぎ、浄化の魔法でアンデッドを打ち払う。しかし、敵の数は多く、闇の魔術も強力だ。完全に抑えきれず、戦線は早くも混乱の様相を呈し始めていた。


「イザベラ、援護を!」

俺は叫びながら、光の剣を振るって影の手を切り裂き、アンデッドを浄化していく。光の剣は、闇の存在に対して絶大な効果を発揮するようで、剣が触れるだけで影やアンデッドは霧のように消滅した。まるで、俺自身の内に眠っていた闇を打ち払うかのように、剣を振るうたびに力が漲ってくる。


「はい! 《ライトニング・ジャベリン》!」

イザベラも即座に応じ、杖からいくつもの雷の槍を放つ。雷撃は正確に結社の詠唱者たちを捉え、彼らの詠唱を中断させ、あるいは動きを止める。彼女の的確な援護射撃がなければ、前線の騎士たちは持ちこたえられなかっただろう。彼女の貢献度は【+100】。その輝きは、この混沌とした戦場においても、俺にとって確かな道標となっていた。


俺は【貢献度可視化】スキルを使い、戦況全体を把握しようと努めた。敵の詠唱者たちの中で、特に貢献度(儀式への貢献度)が高い者…おそらくはリーダー格や重要な役割を担う者を見つけ出し、聖騎士たちに優先的に攻撃を集中させるよう指示を出す。同時に、味方の騎士たちの貢献度(士気や忠誠心)にも気を配り、負傷者が出れば後退を指示し、士気が下がりそうな部隊には自ら駆けつけて鼓舞した。


「諦めるな! 俺たちが未来への希望を繋ぐんだ!」


俺の声に、騎士たちは奮い立ち、再び勇気を取り戻して敵に立ち向かっていく。凡庸だったはずの俺が、こうして仲間たちを鼓舞し、戦いの中心に立っている。その事実が、俺自身にも信じられない思いだったが、今は感傷に浸っている場合ではない。


俺たちの奮闘により、戦況は一進一退となった。騎士たちは影の手やアンデッドを打ち払い、聖騎士たちは結社の詠唱者たちの魔術を封じ込める。少しずつだが、着実に祭壇へと近づいていた。


しかし、敵も黙ってはいない。仮面の男が、再び動いた。

「小癪な真似を…! ならば、さらなる絶望を見せてやろう!」

彼が両手を天に掲げると、祭壇の上の紫黒の水晶が禍々しい光を増し、遺跡全体が激しく揺れ始めた! そして、遺跡の壁や天井から、巨大な石像や瓦礫が俺たち目掛けて降り注いできたのだ!


「危ない!」

「散開しろ!」

突然の落石攻撃に、騎士団の陣形は乱れ、数名が瓦礫の下敷きになってしまう。


「くそっ、なんて奴だ…!」

俺は光の剣で飛来する瓦礫を斬り払うが、数が多すぎる。イザベラも防御障壁を展開するが、広範囲の攻撃を防ぎきることはできない。


このままでは、祭壇にたどり着く前に、俺たちは消耗しきってしまう。何か、状況を打開する手はないのか…?


その時、俺は気づいた。仮面の男が瓦礫を操る際、祭壇上の水晶から闇のエネルギーを引き出しているような素振りを見せたことに。そして、彼の貢献度【-???】が、攻撃の直後に僅かに揺らぎ、一瞬だけ測定可能な【-150】といった異常な数値を示したことに。


(まさか…あの闇の力、無尽蔵ではないのか? そして、あの水晶が力の源…? いや、水晶は災厄の王の封印であり触媒のはず…あの男自身が、力を使いすぎて消耗しているのか?)


だとしたら、狙うべきは一つだ。


「イザベラ! あの水晶を破壊すれば、儀式を止められるかもしれない! いや、それよりも、叔父上自身を叩く!」

俺は叫んだ。

「しかし、叔父上は強力な闇の力で守られています! 並大抵の攻撃では…!」

「光の剣なら、あるいは…! 俺が行く! 援護を頼む!」

「レオン!? 無茶です!」


俺はイザベラの制止を振り切り、一人、仮面の男に向かって駆け出した。瓦礫が降り注ぎ、影の手が伸びてくる。だが、俺は光の剣を振るい、それらをなぎ払いながら突き進む。


「行かせん! ここで死ね、レオン!」

仮面の男が、憎悪を滾らせ、俺の行く手を阻むように立ちはだかる。

「どけえええっ!」

俺は、これまでの戦いで高まった剣の力と、仲間たちの想いを乗せ、渾身の一撃を繰り出した!


