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秒針が鳴り終わる前に  作者: 秋葉颯
6/8

4.ありがとう

暗い、何も見えない、何も感じない。まるで夢を見ているよう。

 過去の記憶が高速に正確に頭に流れ込んでくる。

 楽しかったこと、苦しかったこと、その他にも色々な記憶が蘇っていく。

 記憶が、現在に追いついた。

 次の瞬間、俺は謎の空間に放り出された。

 そこは、俺以外のすべてが白一色で、周りには何もなく、ただ広大な空間が広がっていた。しばらくそこで物思いにふけっていた。


 俺は馬鹿だ、女嫌いなんて言って。ミカが部屋を出ていったあと俺はミカを恨んだ。だけど、俺は本当は知っていたんだ。部屋の前でミカが泣いていたことを。本当はあの時慰めないといけなかった。

 今考えれば、俺はミカを恨みたかったわけではなかったんだと思う。俺が本当に恨みたかったのは、その場の怒りに支配されて、ミカが悲しいときに何もできなかった自分だったんだ。

 だからさっき、ミカが苦しんでいるのに何もできない自分が嫌だった。それで激しい動悸を起こしてしまったのかもしれない。


 ぽちゃん

 後ろから音がした、俺はとっさに振り向く。

 後ろには、俺がいた。

「よぉ」

「俺」に声をかけられる。

「お前はなんだ」

「冷てぇなぁ、もうひとりのお前だよ、お前が恨んでやまないもうひとりのね」

 本能的に思った。こいつを倒さないといけない。

 こいつが、俺の怒り、恨みの原因だ。俺が一番恨みたかったもうひとりの俺だ!

「うおおおおお」

 その声と共に思いっきりもう一人の俺を殴る。

 俺の拳はあいつがガードしていた顎より下、腹に直撃した、鈍い音がなった。

 それは言い表すとの難しいような、骨が折れる音と、腹を殴られたときの音と、人の嗚咽と、なにかの唸り声が全て合わさったような音だ。

 相手は数メートル吹っ飛んで起き上がった。

 その時俺は一つの感覚を味わった。


楽しい。

もっと殴ってやりたい。

あいつを殺してやる。


 俺の心の声はついに口に出た。

「ああ!たのしい!殺してやるよぉ!!」

 もはや自分ではなかった、その時俺の目から涙がこぼれたが気にしない。

 俺は倒れたもう一人の俺の方めがけて走り出した。

 幸い相手はその場から動いていない、馬乗りになって殴る。

 だんだん口元が緩んできた、自分がどれだけひどい顔をしているかなんて考えたくもない。

 ああ、人を殴る欲望に支配される。


なんだこれ、気持ちいい。


 

 何がどうなっても知らない。もういいんだ、ただ人を殴っていられればそれでいい。

 だが、つぎの瞬間俺の閉ざされかけてていた心の蓋を持ち上げてくるような感覚に襲われる。

 何かが俺の背中に触れている。

 それは、俺の欲望を一欠片も残さず消し去っていく。

 ワンテンポおいて、もうひとりの俺の舌打ちと共に視界が白く染まった。


 突然自分の体の5感が戻る。痛い、眩しい、うるさい。その感覚が一気に脳に流れ込む。

 そしてもう一つ感じた、温かい。この温かさは、昔親に抱かれた感覚を思い出させる。


「楓花?」


 予想は当たったらしい。真後ろから声がする。


「·····そうだよ」

「えっと、これって……」

「ねぇ……楓くん、謝って」

「え?………ご、ごめん」

「よし、じゃあ全部許してあげる。」

「あ、ありがと」


 そう言われるがままに謝ると楓花は納得した声をして俺を許してくれた。そして夏希とミカの方を見て言った。


「二人もそれでいい?」


 その質問に二人が答える。


「ああ、別にいいよ」

「うぐ……いいよ」


 ミカは口から血が出ていて少し苦しそうだった。


「だって、良かったね」

「う、うん」


 未だに状況が理解できないが、俺は謝らないといけないことをしたらしい。


「楓花!大丈夫?!今人呼んだからね!」


 いきなり大声で壁から飛び出してきたのは咲だ。


「咲、大丈夫だよ、全部終わったから。」

「終わったってどういうことなの?うわっ、この倒れてるチンピラ共なんなの?」

「楓くんがやっつけたんだよ」

「へぇ……楓あなた結構強いのね」


 それが俺に対しての質問として発せられた言葉なのか!チンピラが倒れている理由に納得して発せられた言葉なのかは分からなかった。が、一応返事をしておく。


「うん、そうみたいだよ。でもなんか全く記憶がないって言うか……」

「なによそれ、あなた日本語話してる?」


「それ以外の何に聞こえるんだよ」とすかさず夏希がツッコミ(もはや揚げ足だが)を入れる。

「別にいいでしょ!言葉のニュアンスの問題よ!」

「声がでけぇっての、せっかくの暖かい空気滅茶苦茶だぞ?」

「は、話をそらさないでよ」

「あ、声ちっちゃくなった。くくく」

「う、うるさいわね!いいのよ少し元気なくらいが!」

「ふん、」


 次の言葉を夏希が発する少し前に都合よく風が通り抜け夏希の髪を揺らす。夏希は言った。


「お前みたいにちょっと顔が美しくて髪がサラサラなだけの女じゃうるさくなるだけだぞ」

「なっ、美し、は?」


 どこからともなく咲の下から風は吹く。咲の楓花より少し短いくらいの髪の毛がふわっと浮く。俺は言う。


「夏希、それアウト」

「え?嘘、楓、今の殺っちゃった?」

「着火してたよ無自覚女殺傷爆弾、それと字を殺す方にするな」

「そんな物騒な名前いつついたんだよ、」


 今のは昔からの夏希のくせ。あの無自覚女殺傷爆弾で夏希は中学の時クラスの女子を堕としまくっていた。



 しばらくすると人が来た。何人かの教師だ。俺は正直に事情を説明した。すると暴力はしてはならないが正当防衛ではあった。と正当防衛を認めてもらい、少し罪が軽くなるかもと期待していた。

 案外早く開放されたので、咲、楓花、ミカ、夏希、そして俺の五人でどこかに行こうという話になった。

 俺たちは行くあてもなく色々話しながら、学校を離れていった。

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