最強パーティを追放された主人公が美少女幼馴染と色々見返す話。
短編です。
追放もの書いてみっか、と思っただけです。
いつもの短編と少し様子が違う……。
「今回ので決まりだな。お前はこのチームにはいらない」
「ま、そういうことで。出てってもらおうか」
「せめて優しい誰かさんに慰めてもらうんだな」
「悪いとは思わないよ。当然の帰結だ」
「皆、そんな言い方しなくても……」
頭上から降り注ぐさっきまで仲間だった奴らの声。
この事態は俺の弱さが引き起こしたことだ。
それは理解しているし、納得もしている。
「いや、いいんだ。これからどうするかはちょっと考えるけど……世話になったな」
長く連れ立った皆の背を見ながら、その場に立ち尽くす。
つい目を背けてしまうのは、階段の窓から差し込む光が眩しいからだ。
中には気遣ってくれる奴もいたが、決定に否を唱えることまではしなかった。
さっきまでチームだった皆だが、もう味方ではない。これからは敵になるのだ。
向こうも互いの立場は理解している。これ以上、惨めな弱者に余計な言葉をかけるようなことはしなかった。
「さて……まずは仲間探しか」
一人になり、周囲を見渡す。
何だ何だと湧いた野次馬が、事態は終わりかと白けた様子で捌けていく。さっきまで他人事の仲間割れを煽っていた奴らも、目が合うと蜘蛛の子を散らすように去っていった。
自らが当事者になる気はない小心者共。その他大勢の有象無象でしかない。
だが、烏合の衆の中で特に華型だったパーティから溢れた俺も、今日からはその中の一人だ。
「……クソ」
苛立ちと諦め混じりに、足元を蹴る。
力を入れた一撃に痛みはなく、しかし胸の内の靄を晴らすこともなかった。
今日から俺は、ぼっちになった。
「で、不貞腐れてると」
「そりゃな。折角最強メンバー揃ってたのに、俺だけハブだ。仕方ないけど」
「何でよりによってあなたになったの?別にバスケも得意でしょ?」
「じゃんけんでグリコして負けた」
「アホくさ」
「元はと言えば今日からバスケって昼休みにぶっ込んだ体育科教師が悪い!事前に言えばチームももっと考えようあるだろ!」
他の人間は全て、それぞれ5人組を作って各々で練習をしている。
少年は、残りもの同士で溢れた幼馴染の少女とパスを投げ合っていた。
体力が有り余った午後イチの授業だが、反して授業へのやる気はダダ下がりである。
「そもそも男女混合なのも私としては言いたいところがあるけど」
はぁ、と溜息か息切れか、少女が大きく息を吐く。
釣られて見渡すと、複数ある集団それぞれの内の女子の人数、もしくは女子が固まった集団はほんの僅かだ。
「女子の体育選択者、意外と少ないからな……」
「夏に水泳があるせいね。水着、嫌だもの」
「ああ……見たい男子は多そうだもんな」
「そう言うあなたは?」
「……ノーコメント」
ほらね、とやや強めに球を投げる少女。
その瞬間にもつい、半袖のジャージから覗く白い二の腕が意識を誘引するが、幸いにも少女がその視線に気付いている気配はなかった。
じゃあ具体的に誰のを見たい?とまで聞かれていれば、探られる腹は痛くないが恐らく胸は痛くなったことだろう。
「百歩譲って見られること自体はいいの。馬鹿に馬鹿な反応されるのと、見てもいい人間以外に見られるのが嫌」
「ちなみに俺は?」
「幼馴染のよしみで、耐え難い妄想じゃなければ許す」
「耐え難い、の範囲次第だな」
「口に出して確認してみたら?」
「おいおい、授業中に何てこと言わせるんだよ」
「あら、公衆の場では言えないようなコトなのね」
自分は見てもいい分類の男なのかと、勇気を出して漏らした確認のための言葉は、しかし男子の性根から寧ろ最低な評価を受ける理由になってしまった。
心なしか少女が投げるボールも当たりが強い気がする。
軽口を叩けるのは距離が近い幼馴染ゆえだが、だからこそ意識されないジレンマだなと、少年は溜息を飲み込んだ。
「まぁ、負けちまったもんは仕方ない。仕方ないが!どこも入れないってのは流石にショックだ!」
代わりに沸いた鬱憤を、非難を込めて吐露する。言の勢いに反し、放ったボールは空中に緩やかな弧を描いた。
結果として気のある幼馴染と補欠ペアの扱いになっていることだけはラッキーだったが、それはそれとしてバスケを十全に楽しめないのとは話が違う。
「あなた、そんなに友達いないものね」
「いるわ。他の奴らも結束強いんだよ。ていうかそのままカウンターだろ、お前もハブだろ」
