第一章 ニ話 狐の集落
突然のことで何が何だかわからない。
…ひとまず状況を整理しよう。
病弱で歩くことさえできなかった僕は、死んでしまったはずの名前も知らない彼の声がしたかと思えば狐になっていた。
以上。
意味がわからない。
なんで狐になったのかは置いておいて、何故彼の声がしたのだろう。死んでしまったはずの彼の声が。
情報が少なすぎる…
しかし、こうして歩けているならば体があるはずだ。
自分のものではない、誰かが意識を持って動かしていた体が。
ぼーっと四肢を忙しなく動かす狐の後ろ姿を見て、
この体の持ち主の友達だったのかな、などと考える
「早くー!遅れちゃう!」
「ご、ごめん…」
突然声をかけられて驚いてしまった。
狐に声をかけられること自体ある意味恐怖体験であるので、何も間違ってはいないが。
とりあえずついていくしか無い。
数分歩き続けたが、歩くにつれどんどん賑わっていくように感じる。
狐の街みたいなものなのだろう。
だが、人の街と少し違い等間隔にとても大きな柱が立っており、街全体を支えているようだ。
狐は巣穴で生活すると思っていたが、言葉も喋れるので複雑なコミュニティを作れると言うことなのだろうか。
僕を起こしにきた狐の歩みが止まり、僕の横に着くようにしてまた歩きはじめる。
「今日はどうしたの?いつもと違う感じがするんだけど…」
「な、なんでも無いよ!大丈夫!」
怪しまれている?
確かに、不審な行動しかしていない。
「体調が悪いならちゃんと言ってね!遅れちゃうから急ごう!」
そう言うとまた歩みを早めて前へと行ってしまう。
狐にも時間の感覚があるんだなあとぼんやり考えていると、とうとう目的地に着いたみたいだ。
周りにはたくさんの狐がいるが、不思議と見分けがつく。
毛色や顔つき、模様など小さな差しかないはずだが。
自分自身も狐になったからなのだろうか。
周りの様子は、例えるならば村の青空集会のような様相で、小さなステージのようなところを中心にたくさんの狐が集まってきている。
「間に合ったみたいだね!よかった〜」
気づけば自分を起こしにきた狐がすぐ横にいた。
「うん、よかったね」
今度は驚かずに落ち着いて言葉を返す。
こんな状況でも、案外慣れることができるのだなとしみじみ思う。
気づけば集まった狐の中心、小さなステージのようなところに1匹の狐が立っていた。
周りの狐よりも明らかに一回り以上大きい。
「みんな、今日は集まってくれてありがとう。みんなの関心がある話題だから、前口上は無く話そうと思う。」
ステージ上にいる狐が話し出すと先ほどの賑やかな雰囲気とは裏腹に、ピリピリと張り詰めた空気へと変わっていくのを感じる。
「我々の住んでいるこの街がある森は、代々隣国のヒューパエゼの人間族の王との保護条約に基づいて保護されてきた。しかし、ヒューパエゼの王が亡くなり、国王交代が起こるそうだ。」
なるほど。人間に保護されているのか。
と言うことは狐と人間以外もいると言うことだろう。
「ここまでは、今までも何度も起こってきた事だ。しかし、大きな問題が一つ生じてしまった。
王位継承者候補に、激しい排魔派がいるらしい。」
ざわざわっと周りが一気に騒ぎ出す。
騒ぐ、と言ってもヒソヒソとそれぞれが話し出したり、動揺の声が上がっている程だが。
「そこで、我々はなんとしてもその排魔派の者が王となるのを防がないといけない。
我々の生活を守るために、精鋭を選りすぐり対策を打つ事にしようと思う。」
おおっ、と感嘆の声が上がる。
「もし我こそは、と言うものがいれば私のところまで報告してほしい。以上だ。」
あの狐の立場はわからないが、かなり上の立ち位場なのだろうということがわかる。
若く体も大きく、その上爽やかな印象の話口調だ。ここが村なのかはわからないが、村長みたいなものなのだろう。いや、それには少し若すぎるか。
話をしていた狐がステージから降壇すると、周りがざわざわと騒がしくなる。
どうする?、行こうかな、など口々に話しだしたようだ。
「やっぱり、大変な事になったね〜。僕たちはまだ易者に見てもらってもないから、うまくいくように祈るしかないねー、」
起こしに来てくれた狐、友人狐と呼称しよう、が少し残念そうに言う。
しかし、友人狐は易者と言った。
前の世界の知識通りなら、易者はいわば占い師のような職業だ。
狐の何を占うのだろう。
聞いてみるほかないか。友人狐だけが今は貴重な情報源と言える。
できるだけ怪しまれないように聞いてみる。
「易者に何て占ってもらいたい?」
完璧だ!易者が占いの職だと知っていて助かった。
「おかしな事を聞くなあ。」
げ、おかしかった?
「でもそうだなあ、やっぱり強い能力が欲しいな!瞬間移動とか、自己強化とか!」
瞬間移動!自己強化!明らかにファンタジーな単語だ!
しかし、喋る狐は瞬間移動もできるのか…狐を侮っていた。
「こんな話をしてたら、早く易者に見てもらいたくなってきちゃった!一週間後が待ち遠しいね!」
そうだね、と適当な相槌を打つ。
もうすぐで易者に見てもらえるのか。さっきまでは突然の事だらけで不安でいっぱいだったけれど、少しワクワクしてきた。
ずっと病弱だった僕に神様が贈り物をくれたのかな。
でも、彼が託す、などと言っていた覚えがある。
神様の贈り物というわけではないのかもしれない。
「ああっ!火事だ!」
突然大きな声がして、反射的にそちらを見やる。
植物でできた家がかなりの勢いで燃えている。
「そんな!まだうちの子が!」
まだ中に子供がいるらしい。大変だ。
消防士のような役職があるのかと思い、はらはらして見守っているが、周りは心配そうな顔をしているだけで動かない。
「そんな、!」
言いながら、友人狐が出火している家の前まで駆けていく。
「危ないよ!」
と言いつつ追いかける。
何かできるわけでもないのに、出火した家へと何故近づくのだろう。
近づくと、本当に熱い。
この中にいるなんて命が危ない。しかも子供の狐だ、すぐに死んでしまうだろう。
だが、中から微かに声がするような気がする。
まだ生きているのか。
「どうしよう…」
と言い焦る友人狐。
ぐらっ、と。
出火した家の横、街を支える大きな柱の一部が燃え落ち、こちらへと傾いている事に気づけなかった。
稚拙な文章ですが、読んでいただきありがとうございます。
これからの展開が気になる、もっと読みたい!と思っていただければ幸いです。
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