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灯台守の十二か月〜いけにえ少女と最果てスローライフ  作者: コイシ直
第11章 2月 選択〜サウナ

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(11-1)


 目まぐるしく日々が過ぎていく。

 そうしてあっという間の2月上旬。


 外はまだ、一面の雪の世界だ。底冷えもひどい。

 それでも、太陽が出てくる時間が、日増しに長くなってくる。春が近づいてくる気配につられ、外で遊ぶことも増えてきた。


「よーし、明日はヘルッコが来てくれる日だから、天気が良ければみんなで出かけよう。そり遊びでもしようか!」

「大丈夫?」


 こういう時、いつもは真っ先に賛成してくれるコハルが、顔を曇らせる。

 腰を浮かせて、朝食のコーヒーのおかわりをカップに注いでくれながら、しげしげと顔を覗きこまれる。


「エイナル、すっごく疲れた顔してる」


 確かに、疲れてはいる。

 サムエルが正しく裁かれるために、いまだにあれこれ忙しい。


 灯台の仕事の合間に沿岸警備隊に出向いて取り調べに協力し、王都時代の軍の同僚たちに夜遅くまで手紙を書きまくって証言協力を依頼し。


 手紙を送った相手や、話を聞きつけた友人たちからは、火事見舞いの贈り物が次々届く。

 その礼状に、雪が溶けたら遊びにきてくれるようにと書き添えて、次々返す。


 心配した街の人たちがひっきりなしにやってきては、これまた見舞い品を渡してくれる。もてなしのお茶を出して、話に花をさかせる。


 穏やかな灯台暮らしが一変してしまった。まだ2月なのに、すでに1年分の人たちと一気に会ってしまった気がする。


「しばらくちゃんと3人そろって出かけられてないよね……そろそろ気分転換に遊びたい!じゃないと俺が(しお)れちゃいそう」

「そうしたら……領主館のサウナ借りちゃう?」


 いいこと思いついた!とコハルが目を輝かせる。

 領主館にはサウナがある。領主一家の使っていない時間帯には、使用人も入ることができる。


「昼間だったら3時間くらい貸切にしても全然問題ないと思う」


 この国の人たちは、寒い冬でも涼しい夏でも、サウナに入るのが大好きだ。

 実は、湖のそばにあるエイナルの祖父の小屋にも、サウナが備えつけられている。けれど、今から準備するのはちょっと面倒くさい。

 そう思ってしまうくらいには、疲れている。


「あらかじめ準備されたサウナで、ただダラダラできるとか、天国みたいだなぁ。レンも行くだろ?」

「暑いの、あんまり好きじゃない」


 浮かない顔でレンは答える。


「小さい頃、暑い国で育ったから。サウナも入ったことない」

「じゃ、一度くらい体験してみたらいいんじゃない?爽快だよ。サウナオイルはレンの好きなやつにしよう」

「オイル?」

「ま、行ってみたらわかるよ」


 エイナルの言葉に、コハルもうんうんとうなずく。


「そうそう!サウナ楽しみ!ひさしぶり!」

「コハルって、基本なんでも楽しみだよね」


 今からうきうきしているコハルを見て、レンはちょっと呆れたように口元をゆるませた。


「でも、たしかに何でも一度はやってみたいかな」

「でしょでしょ!あ、ついでに生まれて初めてのデートはどう? パン屋の娘のカティーちゃんから、レンとふたりでランチしたいって相談されちゃった!」

「えぇ、やだ」

「なんでー? じゃあイストさんとこのイーダちゃんは? レンちゃんとまた遊びたいーって毎日言ってるみたいよ?」

「そっちは……まぁ、いいけど」

「わぁ、レンの好みはイーダちゃん4歳かぁ」

「ちっっがーーーう!」


 きゃいきゃい言い合っているコハルとレンがかわいすぎて、エイナルはさっきからスケッチの手が止まらない。

 もうすぐ沿岸警備隊に出向かないといけない時間だけれど、その前に領主館に寄って、明日のサウナの予約をしていこう。




 さっそく領主館で、家政婦長を捕まえて希望を伝えた。

 たまたま家にいたヴィッレが聞きつけて、にやにや奥から飛び出してきた。


「サウナ、なんで男女混浴にしないんだよ」


 開口一番がこれだ。エイナルは苦笑いした。


「お前のところのサウナ、男女別で作られてるだろ」

「プライベートで人数と使用時間が限られてるなら、混浴OK。うちの両親も一緒に入ってるぞ?」

「相変わらずご領主夫婦は仲良いな」

「お前とコハルの仲良しっぷりには負けるだろ。どうせサウナ着を着るんだし、一緒にいちゃいちゃのんびり入ったらいいのに」

「そのうちね。今はダメ」

「なんだよ、お堅いな」


 呆れたように言いながら、ヴィッレはホッとしたようにエイナルの全身をじろじろ眺め回した。


「いろいろ大変だったけど、お前、ずいぶんすっきりした顔になったな。悪い憑き物が落ちたみたいだ。よかった」

「ありがとう。自分でもびっくりするくらい、すっきりしてるよ」

「いずれ軍事裁判の立ち会いで、何度か王都に行くんだろ? 留守の間もうまく灯台が回るように計らうよ。また今度あらためて相談しよう」

「頼れる幼なじみたちがいてくれて、ほんと助かるよ。感謝してる」

「なんだよ改まって。気持ち悪い」


 ヴィッレは鼻で笑いながら、エイナルの肩を軽く小突く。


「明日は俺はあいにくいないけど、ゆっくり楽しんでいってくれ。歓迎するよ」





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