第一章 十一話 学園入学資質試験
とうとう今日が試験当日。
とうとうといっても、試験の日を知らされてから数日しか経っていないが。
スキルの運用が上手くできるようになって、多少の自信はついたので試験の心配は大してしていない。
いや、待てよ。
筆記試験の存在を忘れるところだった。勉強など一切出来ていないが、サンブコさんが大丈夫と言うのならそうなのだろう。
「おはよう、ナーヴェ!」
「カミコ、おはよう」
カミコと朝早くに家を出て、学区まで歩いて向かう。
中心区を真ん中に据えて、右に居住区、上に学区、左に商業区、下に城下区が位置している。
中心区に行く時とあまり距離は変わらない。
「ねぇねぇ、ナーヴェ。ナーヴェはどんな派生スキルをだったのー?」
カミコが聞いてくる。
詳しく話しても理解ができるか怪しいので、概要だけ。
「そうだなぁ、僕のは光を操るスキルと、音を聞くスキルを持ってるよ」
「すごい!見せて見せて!」
カミコにスキルを見せて欲しいとせがまれる。断る理由はないので、実際に自慢の《光導》を披露しようではないか!
その場でぴょんっとジャンプして、地面より少し高めに生成した光の床を歩く。
「すごいすごい!」
そう言いながらキラキラした目で見つめてくるカミコ。
褒められて少し気持ちがいい。
「カミコはどんな派生スキルを持ってるの?」
光の道から降りて、地面に足をつける。
「僕のは、すっごく速く移動できるようになるのと、パンチが上手になるやつ!」
早く移動するのはわかるが、パンチが上手になるスキル?
「早く移動できるスキルって、どれくらい早くなるの?」
パンチの方は流石にやってみてとは言えない。
「えーっと、これくらい!」
そういうと、カミコがかなりの勢いで前に加速した。
自転車のトップスピードくらいの速さだろうか。
カミコもスキルを上手くモノにしてそうで安心した。
気付けばすでに学区の中まで来ており、試験を受ける修練学園まであと少しだ。
周りにもたくさんの人、もとい変化した妖狐がいる。
「人がたくさんで緊張してきたな…」
「大丈夫だよ。訓練の時と変わらない気持ちでやれば上手く行くよ」
「そうだね、頑張る!」
修練学園の入り口の目の前まで来た。
どうか上手くいきますように、と祈りながら学園へと足を踏み入れた。
修練学園の中は元の世界の学校の感じとは大きく違っていた。
何よりもスケールが大きい。
今、学園に入ってすぐの校庭のような場所に続々と受験生が集まってきている。
300人程はいるだろうか。
皆、周りの受験生の顔を伺ったり、友人と話したりしている。
カミコも周りの受験生をチラチラと見て気にしている様子だ。
「えー、皆さん。お集まり頂きありがとうございます」
受験生達の前方にあるステージの様な場所に人が立っている。
さっきまでいなかったはずだけど。
「早速、試験概要を説明します。長ったらしい話をするのはイヤなので、手短に」
黒髪長髪の切長の目を持つスッとした顔立ちの男が言う。
「まず実技試験を行い、次に筆記試験を行います。筆記試験は前回と形式に変わりはありません。
では早速、今回の実技試験の内容を説明します」
男が話し出してから周りから一切の音がしない。皆よほど集中して聞いているのだろう。
「今回の実技試験は、奪い合いです」
周りがざわつく。
「皆さんにこの札を渡します」
スッと白い札を掲げる。
「この札に魔力を流し、魔力を流したこの札を奪い合ってもらいます」
なるほど。カミコのスキルはこの試験においてかなり有利を取れる。
「この札は、一度流された魔力を記録します。自分の魔力が流れた札が試験時間終了時に3枚存在すれば、実技試験は合格です。最初に全員に一枚お配りします」
300人に配るのは野暮じゃないだろうか。相当な時間が掛かるだろう…
なんて考えていると、右手に何やら変な感触が。
みれば、さっきの札だ。
カミコの手にも、他の受験生の手にも札が握られている。
「失礼。私のスキルで配らせていただきました。試験会場まで、スキルで転送しますので皆さんできるだけ固まって頂けると助かります」
転移スキル!
札のような小さなものから、こんな大人数まで転移させられるなんて。強力すぎると言ってもいいスキルだ。
次の瞬間、
シュンっという音と共に視界が白に染まる。
目を開けると、中世の町の広場のような所にいた。
なんだここ、すごい、など周りも驚いている様子だ。
「ここが試験会場です。といってもここだけではなく、試験会場は二つのエリアに分かれています」
森林エリア、今いる町エリアの二つに分かれているらしい。
「冒頭に話したように、長ったらしい話はお互いに益をもたらしません。早速、十分後に試験を始めます。各々好きな場所に行って準備を整えて下さい。くれぐれも、札に魔力を流すのを忘れない様にして下さい」
そういうと、シュンっという音と共に男の姿が消え、頭上にものすごく巨大なタイマーの様なものが現れた。