「私は何度か誘われたけど気を遣って断ってるの。他に溢れる子が出ても嫌でしょ?」
「何その献身精神。誰にも拾われなかった俺への当てつけか?」
「自分のためよ。こういうのって、熱量が違うとやり辛いじゃない」
「冷めてんなぁ……体よくサボりやがって」
「失礼ね。私だってやる気は熱々よ。ほら、見なさい!」
「おまっ、バカか!」
少女がわざと、見当違いの強さでボールを投げる。
少年の頭上を軽々飛び越えたボールは、このままのルートだと丁度開いていた通用口からその先の校庭に躍り出るだろう。
丘の上という立地の都合、体育館は校庭より少し盛られた高さにある。外に出れば、バリアフリーの緩やかな坂が続く。転がるボールがどうなるなんて、火を見るより明らかだ。
少年は焦って飛び出し、シューズと床が軽快な音を鳴らした。
「ほーら、捕まえてご覧なさーい。戻って来るまで給水してるから、ゆっくりでお願いね」
「それならそう言え!走らすな!」
「体力有り余ってるんだからいいじゃない」
「お前が!言うな!」
「じゃあ俺が言うが、ガラス割らすなよ!ほらダッシュ!」
「ダァーーッ!!」
見ていた教師にも笑いながら発破をかけられ、少年は走る。
不運にもぶつかった段差で更に勢いをつけたボールをやっと捕まえ、校庭でラグビーをしていた別の学年のクラスに怪訝な目で見られながら戻って来ると、相棒はベンチでのんびり休んでいるところだった。
「おい」
「おかえり。水飲む?」
「飲む」
はい、と手渡されたペットボトルの紅茶は喉がベタつくほどの甘さを伴っていた。
「ていうかお前も運動出来ないわけじゃないんだから、どうせならもっと真面目にやれよ」
「こう見えて、私なりに全力の態度よ」
バスケットボールは、ひ弱な女子なら5メートルも飛ばせない。
それをクラスでも運動大得意グループに属する自分を全力疾走させられるくらいなのだから、と嫌味を込めながらジト目を向ける。
少女はどこ吹く風で、持っていたタオルを差し出す素振りを見せた。
「今の飲み物渡すの、マネージャーみたいで良くなかった?」
なんなら可愛過ぎたのでそのタオルも借りていいか、と気持ち悪いことを言い出しかねない少年は、気を逸らす。
「せめてスポドリにしてくれ。飯食った後の全力疾走でコレは喉乾く」
「全力疾走なんかするからじゃない」
疲れた体に丁度いい甘さよ、と彼女が返されたお茶を飲む。
間接キスなど気にしない振る舞いに、少年だけが意識してるようで体に張り付く汗を感じた。
「誰だよ、走らせたのは」
「一回やってみたかったのよね。『捕まえてご覧なさい』って走るの」
「おい、最後笑い堪えられてないぞ。それならむしろお前も走れ」
そして捕まれよ、と少年は思う。
「残念だけどパス練は終わり。あとはゲームみたいよ」
「っしゃ!……って言っても出番あるのか?」
「順番でちょくちょく交代だって。頑張って」
「お前も出ろよ」
「そんなに私の活躍を見たいの?」
「いや、昔から運動得意なんだから、ただのサボりも勿体無いだろ」
「今はこっちの方がいいの」
「ふーん……」
別に異を唱えるわけではないが。
思えば、小さい頃から……小さい頃だから、というのもあるだろうが、どんな遊びも一緒に精一杯だった幼馴染だ。
年頃だけに変わってしまったものだなと、ベンチの隣に座り、横目で彼女を盗み見る。
少し汗ばんで頰に張り付いた髪。
熱ばんだ白い肌。
体の線を想像しやすい、学校指定ジャージ。
最もは、近付くと漂う甘い香りが彼の意識を離さなかった。
「何?」
見られていることに気付いた少女に声をかけられ、少年は我に帰る。
「何も。勿体ねぇなって」
変わったのは少年だって同じだ。数年前は、この少女をこんな目で見ているなんて想像だにしていなかった。
そして幼馴染の距離のまま、最早今ではアプローチの仕方も分からない。立場に甘えて勿体ない時を過ごしているのも、誰だろうか。
人のことを言えないなと、中央で始まっていた試合に意識を逃す。
コート上では、丁度少年をハブにした、いつメンのチームが元気なオタクくんたちのチームを蹂躙し始めていた。
「勝ち馬、乗り逃がしたわね」
「……いや、逆に抜けてよかったかも知れん」
あまりにもワンサイド。
バスケは楽しいが、あれでは張り合いが無さすぎる。内輪で2on2なりしてた方がまだ試合らしいだろう。
「確かに見てると可哀想。勝ってる方をカッコいいと思うより、負けてる方を応援したくなるのは日本人の性かしら」
それなりに試合に魅入っている幼馴染に、少年は生返事と共に首肯する。
