6話 よろしく
◆◆◆ ◆◆◆
…緊張する。久しぶりに着た局の制服以外のピシッとした服。きちっとした髪。いつもよりも動作に気を遣って歩いている。隣のウルキアも普段の局で見かける姿よりも礼儀がなっている。
今日は魔法学園の入学試験だ。一部の教員は知っているが職員も含め監視対象なので試験を受けなくてはならない。まぁ僕もウルキアも余裕で受かると思うけどね。
僕は表向きはリザードの魔人いうことになっている。だから本気で試験を受けることはないけど炎の魔法や最悪魔人化ーー鱗の出現までは大丈夫だ。つまり普段とあまり変わらないことまでできるけど、それもあまりしない方がいいだろう。
特に話すこともなく、無言でウルキアと学園を目指す。と、
「どうしよう……がないと……も…の…いだよ…」
「…と入れたよ!私……い…ない!」
男女の声が聞こえてきた。目を向けるとそこには容姿がよく似た少年と少女がいた。僕たちと似たような格好をしているから受験者だろうか。
「ウルキア、あの子たちの話聞いてきていい?」
「面倒ごとには首を突っ込まないで。悪目立ちはバカのすることよ。大体私たちはあくまで三年間の監視をこなすだけ。馴れ合いなんて必要ない」
「あ、そんな感じの口調でいくんだ…。でもさ、僕あんまり同年代の子と話したことないし、少しでも知り合いは多いほうがいいじゃん?」
「…彼らが受かるか私しらないのよ?まぁたしかに彼らと知り合えば彼らの知り合いにも通ずることができるので一理あるけれども、私はここで待っているので勝手に行ってどうぞ」
僕はありがと、と軽く手を合わせ二人のところに向かった。2人は少女の鞄の中から何かを探しているらしい。
「ねぇっどうしたの?何か困りごと?」
二人は僕のことをバッと見て、困惑した顔をした。
「…君は誰だい?なんで僕らに話かけたんだい?」
少年の方が少女を庇うように前に出てきた。
「んー、普通に困ってて何かできることないかなーって。二人とも今日魔法学園の試験を受けにきたんじゃないの?せめて試験が始まるまでくらい仲良くしたっていいじゃん」
「ごめんなさいっ!私が無くし物しちゃっただけなの!そんな…人に頼るようなことじゃなくて…」
「ふーん…まぁいいや、学校まで一緒に行こうよ!僕はロンだよ、あっちにいるのはウルキア!」
「えっと、私はハンナ…です…」
「僕の名前はフォーダだよ。学校に着くまでの間も歩くだけの関係だから覚えなくていいけどね」
二人を連れてウルキアのところに行くとため息をつきながらも了承してくれた。四人でしばらく雑談をしながら歩く。
「フォーダとハンナはどんな関係なの?」
「普通に兄妹だけど何か文句あるかい?」
「兄さんっ!そんな言い方…。えっと私たちはアルキュリって言う東の方の村から来ました。お二方はどのような関係なんですか…?」
「私たちは南方の同じ村の出身なの。まぁ一緒にいるだけであまり深い関係ではないわ。二人は…人間なの?」
「えっと…はい。ただ魔力を測定した時にかなり高いってことが分かって…両親が魔法使いになる道を示してくれたんです」
「へー。ちなみに僕たちは魔人だよ!炎系の魔法が得意だけど、寒いのが苦手なんだ」
ーー魔人も、人間も、共に魔法を扱うことができる。魔力を使うことで適性のある属性の魔法を放てる。魔人は少数の属性が突出していることが多い。他の属性はかなり適性が低いことが多いが、その分身体能力に優れている。
魔人は一定の強さがあるが、人間は様々だ。てんで何もできないものもいれば、全てを卒なくこなすもの、魔人のように一つの属性に長けているものもいる。つまりは才能がモノを言う。貴族は生まれつき魔法に優れている人は多いし、子供の頃から家庭教師をつけるなどして早めに魔法を学習するのだ。この二人が庶民で魔力が多いから魔法学園に入学が見込まれているとなればかなりの才能があるのだろう。
ーー僕は、どんなに試験でヘマをしようが、合格が約束されている。自身が悪くないとはいえ、なんだか後ろめたい気持ちになって歩いた。
ウルキアとフォーダは自分から話題を作ろうとせず、しばらく無言が続く。そしてハンナが重苦しい雰囲気に耐えきれなかったのか口を開いた。
「えっと…その…なんていうか……。私、こんな大きな街に来たのも初めてでっ、本当に辺境の村から来たので…私と、えと、お、おと、お友達になってくれませんかっ!」
ハンナはボンっと顔を赤くし、僕たちに手を伸ばしてきた。…こういう時、なんていうんだっけ。
ああ、そうだ。
「よろしく、ハンナ」
「ええ、こちらこそよろしく」
流石にウルキアも応えた。
「ほら、フォーダも!よろしくの握手!」
「ふん、馴れ馴れしい…なっおい君!勝手に握手をっ…。…よろしく、ロディ、ウルキア。ほらっこれで言ったぞ!早く僕の手を…ああっ!おいっ!」
…試験、できる範囲でだけど本気で挑もう。僕はこの三年間を任務もやりつつ、本当に学園生活を送ってみたい。ずっと一緒にいられるわけないし、
本当の意味で僕たちが分かり合えることはないだろうけど、それまでは…
「よろしく」
ポソリと呟いた。




