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第一章 五話 リーブロの書庫

易者にステータスを占ってもらうまで、あと6日。


ナーヴェから託された体、長達から頼まれた王位選抜のこと。


こんな状況だが少しワクワクしてしまっている。

僕も年相応の少年だ、少しは許してほしい。


といっても、ステータスを占ってもらうまでは情報を集めることしかすることがない。


とりあえず、長のサンブコさんに教えてもらった場所へと足を運ぶ。





サンブコさんが教えてくれた場所とは、書庫だ。

狐も本を読むらしい。


他の建物に使われた建材を詳しくは断定できないが、受ける印象で説明するならば「植物でできた建物」とでも形容しようか。

だが、この書庫は他とは明らかに違う。受ける印象は「木造の建物」だ。


明らかに他より大きく強固な作りの建物に少し萎縮してしまう。


両開きのドアの片側をそっと押して、中に入ると。


「うわっ!」


すごく埃っぽい。長年ほとんどの人が立ち入ってないのだろう。

それも、この書庫は本好きが高じてリーブロさんという人が個人で建てたものであるらしい。


リーブロさんは本を集める旅に出ていて、この書庫に本を納めに度々帰ってくるそうだ。


基本誰でも立ち入って良いとリーブロさんが公言しているらしい。

本の良さを1人にでも多く知ってもらいたいという願いのもとなのだそう。


ありがたく使わせてもらおう。


中は埃っぽいものの、数歩進んで見渡してみれば散らかっているわけではなかった。


本はジャンル別に綺麗に陳列され、床に本が落ちているなんてことは一切ない。


早速目当ての妖狐族についての本を探して書庫の中をうろうろしていると、「人間族について」という題の本を見つけた。

きっとこのあたりに妖狐族についての本もあるだろう。


……


「人間族について」という本を手に取ってみる。

自分ももと人間なので、この世界の人間との違いが少し気になった。

二本の足で棚に寄りかかるようにして立って本を取るしかなかったが、思いの外簡単に取ることができた。


そこで違和感を覚えた。

本が異様に綺麗なのだ。長い間触れられていなければ、少しは埃がついたりするのに。

この本だけ掃除して出ていったというわけではないだろう。


周囲の本を見れば、同じく異様に綺麗で、埃一つ被っていない。

リーブロさんのスキルだろうか?


物を守るスキルを持っているのかもしれない。


初めてのスキルに少しテンションが上がる。

それにしても、本一つ一つにスキルを使っても魔力は問題ないのだろうか。


「妖狐族について」という本も取り出して、二冊とも端にある長机まで持っていく。

元の世界で見たのと同じような椅子がある。狐に対して机の高さもあきらかに高すぎるような、、


とりあえず、今は椅子の上に乗ってしまえば問題はない。


「人間族について」


・人間族は源スキルを持っていない者の割合が少ないが、源スキルの数が二つ以上の者も極めて少ない。

ほとんどの者が源スキルを一つ持って生まれてくる。

・ステータスは全種族の中でも低い。しかし、知力のステータスは高い。

・人間族の国家ヒューパエゼの近くには迷宮が数多く存在している。

・人間族の国家は一度内乱が起き、二つに分裂したのち一つに戻り今の形となっている。

・王位継承については、王位継承者選抜という独自の制度をとっており、全種族の中で唯一である。


「妖狐族について」


・妖狐族は源スキルを持たずに生まれてくる個体はおらず、確実に二つ以上の源スキルが確認されている。

・ステータスは全種族の中でも低い。しかし、魔力のステータスは高い。

・妖狐族は古くからその唯一性といっても良い種族の特徴により敵視され、存亡の危機に立たされてきたが、現在、人間族の国ヒューパエゼとの保護条約により守られている。

・王は存在せず、血縁による継承で集落の長が決まっている。例外も有り。


主にこんな内容だった。

妖狐族については既知の情報がほとんどだったけれど、人間族の軽い歴史は初見だ。


元の世界でも起きていたように、人間同士の争いも起こるらしい。

どの世界でも同じなのだろうか。


と、考えていると書庫の扉が開く音がした。

今いる机は扉からかなり離れており、本棚で遮られて入ってきたものは確認できない。

自分以外にも利用者がいるのだろう。


書庫に来てから数時間経っている。

そろそろ書庫を出ようと思い、本を元の棚へと戻しにいくために椅子を降りた。


すると、読んでいた二冊の本が宙に浮かび、どこかへ向かってゆっくり飛んで行く。


なんだ?


