6.修学旅行
数日、俺はあの夜のことが頭から離れなかった。
学校では、もうすぐ修学旅行だとかそんなことばかり言って盛り上がっているが、俺はそんなふうに盛り上がることはできなかった。
俺はミカを見つけないといけない、そんな気がしていた。
ミカが残した手紙には「帰りの飛行機が見つかったので、帰ります。ご飯本当にありがとうございました」とだけ書かれていた。
「はぁ」
重い溜息が出る。
いつも異常に騒がしい教室の中で、俺は暗い気分と戦っていた。
「どーした楓、もうすぐ修学旅行だぜ!盛り上がってこーぜ」
夏希が、前の席から身を乗り出して話しかけてくる。
「できることなら俺も盛り上がりたいよ、夏希」
そう答えると、夏樹は少し不思議そうな顔をしながら、いつもサラサラなびかせている髪の毛をいじりながら、夏希は言った。
「なにが起きてるか知らないけどさ、沖縄だぜ沖縄!楽しまなきゃ損じゃんか!」
「え?沖縄?」
「うん、そうだけど。お前知らなかったの?」
「うん、そんなこといつ知ったんだ?」
「はぁ?数ヶ月前からみんな知ってるだろ」
「まじ?」
「……記憶喪失か?」
沖縄だ。そこにいけばミカを探せる。幸い、あの日、ミカの住んでいる街を聞き出すことに成功している。見つけてちゃんと話を聞こう。
不意に声がした。
「…で!…えで!…おい楓!聞いてるか?」
「あ、ごめん夏希、聞いてなかった」
「お前最近マジおかしいぞ。大丈夫?」
「大丈夫だよ!ところでなんの話だったの?」
「あー、一緒の班になろうって話だよ。」
「他に組める人もいないしね。なろ、一緒の班」
すぐにYESと答えを返す。夏希なら事情を話せば俺に協力してくれるかもしれないし、何より俺には夏希を含み4人ほどしか友達がいない。
夏希が口を開く。
「えーと、1班最大5人だから。いつものメンバー誘うか」
「そーだね」
3年は修学旅行でどこに行くのだろうか。突然気になったので夏希に聞いてみる。
「ところでさ、3年ってどこ行くんだっけ」
「え?何だお前!灰原先輩のこと気になるのか?」
いきなりなつきがそんな事をいうので、クラス中から視線が集まる。聞かずともわかる、その視線には、
「くそ!なんであいつが!」や「羨ましい、イチャイチャしやがって」などという、これまで楓花に塩対応され続けてきた、全校男子の怒りや、妬みや、苦しみがこめられていた。
しばらくしてその熱が収まると、夏希はようやく口を開いた。
「3年は京都だよ」
「そっか」
それ以上の反応をすると、またクラスの男子からあの視線が送られてくるかもしれないのでその反応に行き着いた。
しばらくすると、教室のドアが開いて担任が入ってきた。
「えーと、すまん!色々手違いがあって、バスのに全員乗れなくなった。もう一台出してもらおうと思ったんだが、どうも予約がいっぱいらしい。京都からなら1台空いているそうだから、それまでぎゅうぎゅう詰めで過ごしてもらうことになるんだが。それでもまだ2人入り切らないから、3年のバスで京都まで行ってもらう。誰が行く?」
少しクラスがざわざわする。そこで、学級委員長の鈴木恒星が口を開いた。
「よし、じゃあ乗りたい人がいないならくじで決めるってのはどう?」
反対意見が出なかっったので、その案は採用された。
くじ引き。なんだかんだ言って小学校以来かもしれない。
自分の番が回ってきて、何も考えずにくじを引く。くじは赤があたり白が外れ、赤だったら3年のバス行きというシンプルなものだ。
「赤い」
その言葉が口から溢れる。
「おお、涼風あたりだな」
鈴木が言う。それと同時に、隣から声がする。
「うわ、俺も当たった!」
その声を出して嬉しいのか、残念なのかわかりにくい顔をしているのは、他の誰でもなく、夏希だった。
