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秒針が鳴り終わる前に  作者: 秋葉颯
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5.サヨナラ

家への帰り道、既に日は落ちていた。

 俺が林を殺しかけたこと、それは、俺が家に帰る前に親に知らされているだろう。幸いなことに俺は今ミカと一緒だったので、親にきつく怒られることはないと思う。

 ミカはここが中部地方と聞いて驚いていた。何しろミカは沖縄に住んでいたらしく、家まであまりにも遠くて今日中に帰れないという事にも驚きと不安が顔に出ていた。

 仕方がないので俺の家に泊めることにした、という経緯を辿って今家の前についたり

 涼風という表札を見るといきなり緊張してくる。 

 緊張する心を無理やり沈めて家のドアを開ける。


「ただいま」

「おかえり、つかれてるでしょ、今日はお風呂に入ってゆっくりやす、え?ミカちゃん?!」

「うん、家が沖縄らしくて、帰れないから一晩泊めてくれって」

「そういうことね、仕方ない、泊まってもいいけど、寝る場所はリビングか、楓の部屋くらいしか無いけどそれでもいい?」

「はい、もちろんです、ありがとうございます。」


 話がつくと、お母さんがミカを家に上げた。ミカは


「お邪魔します」


 と行儀よく挨拶をして、家に上がっていった。

 お母さんは、何度も断るミカにほとんど無理やりご飯を出した。そして、風呂にも入れと言ったが、さっきミカ、楓花、咲、夏希、俺で、銭湯に行ってから帰ってきたので、風呂に入る必要はなかった。

 俺が部屋でスマホをいじっていると、お母さんがノックをして入ってきた。


「楓、あなたが帰ってくる前にね、楓花ちゃんが来たのよ。それで、楓くんを怒らないでやってくださいって、説得するのよ、元々怒る気はなかったけど本当に優しい子だね」

「うん、俺もそう思う。それをいいに来たの?」

「ううん、違う。1ヶ月後までに、お見合いの答えを出してほしいって、楓花ちゃんのおやが言っているのよ」

「わかった、一ヶ月もかからず答えを出すよ」

「嫌だったら、遠慮なく言ってね」

「うん、ありがとう母さん」

 そう言うと母さんは部屋から出ていった。それと同時にミカが部屋に入ってきた。


「どーしたの?」

 そう聞く。


「え?どーしたって?」

「用があるから入ってきたんじゃ?」

「用ならあるよ、今日私ここで寝るから」

「は?」

 その後はもう勢いだった、親が俺の部屋に布団を運んできて、敷いた。俺は無理やりベッドに潜らされた。


「そんじゃもうねなよ~」

 親はそう言うと、俺とミカを残して部屋を出ていった。

 これはどういう状況なのか、全くわからない。

 まず、なぜミカは俺の部屋で寝ることを選んだのか、それとなぜ親はそれに協力しているのか、女嫌いの俺は楓花というストッパー無しで長時間女性と一緒の部屋に要られるのだろうか。

 そして最後に、なぜミカはそんなに無警戒な格好でいるのか、何から何までわからない。

 いや待て、ブラは寝るときは苦しいから外すとか聞いたことが、じゃあそれにはなんの意味もないのかもしれない。

 リビングはソファーくらいしか寝られる場所はないから、親が失礼と判断しただけかもしれない。

 女嫌いは、もう我慢してくれってことなのだろう。

 じゃあこの状況は、何も不純だったり特別であったりするわけではないと言うことか。その後も物思いに耽っていてなかなか寝られなかった。

 後ろからミカの声がした。時計は12時を回っている。親はもうとっくに寝ただろう。


「ねぇ、楓。ごめんね。あの日言ったこと全部ウソなんだ。私ホントは浮気の噂なんて信じてないし、楓に冷めたり、嫌いになったりもしてないよ」


 ミカがまた泣き出しそうなほど細い声でそう言う。


「わかってるよ。泣き虫のミカが泣かずに、あれを言い切ったんだから、それだけ大事なことだたんだよね」


ああ、今日の俺はなぜこんなに偉そうなんだろう。


 体を床のミカの方に向ける。ミカが言う


「そんなに泣き虫じゃないし!他の人よりは涙もろいかもしれないけど赤ちゃんじゃないんだからねっ」

「わかったよ」

 

 笑いながら答える。


「ねぇ、楓さ。楓花ちゃんと結婚するつもりなの?」

「あっちが嫌じゃなきゃそうするつもりだよ。俺が普通に関われる女の人って少ないからさ」

「私は?関われる方に入ってる?」

「それは今日わかるよ、今のところは大丈夫」

「そっか。結婚しないって選択肢はないの?」

  一度話題を終わり、話題は終わりきっていなかった、1つ前の話題に切り替わる。


「うん、今日決めたんだ。俺久しぶりだったんだよ。女の人とこれからも一緒にいたいって思えたの」

「じゃあ仕方ないのかな。楓が決めるべきことを楓が決めたんだもん、私に口を出す権利はないよね」

「止めたいの?」

「そうだよ」

「なんで?」

「それは言えないよ。ごめんね楓。」

「いや、別にいいよ。でもごめん、俺は決めたんだ。ほんとにごめん」

「そっか、じゃあ。これでサヨナラ」

 

 そう言ってミカは俺のベットに上がってくる。そして、俺の唇にそっと自分の唇を重ねる。

 俺が言葉を失っていると、ミカは言った。


「最後くらい、許してネ」

 暗くてミカの顔はよく見えなかった。だが、部屋から出ていくミカは手紙と数滴の水滴を残して、静かに、家から出て行った。なぜだか分からないが、部屋の内と家の外には雨が降っていた。

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