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例えば私に魔法が使えたとして

作者: 下菊みこと

それでもきっとなにも変わらないでしょう

「ランちゃんみーっけ!」


そう言って誰からも無視されていた私の手を取ってくれたのは、貴方だけでした。


私は公爵令嬢ブランディーヌ・フランドル。魔力こそがモノを言う貴族社会において、魔法が使えません。所謂落ちこぼれです。ですが、そんな欠陥品の私にも婚約者がいます。リュカ・ラヴァル。侯爵令息です。私は一人娘なので、侯爵家の次男であるリュカがフランドル家を継ぎます。リュカは次男とはいえとっても美形で背も高く、勉強だって得意で、なによりも魔力が有り余るほどに高いのです。落ちこぼれの私などにはもったいない人です。しかし何故かリュカは私を大切にしてくれます。今この時も。


「ランちゃんはさ、天使なんだよ」


「なに?急に」


「天使は魔法が使えないんだって。だから、ランちゃんはさ、天使なんだよ」


「その分天使様には奇跡の力があるでしょう?」


「それこそやっぱりランちゃんが天使な証だよ!俺にランちゃんとの出会いっていう奇跡を起こしてくれたじゃない!」


「貴方って本当にお馬鹿」


「えー?なんでさ」


「私なんか放っておいて、可愛い女の子にちょっかいかけたって私は怒らないわよ」


「ランちゃんより可愛い子なんていないよー」


「本当にお馬鹿ね」


「えー?」


そんな優しい貴方が好きって言えない私が、ね。


ー…


あれはリュカとの出会いの時。


「リュカ。ご挨拶なさい。貴方の婚約者、ブランディーヌ様よ」


「はじめまして、こんにちは!」


「…はじめまして」


「まったく。お前は挨拶もまともに出来ないのか!この落ちこぼれめ!すまんね、リュカくん。君にこの出来損ないを押し付けるのは申し訳ないが、我が家は君に期待しているのだよ。是非うちの跡取りとして…」


父はいつも通り私を罵倒していたが、突如リュカがぱちんっ!と指を鳴らして、空から父に向かってタライが降ってきた。


「んなっ!痛い!なにをするんだね!?」


「こんな可愛い子を虐めるおじさんなんて嫌いだ!あっかんべーだ!」


「こ、こら、リュカ!」


「申し訳ありません、フランドル様!」


「ま、まあいい。どこを気に入ったのかは知らんが、リュカくんがうちの出来損ないを気に入ってくれたならそれに越したことはない」


「ねえ君、ランちゃんって呼んでもいい?」


「えっと、はい…」


「俺はリュカって呼んでよ!」


「…リュカ?」


「…っ!最高に可愛い!」


私は話についていけなかったが、突然抱きしめられて、この子は周りの人となんとなく違うなとわかって少しだけほっとした。婚約者にまで嫌われたくはなかったから。


「ランちゃん、かくれんぼしよ!」


「え?あ、はい」


突然遊びに誘われて戸惑った。周りのお友達はみんな魔力無しの私を蔑み、かくれんぼではいつもわざと見つけてもらえず取り残されてばかり。そしてそんな私を、父はお前が落ちこぼれだからだと罵るのだ。母は空気のようにただそこにいるだけ。庇ってもくれない。だからちょっとだけ怖かったけれど、それ以上にリュカに嫌われたくなくて頷いた。


けれどリュカはちゃんと私を見つけて手を取ってくれた。みーっけ!と言われてどれだけ嬉しかったことか。


けれど、それも今日までの話だ。


ー…


「婚約解消!?なんで!?」


「リュカ、何度も言わせないで。婚約解消はしないわ。ただ相手が変わるだけ。私の生き別れの双子の妹が見つかったの。あの子は魔力持ちよ。それも、二人分以上の魔力を持ってる。見た目も私とそっくりだし、貴方の婚約者にぴったりよ」


「やだ!絶対ランちゃんと結婚する!」


「リュカ…お願い」


「ランちゃんが他の男と結婚するなんてやだ!」


「それなら心配ないわ。私、修道院に入るから」


「え?」


「もう決まったことなのよ。あの子のいた修道院に私が入る。あの子は私として生きていく。私はあの子として生きていく。それだけのことよ」


「…意味が、わからないよ。そんなのだめだよ!ランちゃんはランちゃんだよ!」


「リュカ…さようなら」


「ランちゃん、待って!」


私はリュカの制止を振り切って屋敷に帰る。帰ったら私は妹と人生を交換する。


我が国では双子は不吉とされて、妹や弟の方は生まれてすぐに殺される。そうすると妹や弟の分の魔力は姉や兄に引き継がれ優秀な魔法使いに育つらしい。けれど、母は我が子可愛さに妹を殺したことにして修道院の前に捨てたそうだ。そして私は魔力を持たなかった。けれどそれで妹を恨んだりはしない。むしろ、生きていてくれてよかったとすら思う。ただ…あの子の魔力のほんの僅かでも私にあればと思わずにはいられないけれど。


私と妹は顔がそっくりだから、入れ替えは簡単だ。ただ、妹に貴族の令嬢として相応しい教育を受けさせるだけでいい。魔力についてはこの歳になってようやく覚醒したということにすれば良いのだ。私はただ修道院で生きていくだけなのでなんの問題もない。幸い、修道院にいるのは色々な事情を抱えている人ばかりらしいし、なんとかなる。