抜けて良かったと、心底思った。あの中でなら、他のチームメイトより良い格好をしようと気張りに気張り散らかしていた。
すると、この冷めた少女からの評価はきっと「イキリ太郎」になっていただろう。
「じゃあ、逆転勝利みたいなのが一番熱いってことか?」
「ま、そうなるわね。出来たらだけど。勝てるチームなんてないでしょうし。あなたなら止めれる?」
試合を見てるフリをして、どうだろうな、と聞き流すフリをする。
つまり、少年は天から告げられているようだった。
『最強チームを打倒せよ』と。
一人意気込んでいると、試合も最終盤に差し掛かり、審判である体育教師が交代を告げる。
「ほら補欠、全試合出させてやるからいつまでも彼女とイチャついてんな」
「(まだ)彼女じゃねぇです」
「そうです。ここから逆転するスター性があるなら考えますけど」
「だとよ。気合い入れて行ってこい。あいつら止めれたら実技の成績最高にしてやるよ」
「マジすか、任せて下さい!」
決して少女が挟んだ言葉を意識したわけではない。という風を装い、お先に出るぞと自然にベンチを振り返る。
少女は相変わらず何を考えているのか涼しい顔だ。後半ほとんど休憩してるのだからそれはそれは涼しい。
少女にか、教師にか。適当なこと抜かしやがってと、少年は腹を据える。どっちの比重が重いかなんて、考えるまでもない。
そんな簡単な言葉に振り回されるこっちの気も知らないで、今に見てろと靴紐を結ぶ。
「ただ、せめて20点差からはエグいからもうちょい何とかなりません?」
「活躍次第ね」
「活躍次第だな」
少年は本気の気合いを入れる。
自分を追い出したチームだけに良い格好をさせないために。
澄ました顔でいじらしく応援してくる少女を、見返すために。
勝たんまでもせめてより多く得点せんと八面六臂の活躍を見せる少年を眺める少女に、友人たちは集う。
「ていうか、一緒に出なくてよかったの?」
隣に座る友人からかけられた言葉に、少女はやれやれと首を振る。
「スポーツって見てる方が楽しいわよね」
少女は、何なら今の少年のチームメイトなんかより、余程上手いと言えるだけの実力はある。
でも、その舞台で隣に立ちたい訳じゃない。どうせ遊ぶにしても、気の抜けたキャッチボールで戯れるくらいが丁度良い。
いつからだろうと少女は思う。
同じ目線だけじゃなく、後ろから、遠くから幼馴染の少年を焦がれることにも悦びを覚えたのは。
スポーツマン、ステキ。カッコいい。
「でも負けてるの見るのもイヤじゃね?」
別の友人が問う。
首を振り、分かってないわねと、少女は微笑む。
「どっちでもいいの。頑張ってるのを見るのが良いんだから。どうせムキになっちゃって、可愛いじゃない」
負けた方を応援したくなると言ったが、正確には嘘……というより語弊がある。
それはあくまで全体的な話で、個人に限って言えばその人が活躍してれば何だっていいのだ。
コートの上では、少年が初ゴールを決めているところだった。
目線が合ったので、ガッツポーズに手を振っておく。
「っかー、これ見よがしに。で、わざわざ先にチーム抜けといて、満足か?こっちは大いに戦力ダウンだよ!」
この色ボケがよ!と友人に抱きつかれる少女。ごめんねと返しながら、その友人の頭を撫でる。ついでに汗で暑いので、引き離す。
少年がいつものチームを外され、実力差から他のチームにも入れてもらえなさそうと分かった途端。2クラス合同の体育選択者の人数が32人だと思い出してからの少女の行動は早かった。
「どうなのかしら。全力で挑んではいるんだけど。あの朴念仁、水着の時も特に反応なかったし」
こっちは余程受け入れ難い妄想以外なら、全部許すのに。なんならそれすら相談してくれれば……なんて、思考が先走る。
せっかく遊ぶ用の水着も買ったと報告したのに誘いもされないなんて、自分の価値を疑いっぱなしだ。
「明らか気はあると思うけどねー。幼馴染でしょ?言わずとも分かるんじゃないの?」
「……あの人、そういう露骨な態度は避けるから分からないのよね」
憎からず想われてはいる、はず、と少女にも自覚はある。そう思いたい、希望がある。
ただそれが異性としてなのか、幼馴染としてなのか、友人としてなのかは、分からない。
分からないからこそ。
「それに、こっちだけ本気なんて、悔しいじゃない。絶対見返してやるんだから」
想いよ届けと、無双を続ける少年を見つめるのだった。
幼馴染の友人たちは思う。
まずは自分たちのなりふり見返して来いよ、と。
モブが!喋った!