光の刃が、仮面の男の構えた黒い剣と激突する! 凄まじい衝撃波が周囲に広がり、俺と男は互いに後方へと吹き飛ばされた。


「ぐっ…!」

俺はなんとか体勢を立て直したが、仮面の男も同様だった。やはり、一筋縄ではいかない。


だが、俺が時間を稼いでいる間に、イザベラが動いていた。

「今です! 全員、王子への道を切り開いて!」

彼女の号令一下、騎士たちと聖騎士たちが、残りの力を振り絞り、俺と仮面の男の間にいる敵(アンデッドや結社の魔術師)を一掃し、道を切り開いてくれたのだ!


「レオン! 行って!」

イザベラの叫びが響く。


俺は、仲間たちが作ってくれた道を、仮面の男に向かって全力で駆け抜けた。背後では、イザベラたちが他の敵を食い止めてくれている。


祭壇の前で、俺は再び仮面の男と対峙した。祭壇上の水晶は、禍々しい光を放ち、今にも中から災厄の王が生まれ出ようとしているかのように、激しく脈打っている。


(これで、終わりにする!)


俺は光の剣を両手で握りしめ、天高く掲げた。剣は、俺の決意に応えるかのように、白く眩い光を最大限に放ち始める。


「喰らええええっ!!! 我が光よ、闇を打ち破れ!」


俺は、全ての力を込めて、光り輝く剣を、仮面の男目掛けて振り下ろした!


「ぐ…あ…!?」

仮面の男は、光の奔流に飲み込まれ、その体が内側から浄化されていく! 黒い鎧が砕け散り、金属の仮面が剥がれ落ちる! そこには、憎悪と狂気に歪んでいたはずの、しかし今はどこか穏やかさを取り戻したような、アルベルト叔父の素顔があった。


「…そうか…これが…光か…眩しいな…レオン…これで…ようやく…」

彼は、まるで長い悪夢から覚めたかのように呟き、その体はゆっくりと崩れ落ち、光の粒子となって消えていった。最期の瞬間、彼の貢献度(敵意度)は【±0】へと変化していた。


アルベルト叔父は倒した。だが、安堵する暇はなかった。

祭壇上の水晶が、主を失った反動か、あるいは最後の抵抗か、ひときわ強い紫黒の光を放ち、バキバキと音を立てて砕け散った!


ゴゴゴゴゴ…!


遺跡全体が激しく揺れ、砕け散った水晶の中心から、想像を絶するほどの巨大な闇のエネルギーが、奔流となって溢れ出したのだ! それは、まるで意思を持つかのように渦を巻き、一つの巨大な人型の影を形成し始めた。


「まさか…封印が破られた…!?」

背後から、大司教の絶望的な声が聞こえた。


渦巻く闇の中から、ゆっくりと姿を現したのは…二つの巨大な角、燃えるような赤い瞳、そして全身を黒い鎧で覆った、威圧的な人型の存在だった。その姿を見ただけで、魂が凍りつくような恐怖を感じる。


「ククク…ようやく、目覚めの時が来たか…」

その存在は、地鳴りのような低い声で言った。「長き眠りだったわ…さて、まずは手始めに、この矮小な世界を、我が闇で塗り潰してくれるとしよう…」


災厄の王。

儀式は阻止したはずだった。だが、封印は完全に破られ、最悪の存在が、今、俺たちの目の前に降降臨してしまったのだ。


絶望的な状況。光の剣の輝きすら、その圧倒的な存在の前ではか弱く見える。

俺たちの最後の戦いは、まだ終わっていなかった。いや、本当の絶望は、これから始まるのかもしれなかった。

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― 新着の感想 ―
「第4部:王都の凱旋、新たなる火種」の八割方の内容が、二つ前のお話と同じ内容になっており、最後の方だけが前話の続きになっています。 せっかく面白いお話なので、ぜひ修正していただきたいです。
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