森の奥へ
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「それでは今から第二試験の説明をします!!」
後から来た若い女性の試験官が音声拡張機で説明を始めた。第一試験は基礎的な魔法のテストだった(らしい)が、次はもう少し難しくなるらしい。
と言ってもそこまでレベルは高くないだろう。防衛局に勤めている人の中には割とこの学校を卒業した人が居るが、共に卒業し面接を受けた友人が防衛局に入れなかった、ということも多いらしい。防衛局の任務よりもこの入学試験の方がはるかに簡単なはずだ。
「私の後ろを見てください。あの森が第3訓練場です!!」
「嘘、ここが第3訓練場じゃなかったの!?」と言ったざわめきが周りから聞こえる。初等学校や中等学校の訓練場といえばグラウンドだったので無理もないだろう。しかし実践的な訓練をするにはグラウンドだけでは厳しいのは明らかだ。防衛局員の訓練場もさまざまな種類があって中には天候を変更できる訓練室とかもある。
「皆さんには今からこの森に入ってもらいます。そして今から皆さんに1人一枚づつ配られるこのカードを4枚集めた人はそれを所定の場所へと持ってきてください。森のどこからスタートしても構いませんが、合図が聞こえるまでは他人を攻撃しないでください。ルールは以上です。試験全体に関する質問は受け付けません」
僕はウルキアに小さく「森の一番奥に行こう」と言った。試験官の女性は協力するななんて一言も言わなかったし、4枚集めれば文句を言われることもないだろう。というか協力しても良いことを意図的に言わなかった気さえする。
「それでは受験者の方は森へ入ってください!」
僕とウルキア、それとマルス嬢は最初の方に来たので比較的森に近い場所にいた。僕が森に向けて走り出すと「あっ…待って!」とマルス嬢が声をかけてきた。
「何?」
「そ…その…あなた方は行動を共にするんですの?」
「ええ。禁止されているわけではありませんし、そちらの方が効率が良いと思いまして」
「…私も一緒に…行動させてくれません…か?」
ぎゅっとマルス嬢は目を閉じて頭を下げた。これには僕もウルキアも驚いた。トルッシェ家といえばこの国で知らない人が殆ど居ないほどの名家だ。
思えば一見マルス嬢はプライドが高そうだけど「間違えてはいけない」と言ったり素直に頭を下げたり権力がかなりある筈なのに一般人と同様に試験を受けにきていたり、意外と傲慢な貴族では無いのかもしれない。
「ええ、もちろん大丈夫ですよ」
「うん、僕も」
ウルキアと僕の答えにマルス嬢は微笑んで「ありがとう」と言った。正直貴族であろうとしているマルス嬢よりもこっちの方がいいな。
「じゃあ行くよ!」
僕は森の奥へと駆けた。ウルキアも続く。「ちょっと!お二方!速すぎですわ!」とマルス嬢は言っているけどちゃんと頑張って付いてきている。
目指すのは森の最奥。なるべく奥の方でスタートしたい。森に入ったすぐのところはかなりの人数がいて混戦になるはずだ。
森をまぁまぁの速さでほぼ直線に移動し、一番奥にたどり着いた。森の端は第3訓練場と書かれたプレートのあった柵と同じ柵がある。第3訓練所はぐるっとこの柵で囲われているようだ。
「作戦、と言う程の事でもないけど…この中だと一番ウルキアが索敵能力に秀でてるから、敵を見つけるのはウルキアにやってもらおう。僕は一番戦闘が得意だし。マルス嬢はなんの魔法が得意?」
「ええと…ちょっと小細工をしたり…回復をかけたり…ですかね。攻撃なら風魔法が少々使えますわ」
「じゃあサポートしてくれる?」
「勿論ですわ!」
その時ビーーーーっと大きな笛のような音がした。試験開始の合図だ。一応来る時に確認したが視認できる程近くに他の受験者はいなかった。
「…正面から来る。距離はまだまだ遠いわ。私たちの場所を正確に把握しているわけではなさそう。森に入る時に同じように真っ直ぐ進んだ連中が私たちを狙っているんだと思うわ」
「じゃあ僕木の上にでも居ようかな。来たら飛び降りるから」
「ええと、ええと、私は…ロディさんが飛び降りた時に風魔法で攻撃しますわ。それまでそこら辺の木の後ろにでも隠れますわ」
僕は一頷きすると木の上にするすると登った。結構下の方に枝がない木だけど鋭い爪があれば簡単に登れる。マルス嬢は僕のいる木とは違う木に隠れた。まぁまぁ良い位置なんじゃないかな。
索敵兼囮役のウルキアは普通に立ったままだ。そのまま数分待つ。どうやら敵は歩いて僕達を探しているようだ。結構呑気だね。罠魔法とか使える人がいるとアドバンテージを与えてしまう事になるのに。まぁ僕たちも移動の時に姿を隠さなかったろしたけど。
「いたぞ!紺色の髪の女子だ!」
大声を上げて走りだしたのは男子3人組だ。一目散にウルキアに向かっていく。僕の木の下に来たタイミングで飛び降り、1人の首をそのまま絞める。動揺した2人のうち1人はウルキアがさっさと倒した。残りの1人が不利を悟り逃げ出そうとした瞬間、風が強く鋭く吹き、咄嗟に顔を庇った腕を切り裂いた。マルス嬢が木陰から出てくる。
「2人ともとても早くて間に合わないかと思いましたわ…」
マルス嬢にやられた意識のある1人は勝てないと判断し「どっどうぞ!」と言って恐れながらカードをくれた。別に命を狙ってくる敵でも悪い奴でもないのでこれ以上何かすることはせず、その場から離れよう、と僕は言った。でも、マルス嬢は
「大丈夫ですの?」と言って3人に回復魔法をかけた。彼女は他人を思いやることができる。味方も多くできるだろう。でも…
(ああ、彼女のこの性格はいつか命取りになる)
マルス嬢は3人の怪我が満足するところまで回復すると「行きましょう」と僕達に声をかけてきた。
「で、どこにどうして移動するんですの?」
「「…」」
「え?なんですの?」
「戦闘の音がしたら人が集まってくるかもしれないので場所は変えるべきかと」
「それにきっとしばらくしたらみんな森の奥を目指してくる。それまでに罠とか仕掛けられたらいいからいい場所に移動したいなって」
「…よく分からないけど分かりましたわ!」
マルス嬢はむふんと笑顔を浮かべぐっと拳を握った。…とても良家のお嬢様には見えないけど。
…みんな、カードが何枚か集まったあたりで森の奥を目指してくるはずだ。明かされない「所定の場所」、カードを取られた人もカードを求めて場所を変える。
僕達は今それぞれのカードに加えて1人一枚づつ持っている状況だ。あと合計で6枚。楽勝だ。でもどこまでカードを取っていいのか迷うなぁ。本来合格するレベルの人のカードを取ったら行けないし…。さっきの3人の分は取っちゃったけど、余計な戦闘は避ける方針でいこう。
僕達は柵に沿って移動を始めた。