ついていくと、元々本が収められていた場所へと自ら戻って行った。


すごい!元の世界じゃ到底考えられない。

なんとも言い難いが、すごく異世界を感じたとでも言おうか。


「あれ?」


書庫の入り口の扉の方から声がする。

今いる場所は書庫の扉からまっすぐ行っただけのところで、本棚など、遮るものは何もない。

こちらからも扉が見える。

見れば、人間が立っている。


保護条約があると言えども、集落の中まで?


「もしかして、書庫の利用者かな!?」


ものすごい勢いで目の前まで近づいて来たため、その姿がよく見える。

目を期待と喜びで爛々と光らせているその人には、僕と同じ形の尻尾がある。

ついでに耳も。


この人、狐なの?


「あ!驚いた?君はまだ占ってもらってないって事かな?」


楽しそうに話す。


「実は占いを終えると、人の姿に変身できるようになるので〜す!」


効果音が聞こえてきそうな身振り手振りに圧倒されて言葉が出ない。

やけに賑やかな人だ。

嫌な感じは全くしない。


「す、すごいですね」


実際すごい。

ヒューパエゼに人の姿で潜入できれば、狐の姿の何倍も王位選抜に関与しやすい。

なんでこんな重要なことをサンブコさん達は伝えなかったのだろう?


「それより、書庫の利用者でしょ!ようこそ!私はリーブロ!本の魅力は伝わってるかな?」

「は、はい、かなり伝わってます、」


圧がすごい人だ。

周りの空気を飲み込んでいってしまう。


「さっき本が飛んで行ったんですけど、もしかしてスキルですか?」


興味本位で聞いてみる。


「そうだよー!私の源スキル「《状態保存(マンテネーレ)》」は、物を同じ状態に留めておけるの!この書庫に《状態保存》をかけて、私がいない間に本がなくなったり傷ついたりする事が無いようにしてるんだ〜!」


すごい。守るどころの能力では無かったのかもしれない。

本一冊一冊ではなく、書庫にスキルを使うことで大幅に魔力を削減しているのか。

それにしても、旅に出ているという話だったな。


書庫の扉の前には大量の荷物が散乱している。

大型犬ほどの大きさのバッグから、少し中身が見えている。


「ごめん、名前を聞いても良いかな?集落に戻ってきたのはかなり久しぶりだから、わからない人ばっかりになってるなー!」


長との話で、ナーヴェと名乗ることに決めている。

ナーヴェの体であるので、意識はなくとも名前まで取り上げたくは無かったので、僕からお願いしたのだ。

ナーヴェの存在をより近くに感じる為という意図も、少しある。


「ナーヴェと言います」


言った途端、目を見開くリーブロ。


「え、ナーヴェ?」

「はい」


眉間に皺を寄せて、少し考えている様子。

さっきからの明るい雰囲気が少し翳りを見せる。

こういう事があと何回起こるんだろう。

リーヴェがリーヴェでなくなったと知る人はあと何人いるのだろう。

すごく申し訳なくなるし、苦しい。


「わかったよ、何か事情があるんでしょ。大丈夫、中身が変わってもナーヴェはナーヴェだよ。そんなに悪い人でもなさそうだし!」


まるで、些事だというようにあっさりと。

なんでそんなにあっさりと?

それに、、


「なんで、僕がナーヴェでないとわかったんですか?」

まだ長から話も聞いているふうでもない。


「私の二つ目の源スキルで、ちょっと覗かせてもらったんだ」


こっちにきて、少し話そう、というリーブロ。

2人で端の長机のところまで行って話を聞いた。

どうやら、二つ目の源スキル「《過去閲覧(ビジュアリジオーネ)》」は相手が今まで何をしてきて、どういう事が起こったのかを文章としてみる事ができるらしい。


しかし、何を思っていたかまでは閲覧できないそうだ。

ナーヴェがどんな思いだったのかを聞けるかと思ったが、どうやら無理らしい。


そのままナーヴェとの思い出話を聞いた。

リーブロさんにとっては弟のような存在で、旅に出たときはまだ本当に幼かったそうだ。

リーブロさんは、幼いのにも関わらず本に興味があったナーヴェのことを気に入っていたという。

尚更、先ほどすぐに僕を受け入れてくれたことが不思議に思える。





書庫の扉を開けて外に出る。


「じゃあ、また来てね、詳しい話は長から聞いておくよ」

「わかりました、ありがとうございました」


と言い家路に着こうとすると、


「くれぐれも、自分を責めないでね。ナーヴェが望んだことだろうから」


そう言われ振り返ると、リーブロさんは弟を見る姉のような優しい笑みを浮かべていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  私は ゲームをした事がないのだけど,「ステータス」 「スキル」などの ラノベ特有の単語が登場して、いよいよファンタジーらしくなってきました。  早く次回のお話が読みたいです。 [一言] …
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