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灯台守の十二か月〜いけにえ少女と最果てスローライフ  作者: コイシ直
第12章 3月 家〜芽吹き

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(12-3)

 

「ああ、こんな絵もあったねぇ」


 スケッチブックのページを次々とめくっていく。


「この1年ですごく描いたんだなぁ。あらためてみると自分の熱量がちょっとこわい。最近は水彩画にも手を出し始めちゃったし」


 食卓に積み上げたスケッチブックの山を見ながら、エイナルは腕組みした。

 コーヒーを飲んで、14時のロープ巻きも済ませて、落ち着いてからスケッチブックを眺め始めている。


「本、出しちゃおうよ!」


 コハルはすっかり乗り気だ。


「コハルを描いたスケッチも本に載っちゃうけど、大丈夫?」

「いつも実物より美人に描いてくれてるから大丈夫!」

「いや、実物のコハルの方が絶対にかわいい。でも、そうだね。この1年が本に残るなら、それはちょっと特別で嬉しいかも、しれない。本当に色々あったから」


 1年前は、こんなに穏やかな気持ちで、大事な女の子と並んで話せているなんて、思いもしなかった。

 コハルはさらに、思うところがあるらしい。きらきらした顔で、言い切った。


「それにもし本が流行ったら、お金が貯められるでしょ!」

「まぁ、そうだねぇ」

「そしたら、レンが何か機械を発明してくれたときに、真っ先に買ってあげられるよ」

「ああ、そいつはすごく素敵だ」 

「あと、この灯台のことが伝わって、みんなにも良いなぁ、って思ってもらえたら、それはとても幸せ」

「そうかぁ。幸せかぁ。そうだね。そうかも」


 エイナルは、居間の高いところに止まって待っている銀色の小鳥を見上げた。


「ハーフォードさんに、商会の人から詳しく話を聞いてみたいです、って返事してみようか」

「うん、そうしよう!」


 コハルがさっそく便箋(びんせん)を持ってきてくれて、エイナルは返事を書いた。ついでに、レンの小鳥をコレンと名付けたことも書き添える。

 2羽の小鳥が仲良くクッキーを食べているスケッチもささっと描いて同封して、舞い降りてきた銀の小鳥に託した。


 小鳥のくちばしが手紙をくわえたとたん、小さな木の枝に変わる。

 ぱたぱたぱたと軽やかな羽音とともに、銀色の翼が浮上する。と思う間もなく、するりと窓ガラスをすり抜けて、小鳥はあっという間に消えていった。


「窓、閉まってたのに……」

「体、突き抜けたねぇ……」


 コハルとエイナルはぼうぜんと見送った。


「コレンもおんなじように飛んでいけるんだろうねぇ……」


 エイナルは、白銀の小鳥を見る。


 コレンは、居間に入ったとたん、堂々とタネリの頭にとまり、それからリュッカの耳をくちばしで軽くくわえて引っ張った。

 そのまま飛んで、トピの頭にとまったとたん、猫の腕がすばやく小鳥の体を抱えて押さえ込む。


 一瞬にして肝を冷やしたエイナルとコハルの目の前で、トピはごろごろと喉を鳴らしながら、コレンの体をべろべろとなめ始めた。

 そのままずっと、コレンを抱え込んで上機嫌だ。


「トピ、完全に小鳥をレンだと思ってるよね」


 エイナルはこれまたスケッチに残してから、トピの腕の中の小鳥を助け出してやる。

 ところがコレンは抱きしめられてグルーミングされたのが案外まんざらではなかったらしく、トピの背中に飛び乗って、お礼の毛繕いを始めてしまった。


 早くレンに手紙の返事を持っていってもらいたいけれど、コレンは見るからに楽しそうだ。もうちょっとだけ、そのまま自由に遊ばせてあげたい気がする。


「我が家は本当に平和だねぇ」


 しばらく様子を見守って、首を振って微笑んでから、エイナルはさらにスケッチブックをぱらぱらとめくった。


「あ、この絵」


 隣で覗きこんでいたコハルが声を上げる。


「夏至のお祭りの、あの花束だ!」


 灯台の色みたいな赤い花を、1本混ぜ込んだ大切な花束だ。コハルが初めて買った、自分へのプレゼント。


「そう。俺、あの日、酒飲み競争の酔いが醒めきらなくて、帰ってすぐにソファーで寝ちゃったよね。起きたら、目の前のテーブルにコハルの花束が飾ってあってさ。本当にびっくりしながら描いたんだ」

「だって、エイナルが『この花束を持ってたらすてきな夢が見られる』って言ったから。ゆっくり眠ってほしくって飾ったの。領主館に戻ったら、カンナに『なんで持って帰ってこなかったのー!』って怒られたんだけど……」


 コハルは何かを思い出したらしく、あからさまに目を泳がせた。


 あ、この反応は、とエイナルは思う。

 これはたぶん、あの花束の本当の意味を、カンナから教えてもらったんじゃないかな。

 

「夏至の花束占いのやり方、今はもう、知ってる?」


 彼女は黙ってさらに目を泳がせる。それが答えだった。


「俺ね、あの日ね、夢を見たんだ。ちゃんとコハルが出てきた。笑ってた」


 みるみるうちに、コハルの頬が真っ赤に染まった。


「今年の夏至の花束は、コハルの枕元に置いてね。どんな夢が見られたか、教えて」

「絶対エイナルが出てくる」

「ほんと?」


 やっぱり、あの花束の意味を、コハルはもうちゃんと知っていた。

 

 ——夏至の花束をそばに置いて寝ると、未来の結婚相手が夢に出てくるんだって。


 コハルは、赤いままの顔にいたずらっぽい笑みを浮かべて、エイナルを見た。きっぱり宣言する。


「絶対、エイナルが夢に出てくるから。出してみせる」

「出してみせるんだ?」

「うん。絶対、出す!」

「よし、じゃあ楽しみに待ってる」


 コハルがふふっと笑い出す。笑いながら、花束の絵のふちを、大切そうに撫でる。

 その手を捕まえて、エイナルはそっとつないだ。


「それで夏至が過ぎて、レンが帰ってきたらさ。俺たちの結婚式、あげようか?」

「レン、感動して泣いちゃうかな」

「レン、泣いちゃうかもね」


 ふたりはくすくす笑って身を寄せ合って、それから煎りたてコーヒーをまた飲んだ。



 岬にもうすぐ春がくる。






(おしまい)






最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

『筆耕マギー』を書いているうちに、レンに幸せになってほしい気持ちが加速して、この話を書きました。

次回作は『マギー』の第3部を投稿できればと思っています。

引き続き、お付き合いいただけたら嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします!


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