時間はあっという間にすぎ、気がつけば3日後の修学旅行当日になっていた。
「楓ー!おはよぉ」
「おはよう夏希」
「緊張しね?」
「あんましてないけど、なんで緊張するの?むしろワクワクじゃない?」
「だってさー、3年の先輩が怖かったら嫌じゃん。」
「たしかにね、でも少なくとも怖いってことは無いと思うよ」
「楓……何を根拠に言ってんだ?」
「え?だって俺達が乗るの三年女子のバスでしょ?いくら先輩とはいえ怖い人はいないんじゃない?」
「女嫌いはどこ行った?」
「……あ。忘れてた。楓花と一緒にいると自分が女嫌いだって忘れちゃうね」
苦笑しながら続ける。
「ちょっと待って、それって俺京都までの約5時間ずっと女子に囲まれてるの?」
「そーゆー事になるな」
「やだぁ、もうあの感覚やだよぉ結構きついんだよ?」
「ははははは、いつの間にかお前の方がビビってんじゃん」
「ホントじゃん気がつかなかった。」
二人で大笑いした後に俺たちはバスに乗り込んだ。
俺たちの席はなんとバラバラに配置されており……
「なんであんたが隣なの?!楓花と隣になるはずだったのに!」
「うっせーな!こっちも来たくてきてるわけじゃねーんだよ!」
「まだ楓くんの方がマシだからかわりなさいよ!」
「ん?楓がいいのか?じゃあそう言えば?」
「うっつ、べ、別にいいわよあんたでも、どっちもモブ!」
「ああ?テメーなぁ」
その喧嘩を聞いていた楓花と咲のクラスメイトの女子たちから笑いが巻き起こる。流石にうるさかったらしく担任から注意が入る。
「うるさいわよー、もう少しでいいから静かにしなさーい、特にそこのお似合いカップルねー」
お似合いカップル、間違いなく夏希と咲だ。
その後は大した事はなく順調にバスの旅が続いていた。はずだった。
レクで恋バナなんてやって俺と夏希が耳栓をさせられていた時、耳栓でもうるさく聞こえるほどの爆発音が轟いた。バスが止まる。
「うわ、なんだ?」
夏希が言う。状況を確認しようとして、窓の外を見るとそこには知らない廃墟のような建物が確認できた。
「後ろの道が無い?爆破された?ここは、何処だ?」
バスの中が騒がしくなる。そこでバスの中に一つのアナウンスが流れた。
「こんにちはー、今回お集まり頂いた理由は簡単!私の望みを叶えてください!望みの内容が知りたいですか?いいですよ、教えてあげますよ。でも今すぐじゃない、この廃墟の中で惨めったらしく、生き抜きなさい。その先に私の望みはある。説明終わりっ!さあさあ運転手さん!お願いします。」
アナンスが終わると運転手はアクセルを踏もうとした。楓花のクラスの担任が言う。
「ちょっと!どういうことです?説明してください、運転手さん!勝手に進まないで下さい!あなたはあのアナウンスの意味が分かるんですか?」
「………うるさいですよ。」
運転手はそう言うと内ポケットから何かを出した。
「銃……」
誰かがそう呟く。
次の瞬間、パァン!、と澄んだ銃声が轟いた。
その音は間違いなく、運転手の方から鳴った。
銃声が鳴ったかと思うと、ワンテンポ遅れ先生がバスの床に倒れた。頭を中心に赤黒い水溜まりができる。
「きゃぁぁぁぁ」
1番前に座っていた女子が叫ぶ。
「あー、うるさいっすよ、うるさくするとか抵抗するとかしたらあんたらもこうなるんで…静かにしててくださいり」
ほとんどの人が声すらも出せない。先生が死んだ、さっきまで楽しく話していた先生が……目の前で、銃で、殺された。それは俺たちに恐怖を植え付け、従わせるには充分すぎる一手だった。
バスはゆっくり走り出す。
その瞬間から、「LoveRebellion~愛の反逆~」が始まった。
鈴木恒星=すずきこうせい
いよいよ事件が始まりました!次回お楽しみに!