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9話 マルス嬢の慟哭?

         ◆◆◆ ◆◆◆


「一番乗りですわっ!」


 土煙を立てるほどの勢いで第3訓練場に入ってきたのは一人の少女だった。


 変な風にぐるぐるした淡い緑色の髪、動きにくそうなドレス、なんだか気の強そうな顔。どこからどう見ても傲慢なお嬢様、ていう感じの子だ。


 そしてその子は僕たちを見て「なっ!私が一番だったはず!貴方達なんなんですの!」と声を張り上げて言った。


「僕たち受験生でフツーにここに辿り着いただけだけど…」


「それはおかしいですの!私はホラ、天才ですから!一次試験の指示があってすぐに出発して誰も私に追いつけないまま来ましたのよ!」


「いやーでも僕たち現にこうして居るし?」


「…そこの貴方!」


 ビシっとさされた先にはヴェルジェという試験官がいた。肝心の彼は気の抜けた感じで頭をぼりぼり掻きながら「なんだぁ?嬢ちゃん」と言った。


「貴方は試験官ですわよね?この方々はいつからここにいらっしゃるのかしら」


「ん〜そいつらが言ってることはホントだよ。少年の方が超優秀。説明もなしにたどり着けたんだ」


「……信じませんわよ。どうせイカサマをしたのでしょう!」


「いやしてないけど。試験官いるじゃん」僕が答える。


「否定したって無駄ですわ!それに待ち構える数々の、夥しい数の試練がありますわ!試験で貴方達は残れませんわ!きっと!」


「試験残り2つしかねぇけどな」ヴェルジェさんが答える。


「えっ…!魔法実技試験と筆記試験がそれぞれ複数にわたり行われるはずだから…あれ!?」


「内容までは知らされてないけど…実技が2、筆記が1つだけだから残り2つで合ってるはずよ」ウルキアが答える。


「そんな…私は…間違えちゃいけないのに…うぅっ…!」


 あ、やば、と思った時にはもう遅く。お嬢様みたいな子は突然涙ポロポロ出してうわぁ〜ん!と泣き出した。


…なんか可哀想になってきた、気がする。ていうかこれくらいで泣いちゃうんだ。ちやほやお嬢様っこなのかな。




 その後も軽く雑談?をしながら他の受験生の到着を待つ。正確には第一試験が終わるまで主にヴェルジェさんが話しているだけだが。


「いや〜少年のせいだよ、全部。本当は俺が透過魔法を使って見破るところまでが試験だったのに。話してたら他の子来ちゃうし」


「えっとすみません…。ところで君もう大丈夫?」


「うっぐっ…。も、もう大丈夫ですわっ…!」


「ええと、そう。…私はウルキアと言います。差し支えなければ貴方の名前を聞いても?」


「勿論。私はマルス・トルッシェ。遥か昔から続くトルッシェ家の長女ですわ」


「へぇ。僕はロディだよ。マルスさんは長女って言ってたけど兄弟いるの?」


「お兄様がいますわ。下の子は居りませんの。…今は」


「今は?」


「…もうすぐ弟が産まれるかも、とは言えますわ」


「僕兄弟とかいないからいいな。ていうか兄弟どころか小さい頃は大人に囲まれて育ったよ。同年代の子どころか遊べるような子がいなかった」


 ーー兄弟はいなかったけど、随分前、監視局に入る前はーー


 ふと昔のことを思い出す。母さん。みんな。一緒にみんなで暮らしていたのに。みんな死んでしまった。


「…私より貴方達の方が今暗い顔をしていますわよ?」


「え?」


 隣を見るとウルキアも暗い顔をしていた。


「…なんでもない。ただ貴方のことを羨ましいと思っただけ」


「そんなことないですわ。私だって貴族なのだから他の人よりも優秀でなければ…いけないから…」


 気まずい、暗い空気が漂う。


「あ〜とお前ら。ちらほら他の少年少女も来てるからな。暗い話はやめとけよ。まだ試験があんのにネガティブになってどーするよ!?」


 ヴェルジェに言われて周りを見るとポツリ、ポツリと人が来始めていた。もうすでに8人ほどは到着している。


 暗い雰囲気は幾分かましになったけど特に話すことがあるわけでもなく…。


 そのままほとんど会話をすることなく、第一試験の終了を後から来た試験官とヴェルジェが伝えた。


 マルス嬢の泣いた跡はほとんど消えていた。

 

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