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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

小説の湧き出る小川2

新しい人生

作者: レモン

 ルイの夢はお金持ちで有名で人気者になることだった。

 彼は悪い人ではなかったが、そんなにいい人でもなかった。人に意地悪することはないが、心から嫌いな人もいた。不器用で、自分の気持ちを表出するのが苦手で、すぐ落ち込んだ。一方で大きな野望を持っていた。悪意などは持たず、純粋で素朴だった。意地悪でひどくて残酷な人が多い世界に若干の臆病心を抱いた。彼はナイーブで単純だった。とても普通で、常識もあった。とても優しい人だった―ただ、もう少し勇気と現実的な目標設定が必要だった。

 ルイの人生は彼の思い通りにはいかなかった。神様の思うようにいった。ルイはそれに対し、それほど不満を抱かなかった。ただ、本当は自分や人の幸せを祈っていたので、少し残念だった。

 彼は蹴られたり、押されたり、盗まれたり、刺されたりなど色々と経験したが、最後まで自尊心を保つことができて嬉しかった。とても寂しい人であった。でも何人かの人は自分のことを愛し尊敬してくれていることは知っていた。彼のファンクラブの人数は少なかったが、そういう人達を大切にしたいと思った。

 彼の死はみじめであった。しかし、ある意味勝利だった。彼は精一杯の力で人生を送り、神様、というより他の誰かに命を奪われた。時々、負けるが勝ちなのである。


 彼の最初の友達は泥棒だった。

 ルイは友達に盗むのをやめさせようとした。結果的には、彼は物を盗まれた。

 「ザック、もう盗むのやめた方がいいと思うよ。」

 「うるせえよ、くそ野郎。お前は自分を綺麗でいいと思ってる―そういう奴は大嫌いだ!地獄に行け!」

 『お前こそ地獄行けよ』ルイは思った。

 「お前は俺に彼女がいて、自分にはいないことを嫉妬してるだけだ!」ザックは嫌味っぽく言った。

 「そんなことないよ!」ルイは反論した。

 「だったらなんで黙ってねえんだよ?」

 「君が僕の友達だからだよ。」

 「友達?全くお前は純粋な奴だ。アリよりも脳が小さいがな!」

 ザックは大笑いした。

 ザックは盗むのをやめなかった。彼は巧妙でつかまることはなかった。でも、ルイはザックがいつも言うから事実を知っていた。ルイはザックも自分のしていることに少し罪悪感があるのだろうと感じていた。また、何だかんだザックはルイのことをきっと信用しているのだと思っていた。

 しかし、ザックは次第にルイの家から物を盗み始めた。

 最初はルイはザックではないと信じ込もうとした。だってザックは彼の友達だもの。そんなことする訳ない。

 ところがある日、ザックが自分の家から盗んでいるところを目撃してしまった。

 ザックは袋を持って裏口から走っていったのだ。

 数日間、ルイはなぜザックがそんなことをするのだろうかと考えた。そして彼は本当に信頼できる友情など存在しないことに気づいた。友達は裏切る。友達は喧嘩する。仲直りしてもまた喧嘩する。

 ルイは喧嘩したくなかった。だから彼は黙ってただザックと話すのを数日間避けるようにした。

 するとある日、ルイが部屋に入ろうとしたら、ザックが袋を持って走り出てきた。ルイの好きなシャツの袖が袋から出ていた。ザックは以前ルイから聞いて、そのシャツがルイの一番好きなシャツであることを知っていた。

 「一体どうして?」ルイは震えた声で聞いた。

 ザックはルイを睨んだ。「それはお前が嫌いだからだ!最初から友達なんかじゃねえんだ!」

 ザックはルイを押しのけて、階段を大きな音を立てて下り、玄関のドアを勢いよく閉めた。

 ルイは深呼吸をした。目の前で盗まれるのはこれが初めてだった。

 そして彼はもう二度と友達を信用することなどできないと思った。


 ルイの母は、彼にできることは自分の行動を変えることだけだと言った。人の反応を直接変えることはできない。でも、人に優しくすること、人を癒すこと、微笑みかけること、希望や安心感を与えることなどを選択することはできる。

 今、ルイには彼女がいた。ルイは彼女がとても好きだった。

 しかし、また間違った友達と付き合い始めてしまった…


 ルイの二人目で最後の友達はジムだった。ジムは殺し屋だった。

 ルイはなぜジムと友達なのかよく分からなかった。別にジムのことは全く好きではなかった。ザックは少しは人間性があったが、ジムには全くなかった。彼は純粋に悪だった。彼は人を残虐に殺害し、捕まることはなかった。