屋敷に帰ると、妹が父と母と抱き合って泣いているところだった。妹はこちらを振り返るとお姉様と私を呼んで抱きついてきた。


「お姉様!お会いしたかったです…!」


「…ありがとう。お名前は?」


「ブリジットです!」


「ブリジット…これから貴女はブランディーヌとして生きていくのよ。覚悟はあるかしら?」


「…え?」


「この出来損ないめ!まだブリジットにはなにも説明していないというのに!ブリジットを混乱させたいのか!それともブリジットを責める気か!」


「お、お父様…?怖い…」


「ああ、ブリジット。怖がらせてすまないね」


「ブリジット、ブランディーヌが言った通り、貴女はこれからブランディーヌとして生きていくのよ?」


「え?どういうことですか?」


「ブランディーヌは貴族の令嬢でありながら魔力を持たないわ。そこで、魔力の溢れる貴女と交換することにしたの。貴女には突然の病気で療養するということにして、しばらくは貴族の令嬢として相応しい教育を受けさせるわ。そして、ブランディーヌとして生きていってもらうわ」


「え?交換…?お姉様はどうなさるのですか…?」


「もちろんブリジットとして修道院に帰すわ」


「完璧な計画だろう?」


「そんな…っ!私達は道具じゃありません!交換なんて出来ません!お姉様は何故なにも仰らないのですか!?」


「だって、私は出来損ないだもの。貴女がブランディーヌになった方がみんな喜ぶわ」


「お姉様!そんな…っそんな悲しいことを思っていらっしゃるのですか…っ!?どうして!どうしてお父様もお母様もお姉様をそこまで追い詰めたのですかっ」


「本当だよねー」


緊張した場面には不似合いな、妙に間延びした声が響いた。


「…リュカ?」


リュカが王家直属の治安部隊を連れて屋敷に訪れた。何事?


「フランドル公爵、および公爵夫人。貴方方には長年に渡りご令嬢ブランディーヌ様を虐待し、またご令嬢ブリジット様の養育を放棄した罪の疑いがかかっています」


「なに!?」


「え!?」


「ご同行願います。また、その間の領地の経営はブランディーヌ様とその婚約者リュカ様に一任することとなっております。ブリジット様の養育もブランディーヌ様にお任せ致します」


「…え?」


私はなにがなんだかわからない。


「それと、これは独り言ですが…お二人は貴族裁判に掛けられますので、その間にさっさと結婚してしまい正式に爵位と領地を継承してしまうのがよろしいかと」


「どうもありがとう。連れて行って」


「はい。行きますよ、お二人とも」


「待て!離さんか!」


「せっかくブリジットに会えたのよ!今度こそ子育てを成功させるのよぉ!」


そうして二人は連れて行かれた。


「…お父様とお母様があんな人達だったなんて」


「ブリジット…」


「でも、お姉様もお姉様です!言い返さなきゃダメです!」


「でも…」


「でもじゃありません!」


「そうだよ、ランちゃん。これから忙しくなるんだから、しっかりしてね」


「…リュカが通報したの?」


「そうだよ?ダメだった?」


「ダメじゃないけど、どうしてそんなに早く王家を動かせたの?」


「前々から通報してたの。で、今日ランちゃんの入れ替えの話をしたらさすがに動いてくれた」


「前々から!?」


「うん。俺が爵位を継承したら速攻で牢屋に叩き込むつもりで」


「ええ…」


「えっと…お姉様の婚約者…さん、ですよね?お姉様を助けてくださってありがとうございました!これからよろしくお願いします!」


「ん。よろしくー」


ー…


「お姉様!今日はここまでお勉強が進みました!」


「まあ!さすがね、ブリジット」


「ふふーん。お姉様の妹ですから当然です!」


「ブリジットずるーい。ランちゃん、俺も執務終わらせてきたよ!褒めて褒めて!」


「よく出来ました!」


「わーい!ランちゃん大好きー!」


結局あの後、私達はすぐに結婚して、父と母が抵抗する権利を持たない今のうちに爵位と領地を継承した。ブリジットには貴族の令嬢として相応の教育を受けさせている。ブリジットは頭が良く、するすると知識を吸収している。今は三人で幸せに暮らしている。


「早く姪っ子か甥っ子に会いたいですー!」


「俺もだよー。早く、生まれておいで」


二人が私のお腹を撫でる。ここには新しい命が宿っている。


「リュカ、ブリジット」


「うん?」


「なんですか?」


「二人ともありがとう。とっても大好きよ」


「私もです!」


「俺は愛してる!」


こうして今日も、幸せな一日が続くのでした。

だって、今最高に幸せだから

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― 新着の感想 ―
[一言] 個人的には「我が国では双子は不吉とされて、妹や弟の方は生まれてすぐに殺される」けど,「ご令嬢ブリジット様の養育を放棄した罪の疑い」がかけられるという点が引っ掛かるかなぁ。
[良い点] 妹良い感じに育ってくれてよかったよね 孤児院じゃ無いところが良かったのかもね [気になる点] 「どうもありがとう。連れて行って」 これは誰の言葉なのだろう? 「ありがとう。」が繋がらなく…
[良い点] 修道院にいた妹がまともな事。 よくあるパターンでは、事実を知っても残っていた姉を羨んで両親の言う通りに入れ替わるのがお決まりですからね。 [一言] 生まれたばかりではわからなかないと言う設…
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