9 傭兵団「暁」の団長の話
「団長!お嬢の家が大変です!」
団長としての書類仕事 ~誰もやりたがらないから団長の仕事になっている~ を終えて酒を一杯ひっかけてから寝ようとしたら部下Aが部屋に飛び込んできた
団長は偉いから一人で部屋を使えるのだ、ではなく、驚いた
普段は沈着冷静な部下Aが ~団長が大雑把だから仕方なく女房役をやっているんです@部下A談~ 取り乱しているのだ
まあそれは団長にも判った
『お嬢』の一大事らしいからだ
団員達が『お嬢』というのは辺境伯の令嬢しかいない
治癒魔法の使い手で何度かお世話になったことがある
初めて出会ったのは国境での紛争に駆り出された時のことだった
国からの要請と言う名の脅迫も同然の依頼だった
あれは本当に酷かった
両軍とも死者多数だったのだ
うちの傭兵団は腕利きがそろっているのと、お互いに助け合って戦うため死者はなかった
だが今にも死にそうな重傷者は数名いた
医者が匙を投げる程だったと言えばわかるだろう
団長だったオレは一か八かの賭けをするつもりで王都の辺境伯の屋敷を訪ねた
もちろん平民が貴族に会うことなんてできないのは判っていた
だが家族同然の部下が死にそうなのだ
何もしないという手はなかった
屋敷の裏口から入り出て来た使用人に
「治癒魔法を依頼したいので御令嬢に会いたい」
とできるだけ丁寧な態度と口調で言ってみた
まあ無理だろうな
そう思ってはいた
でもやらない手はないんだよ
しばらく待たされた後、屋敷の中に招かれたのには驚いた
応接室というのか? ~平民の家にはそんなの無いからな~ そこに通された
立って待っていると ~それくらいの礼儀は知っていた~ お嬢、もといお嬢様が入って来た
そして話を聞くとすぐに
「行きましょう!」
と言われて連れ出された
有無を言わさずに馬車に連れ込まれ ~初めて乗ったぞ!~ 国境付近まで帰っていった
そして重傷で死にそうだった団員達に治癒魔法を使ってくれた
死に至る傷が瞬く間に治っていくのには驚いた
もっと驚いたのが治療費を受け取って貰えなかったことだ
・・・もっとも馬車の使用料として銀貨一枚請求されただけなのにも驚いた
「馬を維持するのは大変お金がかかるから当然よ!」
と胸を張っているお嬢の態度にも驚いたがな(笑)
まあそんなお嬢の家が兵士に囲まれているというのだ
助けに行かないという選択肢はなかった
即座に部屋を出た
・・・部屋を出ると団員全員が待機していたのにはびっくりしたぞ(汗)