 ジムが直接的に言うことはなかったが、ルイはジムが殺すのが好きなことを知っていた。

 「俺は弁護士だったら、客には意地悪だな。」

 「ジム、お客さんには優しくしなきゃダメだよ。」

 ジムはルイを嘲笑った。

 ある時、ジムは「ルイはおっとりし過ぎだ。」と言った。

 ルイはジムに何て言われようとあまり気にならなかった。ルイは彼女のことが好きだったから、ジムのことはどうでもよかった。

 ジムは彼女がいなかった。当たり前だけど。

 ある時、ジムはルイのことを価値のないゴミだと言った。

 ルイはそういうことを言うジムは彼の本当の友達ではないと思った。ジムは人の気持ちを考えることなど一切しなかった。

 ある雨の夜、ルイは家に向かって一人で道を歩いていた。

 突然、誰かに後ろから刃物で刺された。

 ルイは振り向くと、ジムが悪魔のような目をしてそこに立っていた。

 「ジム」ルイは囁いた。

 ルイはお腹や首、顔を刺された。両頬と額も刺された。

 ジムは最後に一回ルイを睨み、「そら見ろ」というような満足した表情を浮かべた。そして逃げ去った。

 ルイは自分がバカだったと思った。最初は泥棒と友達になり、次は殺し屋と友達になってしまった。

 彼は彼女や彼の母、父を可哀そうに思った…

 すると、天使が彼に下りてきた。

 「ルイ、悲しまないで。助けは来ているから。」

 天使は微笑んだ。今まで見た中で一番優しい微笑みだ。

 「あなたは良く生きた。自分を誇りに思って。確かにあなたは今死ぬことを後悔しているけど、心配しないで。きっと大丈夫だから。」

 天使は彼の手をとり、そっと上に引き上げた。

 彼は天国に行くのである。

 彼は世界を去るのである。絶望、悲しみ、みじめさを残して。子供が泣いている状態で、人が苦しんでいる状態で、ジムやザックのような悪い人が残っている状態で。ジムは全く人への慈悲がなかった。ルイはジムも早く死ぬといいなと願った。

 彼は人生をあんなくそみたいな奴に奪われることが信じられなかった。でもまあ、今がいいタイミングなのかもしれない。

 一つの若い命が消えた。一つの若い魂が消えた。

 一部の人の人生は大きく変わってしまう。

 ルイは自分の人生を思い返した。おせっかいな父はあまり好きじゃなかった。優しい母は好きだった。彼女は母に似ていた。

 彼は一度裏切られたにも関わらず、また友達を作ってしまったことも信じられなかった。でも、そういう風に人は作られているのかも。裏切られても、また人を信じようとするように。

 それでもルイは大失敗をしたと思った。

 ルイは創造的だった。生きている間は多くの小説を書いた。これらの小説は未来の人たちに読み継がれる。自分が子供を作ることはできなかったけど。

 ルイはこれが最後で、いよいよ時が来たと思った。

 残念なのは、人生に未練があることだ。色んな嫌なこと、間違い、苦しみや痛みはあっても。恥や裏切り、悲しみもあっても。

 意識を失う直前に、ルイは自分が泣いていることに気づいた。涙は雨に混じって落ちた。

 さようなら、僕の人生。さようなら…

 思ったより楽だった。彼は天使が「きっと大丈夫だから」と言っていた意味を理解できた。

 彼は目を開けようとしたが、開けられなかった。天使が歌っているのが聞こえた。

 「小鳥がやってきた

 高く飛ぼうとした

 石に当たり

 もう飛べない

 でも心配しないで

 大丈夫だから

 キスしてあげる

 夜を乗り越えられるように

 もうすぐ朝がくる

 たくさんの愛を感じる

 今日も明日もこれからも

 人生は続くのだから…」

 彼が目を覚ました時、もう天国にいた。

 彼はまず神様に挨拶し、天国に入れてくれたことについて感謝を述べた。

 次に彼はお花のガーデンに入った。ここではいつまでも休んでいていい。近くには水たまりがあった。この水たまりは普段は水色だが、彼が望めば、世界で何が起きているか見ることができた。母や父、彼女がどうしているか。彼はすぐには見る勇気がなかった。

 しかしある日、彼は水たまりを覗き、願ったところ、彼の家族は何とかやってそうで安心した。

 彼女は新しい男性を見つけ、その人と結婚した。

 普通の人だったら怒りを感じるかもしれない。でも、ルイは彼女が幸せで嬉しかったので、特に問題はなかった。

 ルイはザックやジムを見ることはなかった。まあ、たまに一瞬見かけることはあっても、もう関係なかった。

 だって彼らとは二度と会うことがないから。彼らは天国には絶対に行けないから。

 ある日、天使が下に降りて、父を天国に招き、数年後には母も招いた。

 ルイは彼女は取り戻せないことを知っていた。

 でも彼の夢は叶った。

 彼は死んだ後、小説が売れて有名で人気になった。そしてもちろん、天国ではお花がたくさんあって豊かで幸せだった。

 だから、心には穴があいていて、他の人のことが好きになった彼女以外にその穴を埋めることができる人はいなくても、彼は十分幸せだった。

 彼はザックやジムを許せなかった。特にジム。彼はどうしてもそこまで強くも信仰深くもなれなかった。でも大丈夫だった。神様は彼の弱さを許してくれた。神様は人に対し残虐である人間を許すことはなく、お互いを許せない人間も受け入れなかったが、反省する人や他の人のために尽くす人には優しかった。

 ルイは天国での永遠の人生の中で、神様や天使たちに繰り返し感謝を述べた。

 最終的には過去を忘れることもできた。

 いいことも悪いことも。

 彼の罪や間違いと共に、洗い流された。

 天使が彼のことを天国に招いてくれたおかげで、全ては大丈夫になった。新しい希望に満ちた人生の始まりだった。そして今度はその希望は本物で、一過性ではなかった。

 ルイは天国で、母と父、天使たちと神様と共に永遠に幸せに生きた。ずっと幸せに。いつも、いつまでも。

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